現代でスライムが発見されました~食べると若返るみたいですが、僕は変異種を食べて無双します~

信仙夜祭

第1話 海底でスライムが発見されました

 その日、海底探査が行われていた。

 海底資源の調査だったと、記録されている。深海に眠るレアアースの採掘調査

……。



「装置が、海底に着地しました。異常はありません」


「こちらも確認。視界が確保されるまで待機」


「了解。ライト点灯します」


 しばらくすると。視界が開けて来た。浮き上がった堆積物が、沈み始めたのだ。


「ゴミが見えるな。空き缶とペットボトルか? プラスチックも沈むんだな」


「まあ、世界中で見られる光景ですよ。海水で分解されない、産業廃棄物ですね」


 人の手の入っていない、最後のフロンティアの筈だったが、人の手から離れたモノは、到達できていた。

 その光景に、調査員たちは、呆れ顔だ。


「それでは、採掘実験を開始する。海底にドリルで穴を空けて、液体窒素を注入する」


「了解。作業開始」



 固まった海底の泥は、氷の浮力にて浮上を始める。また、ワイヤーが付いているので、海流に流される事もない。

 それでも、得られる泥……、レアアースは微量と言うしかなかった。


 作業は完了し、無事に海底の泥の採取に成功した。船に、レアアースが積まれたのだ。

 ほっと胸を撫で下ろす、調査員たち。


 硫化水素濃度も、さほどではない。

 船に引き上げた泥の氷が溶けるのを、待っている時だった。


「教授! 生物がいます! 氷の中から出て来ました!」


「深海生物を捕まえてしまったかのか? どれどれ……、生きているな。それと、クラゲの一種みたいだな」


 ゼリー状のその生物は、ウネウネと動いていた。

 すぐに水槽が用意されて、捕獲される、海底生物。

 だが、次の瞬間に、水槽が割れた。いや、穴が空いた。


「……何だこの生物? プラスチックを分解したぞ?」





 数日後、世界中に震撼が走った。

 海底で発見された新生物は、プラスチックを分子レベルまで分解する特性が見つかったからだ。

 炭素を排泄したのだ。排泄物は、コークスと同等の火力を示した。


『クリーン生物発見! 廃棄プラスチック問題の解決になりえるか?』


『地球の神秘! 化石燃料は、この生物が生み出していた!?』


『地上での養殖実験が始まる。世界中が注目! 各国は、発見した海域の調査を国連に要求!』


 あらぬデマが飛び交う。

 そのデマに煽られてか、新生物の研究に、国から多額の予算が下りた。

 研究者たちは、我先にと奪い合いを始める。


 まず、養殖実験が行われた。

 結果として、真水だろうが、海水だろうが生きられる生物だと分かると、主食探しが始まる。

 ただし、乾かしてしまうと、数日で煎餅の様になって死んでしまうことも分かった。


 何を食べるのか……。

 養殖は、可能なのか……。


 レアアースやレアメタル、地上に多く分布する金属ベースメタル、有機物……。果ては、熱水鉱床で生産される硫化水素ではないかと言い出す研究者もいた。だが、新生物は、どれも食さなかった。

 プラスチックを除いて。



「結論として、炭素を分解してエネルギーを得るようだな……。海中に溶けた二酸化炭素を主食にしているのかもしれない。海底植物……。植物と動物の中間生物なのかもしれない。有機物を食べないのは、深海での進化と考えるのが妥当かもしれないな。もしくは、退化なのか。原生生物の可能性も捨てきれない」


 食性は、まるで植物であった。ただし、日光を必要としないが。

 もっとも好んだのが、ナフサだったことが大きかった。原油も食すみたいだが、脂分を残す。飼育して、繁殖を行うためには、環境整備も必要なため、当初の計画通り廃棄プラスチックを与えることで主食の問題は片付いた。


 繁殖の方法は、難航した。

 どうあっても増えなかったのだ。しかも、雌雄の区別もない。

 一年間の実験の後、ようやく分裂する方法が見つかった。

 水圧が高く、光の届かない環境であれば、効率よく分裂することも分かった。


「まるでうなぎの生態だな。生殖ではなく分裂だが。本当に原生生物なのかもしれない」


 ここまで来ると、廃棄プラスチックをコークスに変換する、『便利生物』として認知されていた。





 次に、遺伝子の検査が行われた。

 人が触れても、有害な物質を分泌しないことは分かっていたが、遺伝的な情報が調査された。

 そして……、遺伝子検査を行ってみて、分かったことがあった。


「この生物は……、かなり長い年月を生きられる可能性がある。制御できているガン細胞と言える」


 数万年、もしくは一億年以上生きている可能性が出て来た。

 人類が知る、史実上の最長命の生物の可能性。

 地上生物とは、全く異なる生命の可能性が出て来たのだ。


 そして、ある研究者が発見をしてしまった。


「新生物に触れた手が、若返っている?」



 その生物を食すと、テロメアの修復が行われることが分かった。特殊なタンパク質が発見されたのだ。

 ただし、寿命は延びない。

 老化の改善が期待できる――だけだった。


 それでも、世界が動き出す。

 八十歳の富豪が、新生物を食すと、五十代の肉体に戻った。

 ネットで、ビフォーアフターの様子が公開されると、国家予算クラスの資金が動き出した。



 その生物に、学名が付けられた。

 学名『スライム・スライム・スライム』──通称『スライム』……と。

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