「今日はこの部屋で寝泊まりするといい」

「ええ、本当に、色々とありがとう」

私は彼女のいる部屋と向かいの客室へ足を向ける。

「おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

少し眠たそうな優しい声を聞いて、

彼女にひとつキスを落とし、私は部屋を出た。


 部屋を出ると、私はベッドへ体を潜らせる。

愛おしい、ただ、そう思った。

閉じ込めたい。ころしてしまいたい。

依然、その欲望は消えることはない。

私はそんな劣情を隠すように、目を瞑った。


「閉じ込めたい」

何処からか、そんな声が聞こえた。

「ころしてしまいたい」

聞いたことのない声。

「自分のモノにしたい」

悪意と欲望をかき集めたような声。

「食べ尽くしてしまいたい」

それでいて、全てを許すような声。


 目を開くと、そこには黒い、黒い影が見えた。

まるで御伽話のような、冷たい、冷たい、

見たことも無い影。


「閉じ込めたい」

「美しい彼女を」

「ころしてしまいたい」

「私に縋って助けを求めて」

「自分のモノにしたい」

「私とだけ愛を重ねて」

「食べ尽くしてしまいたい」

「その肌を、声を」


 振り切っても、壊しても、絶えず聞こえる声。

黒い影は、冷たくニヤリ、と嫌に笑っている。


「聞こえているのだろう」


「欲望に忠実になりなさい」

「彼女は罪を犯しているのだから」

「だから貴方も」

「彼女のため、償わせてあげればいい」

「そして貴方も」

「彼女と同じところに行くといい」


「彼女だって、罪を犯しているのだから」

「貴方が彼女の罪を、償わせてあげればいい」

 その言葉は、

その悪魔の囁きは、

私の耳にこびりつき、脳裏から離れなくなるのだった。


脳ミソが燃えている。

骨髄が燃えている。

心臓が燃えている。

嗚呼、嗚呼、嗚呼、

胎が、燃えている。

私は、欲望をころす枷に酔っていただけだったのだ。

その瞳に、硝子のような肌に、鼓動する胸元を。

この心臓に、脳髄に、

このまま衝動を任せてしまったら、

彼女はどうなるのだろうか?


 その欲望は、いつしか体を支配して、

私の身体を無意識に動かすのであった。

いつしか、私は理性という枷の酔いから醒めていた。

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