第34話 グループを守るために
へたり込む律樹。
代わり口を開いた夕果は、諭すように言った。
「律樹……あたしは同情なんていらない。もういいのよ。元を辿ればあたしが――」
「でも俺、夕果を助ける気なかったんだぜ? ……鉄矢が窓を割らなかったら、ギリギリまで扉を開けるつもり、なかったんだ」
律樹は半笑いになりながら、話を続ける。
「鉄矢が夕果を襲ってしまえば……もし既成事実があれば……そうすりゃ、さ……鉄矢は七海とは付き合えなくなるだろ?
俺は頭悪いけど、それでも友達を欺く脳はあったんだぜ? はは、ははは……信じられっかよ……」
「そう口車に乗せたのは、あたしよ」
「それでもよぉおお! 俺は――」
「未遂で終わったのに、お前らうるせぇよ」
つい思ったことが、口から零れていた。
途端に黙る二人。
口走ったが、これで良かったと思った。
一旦、二人は冷静になるべきだ。
「そんで? だから律樹は……夕果の友情関係存続計画に乗った、でいいのか?」
「いやだから、俺は夕果を傷付けて――」
「律樹、勝手にお前が決めつけるなよ。傷付いたのかは……夕果が決めることだ」
未遂で終わる如きで終わる友情じゃないだろ。
律樹も夕果もちゃんと悔いている。
オレの目から見て、二人は後悔していた。
「……そうね。別にあたしは、気にしてない。利用されたなら、自業自得だってわかってやった。今までだって、律樹が七海に告白しないように言い聞かせて、苦しめてきた」
律樹は夕果の恋愛否定に賛同して、我慢をしていたのか……。
捉えようによっては、反動が来たとも言える。
夕果なりに、それは罪悪感だったのだろうか。
「それは違うぜ! 俺が七海の為にって出しゃばって失敗したのも――」
「律樹は失敗なんてしてないよ。そう思わせていただけ。律樹のことも、ずっと騙してたの」
「な……ッ!」
次いで明かされたのは、夕果が律樹を騙していたという真実。
過去に何か失敗したことは察していた。
が、それは夕果の仕組んだことだったらしい。
しかし、だ。
夕果の暴露を聞いてもまだ、律樹は顔色を変えなかった。
「それでも夕果の考えに納得したのは俺自身だ。俺の意思で従ったんだ。それに対してよ……夕果は俺を信頼して頼んだのに、俺は……俺はっ――」
「それでも、最終的には鍵を開けてくれたでしょ。それで充分よ」
「あれは窓が割られたからで……」
「だって……あのまま閉じ込められていたら、あたし――」
急にオレの方を向き、なぜか顔を朱くする夕果。
しかしその表情は……どこか諦めを孕んでいて、よくわからなかった。
「……ごめん、今のは何でもない。鉄矢……本当にごめんなさい」
改めて謝罪される。
そんなことせずとも、嫌なくらい共感できる。
夕果は、本当に友情を大切にしたいのだ。
彼女の気持ちは、ひしひしと伝わった。
「いいや、お前らは何も間違っていない。その通りだと思ったよ。恋愛は友情を壊す。それなら――オレも賛成だ」
これはそう悪い話じゃない。
小波は宏に懸想しても、叶わない。
宏は夕果に恋しているが、叶わない。
律樹もまた友情の為に、告白する気がない。
……恋愛なしにこのグループで青春を謳歌する。
それは決して高い望みではないのかもしれない。
「お、おい……それ……ほ、本当かよ……」
「……いいの?」
「ああ。オレは恋愛なんてするより、友達に部活サボらせて遊ぶ方が、楽しかったぜ」
「は……ははっ……なんだそりゃ、マジかよ」
二人は苦笑いを浮かべながらも、心底嬉しそうな内心が垣間見える。
小波への恋は今からじゃなくてもいい。
宏は受け入れないし、ズルズル引き摺って、それからでも大丈夫だ。
何しろオレには、切り札もある。
『徹夜狂い』という、切り札が……。
他の誰かにとっては弱点かもしれないが、小波相手ならば、その真実は希望となった。
「そういや、宏はどうなんだ……? あいつも恋愛否定派?」
だとすれば、夕果への恋は内緒にしたままということになる。
一応、その辺は知っておきたい。
「ううん、宏はモテるし……放置しておけば、その内彼女でも作ると思って言ってない」
「宏のことは今いいだろ……本当に、なんだ……許してくれて、ありがとよ」
律樹は改まっていた。
しかし、オレの思考は今そちらになう。
グループ外なら恋愛もいいという部分に、引っ掛かりを覚えたからだ。
――あれ……?
何かがおかしい。
おかしな部分がある。
――だって、それじゃあ……あいつは?
あいつ……宏は、犯人を知っていた。
真相が明らかになって、宏が犯人を庇った理由については納得がいく。
わからないのは、その次だ。
――宏は、夕果が恋愛を否定しているって、知っていたんじゃないか?
庇うにしては、やけに……オレに対して同情的だったと思う。
なんなら、女子バド部の誰かに罪を擦り付けることだってできたはずだ。
それが……宏はヒントまでくれた。
あの感じ、本当は――動機まで気付いていたんじゃないだろうか。
――だとしたら……おかしいじゃないか。
宏はオレに「彼女を作って欲しい」というようなお願いをしたのだから。
――ふと、宏の言葉を思い出す。
『グループ内でカップルが生まれれば、俺も自信が持てると思ってさ。陰キャらしいだろ?』
しっかり「グループ内で」とか言っていたし、間違いなく宏は知っている。
つまりだ。
宏は……グループを一度、壊そうとしたのか?
夕果は恋愛を否定している。
その理由は友情関係を守るため。
だから、宏は俺達のグループを壊したいのだ。
すべては――夕果が恋愛をできるように。
……一瞬で肝が冷えた。
その真相は、オレの恋愛を見送るのに充分だ。
知らぬ間に、宏の計画に加担させられようとしていたのである。
――馬鹿にしやがって、
オレはピエロかよ。
宏は元陰キャで同情しかけていたが、忘れる。
絶対に宏の恋は阻止する。
夕果も、宏には惹かれていないみたいだし……。
――オレは、オレ達の青春を守ってみせる。
前のグループとは違う。
今度こそは、上手くいきそうな気がした。
୨୧┈••┈◇ 現時点の恋愛スタンス ◇┈••┈୨୧
・鉄矢→小波 :恋愛否定派
・小波→鉄矢 :自分の心に嘘を吐く
・宏→夕果 :グループ内恋愛のため暗躍
・夕果→×? :恋愛否定派
・律樹→七海 :恋愛否定派
・七海→鉄矢? :?????
୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧
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