第7話 すごい運命だね!
四人で試合を始めて一時間と数十分の間、オレも全力で挑んだ。
意外と接戦になったのは良かったのだが、問題は律樹の実力だ。
「律樹って、本当に経験者じゃないのか?」
「そういう鉄矢こそよぉ、あのスマッシュ打ち返せるとは思ってなかったぜ」
「偶々だよ」
他のスポーツの経験が
まあ運動神経が高いだけで、ドロップショットがほぼ必ず決まる瞬間にもスライスして勝負に出たりしていたから、経験者でないのは間違いなさそうだ。
接戦に持ち込めただけ、褒めてほしいくらい。
「ひゃ~惜しかったね。やるじゃん戸叶くん」
「お、おぅ……」
楠井が急に手を
何かと思えばハイタッチしたいのだろうか。
オレは若干ぎこちなく、遅れてその手にタッチした。もちろん右手で。
結局は負けてしまったのだが、それでもハイタッチするべきなのかよくわからない。
それよりも、オレの動揺を見破られていないかが問題だ。
楠井はすぐに自分のスポーツドリンクを取りに行ってしまったし、そんな様子はなかった。
けど、彼女は素が陽キャっぽいから、ノリが違って気付かれないか、ちょっと怖いところがある。
「……どうしたんだい?」
「え、いや、なんでもない」
隣にきた宏に
不味い。表情に出ていただろうか。
正直なところ、ビビっている。
楠井というか、月宮七海もそうなのだが、前の学校にいたギャル達よりもよっぽどスキンシップが激しい女子だと思う。
というか、結局オレはあのギャル友達に
だから不慣れであることを見抜かれたくない。
ゆえに、宏の前でも取り
「…………そうかい」
宏は一瞬目を細めて見てきたが、すぐに思い違いだと
勘弁してほしい。
こんな風にハラハラしたくなくて、大人しくしていようとしたのに。
――自信のない方向へばかり、勝手に足が急いでいる。
多分それは、近々再会するツキナミに兄貴分としてのオレを見せたいという、それだけの見栄っ張りな出来心。
「そういえば戸叶くんってLEINやってる? 交換しよ」
「おい待った。俺が先に鉄矢と交換する」
「え~なによぉ宏。まだ交換してなかったわけ~? 本当におなクラ?」
煽るような物言いをする楠井だが、宏もまた鼻で笑う。
幼馴染らしい遠慮のなさである。
こんな空間に、本来オレはいるべきじゃないんだろう。
そう思ってしまう自分自身に嫌気が差す。
馬鹿が、早く立ち直れよ。
いつまで――――初恋を引き
「そういえばエックスはやってる? エックス(意味深)してなそうな童貞には見えないし」
「わざと
「なるなる~。あたしもそっち派」
……でしょうね。
まあ実際には、オレはエックス(SNS)もやっている。
ただイラストレーター用のアカウントしかないので、流石に教えられない。
結局、そんなこんなで三人と連絡を取り合うような仲にまでなってしまい、学校を出た。
三人は本当に幼馴染なようで、家の方向も校門を出てすぐにオレの宿舎とは真逆だった。
***
「これでいいのかねぇ」
三人と別れてすぐ、運動して汗をかいた頭を
あの三人は明らかに陽キャ……これでは前の学校と変わらない。
同じ
本当は、本当のオレは――。
「
せめて気心の知れた相手なら、こうもならなかっただろう。
しかし、ツキナミへ何度も連絡はしているものの、反応がなくて困った。
「何が柄じゃないんですの?」
「うおっ!?」
突如、背後から急に現れた小波の姿に、心臓が止まるかと思った。
振り返るとそこには、休み時間の時とは打って変わって疲れ切った顔の七海もいる。
すっかり空も
二人は遅くまで何をしていたのだろうか。
「二人も部活で?」
「いえ、わたしがお姉ちゃんに勉強を教えていまして」
「ちょっ! 姉としての威厳がないことを暴露しないでよぅ」
唇を
心配しなくても、七海は誰から見てもせわしない子に見えるし、小波の方がちゃんとしていると思われていることだろう。
「……それでか。んで、同じ方向に帰っていくオレを見て、声をかけたと?」
「ええ。スズメバチの件、ちゃんとしたお礼は出来ていませんもの」
「いや、いいって……あまり他人にその話しないでくれれば」
するとムスッとした顔になる小波。
くそぅ、美女はどんな顔しても可愛いらしい。
とはいえ、オレも
オレは転校生というだけあってポッと出の男って感じだし、人畜無害な普通の男ってことを証明しなけりゃならないのだ。
「鉄矢くんって、頭はよろしくて?」
「
「なっ……察しがいいですこと」
そりゃわかるだろ。
ついさっき、姉に勉強を教えていたって言うんだから、当然小波の武器はソレとなる。
お節介を焼きたいお年頃なのだろうけど、変な男の食いものにされそうで、危なっかしさも感じる。
「小波はダメだなぁ。勉強教わってご褒美になる訳ないんだぞっ」
「お姉ちゃん……帰ったらまたテストします?」
「ううっ、ごめんよ鉄矢ぁ。僕に助け舟は出せないみたい」
「いや、鼻から期待してなかったが」
「しょんなぁ……」
――なんて、小波のお節介したい気持ちを適当にいなしていると、下宿先のマンションに辿り着いた。
「それじゃ、オレはここだから」
「あら、そうですの」
「ん……?」
二人を置いて手を振ろうとした時、上品に微笑みながら、小波の足取りはオレの横に並ぶ。
まさか――。
「わたし達と同じでしたのね」
「すごいすごい! すごい偶然だね!」
「…………」
二の句が
「わたし達とお隣でしたのね」
「すごいすごい! すごい運命だね!」
「…………」
ここって、壁薄くないよな?
というか、普通に他の奴にバレたらヤバい事実が発覚してしまった。
なぜ、
――いや、いつ知っても同じか。
オレの新生活……ダメかもしれない。
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