三
「今日はこの部屋で寝泊まりするといい」
「ええ、本当に、色々とありがとう」
私は彼女のいる部屋と向かいの客室へ足を向ける。
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
少し眠たそうな優しい声を聞いて、
彼女にひとつキスを落とし、私は部屋を出た。
部屋を出ると、私はベッドへ体を潜らせる。
愛おしい、ただ、そう思った。
閉じ込めたい。ころしてしまいたい。
依然、その欲望は消えることはない。
私はそんな劣情を隠すように、目を瞑った。
「閉じ込めたい」
何処からか、そんな声が聞こえた。
「ころしてしまいたい」
聞いたことのない声。
「自分のモノにしたい」
悪意と欲望をかき集めたような声。
「食べ尽くしてしまいたい」
それでいて、全てを許すような声。
目を開くと、そこには黒い、黒い影が見えた。
まるで御伽話のような、冷たい、冷たい、
見たことも無い影。
「閉じ込めたい」
「美しい彼女を」
「ころしてしまいたい」
「私に縋って助けを求めて」
「自分のモノにしたい」
「私とだけ愛を重ねて」
「食べ尽くしてしまいたい」
「その肌を、声を」
振り切っても、壊しても、絶えず聞こえる声。
黒い影は、冷たくニヤリ、と嫌に笑っている。
「聞こえているのだろう」
「欲望に忠実になりなさい」
「彼女は罪を犯しているのだから」
「だから貴方も」
「彼女のため、償わせてあげればいい」
「そして貴方も」
「彼女と同じところに行くといい」
「彼女だって、罪を犯しているのだから」
「貴方が彼女の罪を、償わせてあげればいい」
その言葉は、
その悪魔の囁きは、
私の耳にこびりつき、脳裏から離れなくなるのだった。
脳ミソが燃えている。
骨髄が燃えている。
心臓が燃えている。
嗚呼、嗚呼、嗚呼、
胎が、燃えている。
私は、欲望をころす枷に酔っていただけだったのだ。
その瞳に、硝子のような肌に、鼓動する胸元を。
この心臓に、脳髄に、
このまま衝動を任せてしまったら、
彼女はどうなるのだろうか?
その欲望は、いつしか体を支配して、
私の身体を無意識に動かすのであった。
いつしか、私は理性という枷の酔いから醒めていた。
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