四
「欲望に忠実になりなさい」
「彼女は罪を犯しているのだから」
「だから貴方も」
「彼女のため、償わせてあげればいい」
「そして貴方も」
「彼女と同じところに行くといい」
「彼女だって、罪を犯しているのだから」
「貴方が彼女の罪を、償わせてあげればいい」
嗚呼、私は今、色欲に溺れているのだ。
そして、その穢らわしい欲望を彼女にぶつけようとしている。
なんて幸せな、なんて甘やかな行為。
私は彼女のいる客室に向かった。
寝台に眠る彼女に、手を伸ばす。
その可憐な体に、幾つもの痕をつける。
紅の花が首筋へ、鎖骨へ、胸元へと、
徐々に小さな刺傷のように彼女を侵食していく。
彼女は緩く身を捩ると、だんだん意識が浮上してきたようだ。
「...?どうか、しましたの?」
そう言い終わる前に、私は彼女の小さな口を塞ぐ。
呼吸もままならず、快楽に溺れ喘ぐ彼女に、
私は手に隠し持っていたカッターナイフを突きつける。
キラリ、と銀色の光が反射し、彼女の恐怖に怯える瞳を映す。
「どうして」
「なぜ?私を、どうするのですか」
震える彼女の綺麗な黒髪を撫で、もう一度その柔い唇にキスを落とす。
赤く蒸気した肌は、酷く艶めかしく、私の色欲の目に映るのだった。
柔い、女性らしい細い首元を、強く、強く、強く、締めつける。
ほんのりと熱くなった温度が重なり合う肌越しに伝う。
彼女は溺れたように呻いては、私に手を伸ばして、
縋り、助けを求めている。
恐怖に、疑心に、錯乱に、蝕まれていく。
嗚呼、なんて愛おしい姿なのだろうか。
美しい黒髪は乱れ、硝子玉の瞳からは涙が零れ落ちている。
やがて冷えた喉から、ひとつひとつ温度を零す。
その声は、酷く拙く脆く、やはり愛おしかった。
私はそんな彼女の胸元にナイフを刺す。
鮮やかに赤いその血液が、つう、と流れ、
私の手のナイフに滴り、私を、彼女を、汚していく。
徐々に彼女の首元から体温が消えていく。
嗚呼、この甘やかな行為が、
どうか彼女の償いになりますように。
嗚呼、この穢らわしい愛情が、
どうか彼女の全てになりますように。
彼女を貫いたナイフを抜くと、
その銀色は血液を塗りたくられ、光を反射させた。
ほんの少しの罪悪感と、狂おしい寵愛が、
今、この瞬間に終わったのである。
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