第13話 6人グループ

 やや強引に誘われたバスケ部の練習参加。

 バドミントンの時と同様に場所を借りるような形だったが、悪くはなかった。

 体力は少ない方だから踏ん張りがきかないけど、熱くなれるスポーツだと思う。

 熱中し過ぎて、気付けば体力が尽きていた。


「楽しかったぜ、鉄矢。またやろうや」

「……おぅ」


 上手く声が出ない。

 後先考えず全力だったようだ。

 正直、春季の大会のことを言われた時は、何の冗談かと思った。

 アレは完全に友達の為だった。

 あの時好きだったユキが見に来たから、限界以上の力が出たに過ぎない。


「うぉおいっ! こんなところにいたよぅ」


 予め買っていたスポドリを鞄から取り出し飲んでいると、七海が体育館にやってきた。

 月宮姉妹からは距離を取ろうとして、彼女達と下校時間が被らないようにしたので、唖然とする。


「なんだなんだ……」

「話したいことがあったんだよぅ」


 オレにはないけど。


「実は僕も、ここの出身じゃないんだぁ」

「あ? ああ。そうなのか」


 話が読めない。

 七海はふふん、と鼻を鳴らし何やら上から目線だが、言いたいことがわからない。


「僕もこっちに来た頃は、町のことを知らなかったから迷子になったことがあったんだよぅ」

「……はぁ」

「でねでね。いつも小波が迎えに来てくれたんだけど、鉄矢には迎えがいないでしょ?」

「そもそも迷子にならないから、要らないけど」


 何をアホなことを言うのかと呆れる。

 すると、七海は人差し指をオレのむなもとに置いて、ほほふくらませた。


「そ、そういう油断がダメなんだぞっ」

「そりゃ、七海みたいな美女がその辺に落ちてたら危ないだろうな」

「不意打ちは止すんだよぅ!」

「で、油断がダメなのはわかったけど、七海はオレに何を求めているんだ?」


 顔をかあぁっと赤らめる七海。

 次いで、彼女は指を絡めながら恥ずかしそうに顔を隠して、照れたように尋ねた。


「明日……暇?」

「オレに何か用なのか?」

「迷子にならないように明日、僕がこの地域を案内してあげるんだよぅ。感謝するんだぞ?」

「え……っ?」


 それはツキナミにも言われたこと。

 正直なところ、月宮姉妹の恩返しとして頼むことは考えていた。

 だが、七海の方から提案されるとは思わずに拍子抜けしてしまう。


「……そっか。ハチの件で借りを返したいってことなら、オレの方からお願いしたい」

「むうっ? 借りとは別なんだよぅ。僕がそうしたいからそうするだけだぞ」

「いやいや、それは悪いって。七海の大切な休日を借りる訳だし」


 困ったな。思ったよりもお人好しみたいだ。

 どうにかして、ここで説得しておきたいんだが。


「もぅ……鉄矢はわかっていないんだ。その程度じゃ、返しきれない恩なんだぞ」

「だからって、そう自分を安売りするなよ」

「や、ややや、安売りなんて、しないんだぞ! 鉄矢以外にこんなこと……言わないのにぃ」


 目をうるうるさせながら、ポコポコと肘鉄を食らわしてくる七海。

 どうにも蜂の一件で、七海には懐かれてしまっているらしい。

 こういう時は、そうだな……。


「り、律樹……なぁ、七海のこれどう思うよ」


 七海は楠井と仲が良いみたいだし、律樹もそれなりに繋がりはあるんじゃないかと踏む。

 頑固な七海をどうにかする方法を知りたいところなのだが。

 すると律樹はキョトンとした顔でオレを見返す。


「あっ……ああいや、そうだな。地域の案内って、二人だとデートってことになるだろうし――」


 途中まで言って、言葉を止める律樹。

 同時にぼーっと上の空になった七海を見て、益々よくわからない。

 わからないが、取り敢えずデートってことになるのは、不味い。

 変なうわさでも立ったらどうする。


「で、デートじゃねぇだろ。遊びに行くわけじゃないんだから」

「へ……?」

「ん?」


 なぜか「違うの……?」と顔を青くする七海。

 なるほど、あれかな……デートということにすれば、男のオレが金を出すと踏んだとかだろうか。

 前の学校にいた女友達も、そんな感じだった。

 別に空気を読んでくれればいいけど、今回は元々の目的が違うじゃないか。


「言うなれば、散歩しに行くんだよ。気になった場所があれば、後日一人で行く」

「一人はねーだろ。俺も誘えや」

「じゃあ律樹を誘っていく。七海の期待通りでなくて申し訳ないな」


 声色が良くなかったが、律樹はすぐに調子を戻してくれた。

 乞食しようとしていた七海は、ぐぬぬと唸る。

 そんな時、新たに体育館にやってくる二人がいた。


「お姉ちゃんが遅かったので、来ましたわよ」

「俺は、律樹が遅いから来たぞ」


 小波と宏だった。

 体育館からは少しずつ人が減っていき、気付けばオレ達が最後に残っている。

 すなわち、閉門時間が近づいていること。


「悪い。明日のことはまた後で話そう、七海」


 急いでオレ達は学校を出ようとする。

 そんな最中のこと。

 小波に裾を引かれると同時に、耳元で囁かれた。


「お姉ちゃんから聞いたとは思いますが、明日はわたし達に任せてくださいな」


 いや、何も聞いてない。

 つまりなんだ……小波も付いてくるのか?

 小波は、オレだけに聞こえるよう小声で続ける。


「ところで今日のお昼、何かありましたの?」


 お昼というと、男子達に絡まれたこと?

 それとも楠井が近づいてきたこと?


「宏くんと、何かありましたの?」

「え、何もないけど」


 素で答えたが、小波は納得のいかない表情。

 宏とは本当に何も話していないのだが……。


「宏がどうしたんだよ」

「……わたしが、片想いしているだけですわよ」

「……ほぅ」


 小波は宏にそうしているのか。

 さっきから宏達にさとられないようオレに話かけていることに合点がいった。

 とすると、明日にオレの地域案内に付き合ってくれることも、宏には知られると不味いことだろう。


「安心しろ。オレはこれでも空気が読める男だ」

「信頼しています」


 小波と宏あたりが付き合ったとして――それって、どうなんだろうか。


 元々5人……月宮姉妹と宏、律樹、楠井は仲が良かったみたいだし、オレが加わって6人組のグループが、出来始めてしまっている。

 その発端に、昨日『LEIN』のグループが作られたからな。


 オレも5人が嫌いな訳じゃないし、居心地がいいとすら感じる。

 でも恋愛だけは例外だ……グループは、痴情のもつれ一つで簡単に崩壊する。

 ちょっとした不安が、頭を過った。


 結局、月宮姉妹に対する貸し借りははぐらかされてしまったと気付いたのは、帰宅後だった。








୨୧┈••┈◇ 現時点の恋愛スタンス ◇┈••┈୨୧


・鉄矢→× :恋愛否定?

・七海→? :???

・小波→宏? :???

・律樹→七海? :???

・宏→夕果? :???

・夕果→? :???


୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧



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