第14話 美人姉妹と街巡りデート
今日を一緒する相手はお隣の住人だ。
となると、必然的に待ち合わせなんてせず、玄関を出てすぐ集合である。
これが恋人同士のデートであれば、わざわざ待ち合わせたかもしれない。
けど、オレ達は知り合って間もない間柄だ。
目的だって、たかが地域の散策だしな。
「おはよぅだよぅ」
「おはようございます」
意外とシンプルな服装だが、髪や顔の薄いメイクに拘りが見られる。
対する
前回、蜂に襲われたからだろうか。
「二人の私服、相変わらずお洒落だな」
「ふふん、気合入れてるからねっ!」
「はぁ……今日は歩き回ると言いましたのに」
そう言う割に、小波の方もそこそこ気合入っているように見えるが……姉に合わせたのだろうか。
まあ小波の方が几帳面っぽいしな。
「そんじゃ、教えてくれよ。この辺のこと」
――時刻は午前十時。
地域巡りと言っても、ただ散歩をするだけだ。
二人ともよく散歩はするらしく、その関係でオレにも声をかけてくれたらしい。
「わたし自身もこの町は気に入っていますの。強いて文句があるとすれば――」
「文句……?」
「ええ、文句です。地域巡りをする度にナンパされるのが、悪いところですわね」
「そりゃ、小波くらい美人ならな……」
「――っ」
オレだって初対面で蜂がいなければ……ナンパまがいなことをしていたかもしれない。
結果としては、運が良かった。
まさかクラスメイトどころかお隣さんだとは思わなかったから。
色々と振り返りながら反省していると、小波はなぜか黙り込んで、勝手に歩き出してしまう。
――どうしたんだ?
追いかけようと歩き出したところ、隣にいた七海に腕を掴まれた。
「むうっ! ぼ、僕だってナンパされるもん」
「何を張り合っているんだよ……」
「ほら、早く行きますわよ」
一人前を歩く小波の、呆れた声にオレ達も急ぐ。
良かった……。
どうやら小波は気にしていないようだ。
まずは近場の公園に向かう。
その途中、線路沿いにお洒落な店の数々が並ぶのを見かけた。
小波が指差した先を見れば、人だかり。
休日だからだろうか、若者が多く、まさに学生の町って感じである。
「そういや、お前達ってここ出身じゃないんだってな。いつからこっちに?」
「中学の頃! 親戚の伝手で引っ越したんだぞ」
「へぇ。ちなみに出身って何処?」
「それは……うーん――……」
オレの質問に対して、月宮姉妹はお互いの顔を見合わせた。
知られたくないことなのだろうか。
実は帰国子女だとか?
「田舎ですの。ですから秘密ということに」
小波が、唇に指を当ててあざとく微笑む。
ほんとに出身国の言語を話せない帰国子女で恥じらいがあるとか?
いや、どこ出身だからって関係ない。
これ以上は無粋だな。
「向こうらへんにも、お店あるんだぞ!」
「へぇ、色々あるんだな」
「そだっ、食べ歩きなんてどぅ?」
「いいんじゃないか? お昼前だし軽くだけど」
「えーっ、こういう日くらいはもぅお昼とか気にせず楽しもーよっ」
別段に観光地という訳でもないのに、商店街のように店並びがいいのは、それなりに需要があるからだろう。
試しにタピオカ専門店に並ぶと、流石のオレも気付くことがあった。
「なぁ……カップルっぽい男女多くね?」
「だねぇ!」
「ですわね」
朝からイチャイチャしているカップルときたら……まったく理解し難い。
毎日がお祭りだと思っていそうで、賑やかなのは悪くないけどな。
「二人は大丈夫なのか? カップルに見られるかもだぜ?」
特に小波は宏に好意を抱いているのだ。
あまりそういう噂を立てられたくないはず。
そう考え彼女に目配せをするも――。
「わたしの場合、鉄矢くんはお姉ちゃんとセットに見られるように距離を置いてますので」
「こ、小波!? ……あぅ」
なぜか頬を赤らめて、髪先を弄る七海。
彼女も年頃の乙女……恥ずかしいのだろう。
オレもそう変わらない。
前の学校にいた時も、仲の良い女友達がリードしてくれたとはいえ、中々慣れないものだ。
「それで、撮りますの?」
カップルばかりの場を耐え抜き、タピオカを買ってすぐのこと。
小波はオレが肩からぶら下げている一眼レフカメラを指差した。
「エンスタはやってるとは言ったけど、映え意識はそんなにねーよ?」
「え、じゃあ何の為のカメラ? 気になるぅ~」
「風景撮影用だ」
せっかく草木の緑が街中に共存しているのだ。
是非とも背景イラストの素材用に、自分で撮っておきたい。
実際に自分で撮った風景の方が、思うような角度とシチュエーションで使いやすいからな。
「勿体ないよぅ! 撮ろっ!」
そう言って七海がカメラを奪い去った。
次いで、グイっとオレと小波を引き寄せピースサインを作ると、もう片方の腕を伸ばしてパシャリと音を立てる。
「あぁ~っ! もっかい!」
タピオカを持った三人が映っているものの、若干オレの顔がフレーム外に切れ出ていた。
すると、今度はさっきよりもさらにグイっとオレを引き寄せる。
「いやタピオカ撮るんじゃなくて、オレ達撮りたいのかよ!?」
「むうっ、上手く撮れない~っ!」
「せめて落ち着いてシャッター押してくれ」
「え~、たまに小波のカメラで練習してるもん」
今度の写真は上手く撮れていると思ったが、七海の納得のいくハードルは高いらしい。
「タピオカだけなんて誰にでも撮れますわね」
「そうだよぅ! これはタピオカを飲んでいる僕達の写真だよぅ」
「っ、なるほどな」
言われてみれば、そういうものか。
前のグループでも、よくみんなで集合写真を撮ったものだ。
後にみんなで共有みたいなことしていたから、撮られていたことに気付かなかった……なんてことも多かった。
「わかったよ。そんじゃオレが撮るから」
「ほんと? やったぁ!」
二人と身体をくっ付けるようなことはしない。
少し距離を開けながらもフレームに収めるよう調整し、写真をパシャリと撮った。
確認してみると、七海の撮ったものよりも綺麗に映っている。
「あら、上手ですわね。ここまでなんて……」
「すごいすごい! こんなのもぅ大天才を名乗っていいんだぞ?」
「言い過ぎだって」
褒められて悪い気はしないが、心に引っ掛かりを覚える。
前のグループでは、一度もオレから写真を撮るなんてことはしなかったからだろう。
今や絶縁した奴らも、あの時は気が合った。
だから写真もかなり多いけど、各々好き勝手にとっていただけに、雑なものが多い。
あいつらとの思い出は、雑なまま――終わってしまったのだ。
「……鉄矢? 暗い顔してない?」
「あ、いや……オレが写真を撮るのって風景だけだから、新鮮な気持ちに浸っていただけ」
「風景の方はよく撮りますのね。趣味ですの?」
「まあな。そんな感じ」
びくりとしてしまったが、上手く誤魔化せた。
タピオカジュースがぬるくなってしまう前に、飲みながら散歩する。
やがて第一目的地である公園に着いた。
一息吐こうとベンチに座ろうとしたが――。
「……あれ?」
ポツリポツリと、小雨が降ってきた。
天気予報ではずっと晴れだったはずなのに……スコールだろうか。
「あの屋根の下に行きますわよ」
ともかく、傘も持ってきていない状況だ。
オレ達三人は、雨宿りを
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