第2話 スライムを食べると若返るみたいですが、僕は興味がありません

 目が覚めた。

 ベッドで上体を起こす。寝汗が酷いな。匂っていなければいいんだけど。


「もう、入院して何日目かな……」


 僕の名前は、才羽相馬さいばそうま

 持病を持っていて、幼少期より入退院を繰り返している。学校には、年に数回行けるかどうかだ。友人もいない。

 消毒用のアルコールの匂いが、体に染みついているので、臭いのだそうだ。

 まあ、今の時代なら、タブレットやPCがあれば、外の世界と繋がれる。

 勉強も……、一応問題ない。

 学校に行かなくても、僕はテストを受けられる。勉強は、気の向いた時に行えばいいかな。


 タブレットを起動させて、今日のニュースを確認する。


「今日も、スライムの話題で持ちきりだな~」


 兆円単位で取引されている。

 日本は、スライムの売買に税金をかけて、国の負債を賄っている。後数年で、黒字化するらしい。どんだけ借金を抱えていたんだよって話だ。


「それと、スライム研究所に、また侵入者か。独占し過ぎだよ」


 その研究所は、僕の病院から近いんだけどね。

 窓からその施設を見る。


「もう……。自走砲とか凄い防備だな。戦車も見える。戦闘ヘリコプターとか五月蠅いんだけど」


 自衛隊の駐屯基地を新規に作り、隣接するほどだ。いや……、スライム防衛隊に名称変更したんだっけ。ミリタリーマニアには、聖地なんだそうだ。日本だというのに実稼働してる動きを見れるんだしね。

 それと、オークション会場と新空港かな。

 世界中の金持ちが、集まっているみたいだ。


「若返りじゃなくて、病気を食べてくれる生物はいないのかな……」


 ため息が出た。

 若い僕は、スライムに興味がない。

 それよりも、健康な体が欲しい。

 後何年、病院生活なのか。

 後何年……、生きられるのか。





「えっ? 退院ですか?」


「うむ。この一ヵ月間、血液の数値も安定している。一度息抜きに家に帰ってもいいだろうね。リハビリにもなるだろう」


 珍しいこともあるもんだな。

 僕の持病は、悪化する一方だったんだけど。

 ここに来て、改善が期待できたのか。

 何が良かったのかは、医者も分からないらしい。


「でもそうですね。体調はいいかもしれません」


 医者と看護師が、いい笑顔を向けて来た。



「相馬さん。忘れ物はないですか?」


 家政婦さんが、紙袋に荷物を入れて僕のベット周辺を確認してくれた。


「タブレットとパソコンさえ忘れなければ、僕は生きて行けますよ」


「もう……。衣類の忘れ物とかを聞いているんですよ?」


 苦笑いが出てしまう。

 こうして、僕は退院した。


 タクシーで、病院を後にする。

 ここで、警報が鳴った。

 全ての信号が、赤になる。


「また警報か……。諦めの悪い人たちがいますね。もしくは、動物かな?」


 タクシーの運転手が、状況を説明してくれた。


「戦闘ヘリまで発進していますね。こりゃ、武装集団が押し寄せて来たのかもしれません。しばらくは、動けないかもしれませんね。お客さんどうします?」


 ここは、治安のいい日本だというのにな。


「このまま、待ちます」


 家政婦さんが答えてくれる。


「はあ~。スライム特需なんて言われていますけど、こんな市街地に研究所を作らなくてもいいと思うんですけどねぇ……」


 無人島に研究所を作ったら、戦争になっていたかもしれないと、誰かが言っていたな。

 まあ、有人の島に研究所があったんだけど、その島は、今は立ち入り禁止になっている。

 内地であり、山が天然の防壁になってくれているこの地が、最終的に選ばれたのだとか。


「まあ、街にも補助金が出ていますし、不満は少ないですよ。世界最新の施設が揃っているのですし」


 市民税・住民税が、東京の十分の一であれば、移住者も多い。スライム関連の仕事も豊富だしね。僕は、最先端の治療を受けるためにこの街に住んでいるんだし。


 ――ドカン


 上空から大きな音がした。


「あ~あ。ミサイルを撃ちましたね。飛行機で逃げようとしたのかな?」


 ここは日本だというのに、戦時特例法が適用されている。

 それでも、市街地でミサイルとか……80年代の映画かと思ってしまうよ。


 スライムは、人類にとって、それだけの価値のある存在になっていた。一部の特権階級には欠かせない存在なんだ。スライムを食したことがあるかどうかが、ステータスにもなっている。

 そして、それだけじゃなかった……。


「あ~、見えました。今日は怪鳥が群れを成して襲って来たみたいですね。人ではなかったみたいです」


 スライムを食べた鳥か……。

 人間がスライムを食べると若返るだけだったけど、動物が食べると、怪物モンスターになることが知られている。大型に変化して、恐竜みたいになるんだ。長高一メートルで小型。大型だと二十メートルくらいかな。


 そして、現在……。

 日本には、大型のモンスターが徘徊するようになってしまった。

 他国は、スライムとモンスターの輸入を固く禁止して、被害は日本だけに留まっている。

 食事しには、来るんだけどね……。

 独占する意味。利益と損害の天秤。スライムは、良くも悪くも日本を変えてくれた。



「まあ、若い僕は、興味がいないんだけどね」

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