第4話 転校初日

 ――ふたつつか高等学校への転校初日。


 意外と大きな校舎だった。

 以前通っていた高校よりも広々としている。

 転校生のいう立場を体験するのは二度目だが……小学生の時よりも緊張の度合いがすごい。

 まずはオレに割り当てられた教室へと行こうとしたのだが――。


「……迷った」


 初めての校舎だ。

 何階に何の教室があるのかも知らなかった。

 パンフレットくらい読むべきだったと後悔。


「ありゃお前、見ない顔だな」


 と思いきや、見知らぬ生徒が話しかけてくれる。

 話しかけてきた男は、オレよりも体格が大きく、強そうで一瞬ビビった。


「あ、ああ。転校生なんだ」

「それでか。通りで、見たことないわけだ。一年?」

「そうだけど、同級生?」


 オレの質問にコクリとうなずく男。

 いたよ……オレより身長高い高校一年生。

 そこまで差はなさそうだが、一目でガタイの良い体躯だとわかる。


 それはそうと、さっきからオレの頭から足元までジロジロ見られて、若干怖い。

 そういう趣味でもあるのだろうか。

 でなくても、また陽キャと関わるのは程々にしておきたいのだが……。


「なるほどな。校舎内にうとくて迷っている訳だ」

「うぐっ、その通りだ」


 痛いとこを突かれる。

 わざわざ口に出さなくてじゃないか……。

 まあ彼なりに親切なのかもしれないけどさ。


「ところで、高一にしてはすごい筋肉だな」


 半袖から見える腕の筋肉だけでもムキムキで、とても同級生には思わなかった。


「まあな。筋トレは日課だし、バスケやってんよ」

「ああ、それで」


 バスケをやっていて鍛えているなら、納得だ。

 しかし改めて見てもガシッとした大柄な体躯に、オレよりもやや高い身長。

 オレもバスケ部には何度か誘われてやっていたことがあるから、妙に納得した。

 外見に囚われず動けるヤツもいるが、バスケ部員は基本的に迫力のある連中がほとんどだと思う。


「んで、転校生のお前も結構身長あるけど、バスケとか興味ねぇか?」

「あ、生憎……引っ越ししたばかりでしばらく部活に入る気はない」


 無難に答えておくしかない。

 興味がないと言えば嘘になる。

 けど、こんな眩しい連中といても、また失敗するビジョンが頭から離れない。


 ……そんな時のこと。

 背後から別の男子の声がかかった。


「律樹ー、そんなところで何やってんだ? てか、そいつは?」


 さて、そろそろ何処かへ行ってくれるかと思えば、別の男子が増えた。

 どうやら筋肉男の友人らしい。

 今度は如何にもチャラ男って感じの奴だ。


「ああ、転校生らしくてよ。部活に誘ってたところ」

「へぇ。クラスは同じなのかい?」

「知らん」


 筋肉男の投げやりな返答に、チャラ男は溜息を吐いて呆れる。

 まあ普通は近づいてきたら、同じクラスだと思うだろう。

 でもオレは、筋肉男の名前さえ知らないのだ。


「一応Dクラスらしいんだが」

「んじゃ、俺の方と同じだな。んで――」

がのてつ

「よろしく鉄矢。俺はぐもひろむ。こっちのデカいのは他クラスだから憶えなくていいよ」

「おいコラ! しんどうりつ。また部活誘うぜ」


 結局、自己紹介をする羽目になったが、ちょうどチャイムが鳴りだす。

 幸い、校舎で迷子になっていた問題は、チャラ男こと南雲が案内してくれることになった。




 ***




「――さて、今日からうちのクラスに新顔が増える。さ、入ってきなさい」


 ホームルームの開始と共に、教室内をしずめた担任教師が廊下のオレを呼んだ。

 一々教室の外から入る必要はあるのだろうか。

 おみたいで、好かない風習だ。


「戸叶鉄矢。東京出身。趣味はバイト。よろしく」

「もっと何かないのか? お前」


 担任教師が訝しげな顔で無粋なことを言ってくる……無茶ぶりはやめてほしい。

 オレは、平穏を欲して転校してきたのだ。

 それが、また弄られキャラルートに入ったりして、クラスの中心になんてなりたくない。

 友達なんて数人いればいいんだから、適当に答えておけばよかろう。


「じゃあ……好きなものはお金です」

「――そういうことじゃなくてな」


 と言いつつ諦めてくれたのか、オレは教室の後ろの空いている席へと誘導される。

 周りからは多少奇異なものを見る目が集まったが、構わない。

 多少ズレた奴って印象の方が、後々困らないだろう。

 まあ問題はそれより――。


「やぁ、隣の席だったね」

「……おう」


 まさかの隣人が、さっき会ったチャラ男だった。


「面白い自己紹介だったじゃないか」

「本当にそう思っているなら、感性が死んでる」

「冗談。でも、仲良くしたいのは本当さ」


 うわぁ出たよ。

 陽キャのコミュ強テクニックか……。

 隣の席ともなれば、さすがに無視はできない。

 いや、ちょっとした話相手くらいはオレも欲しかったし、さっさと切り替えるか。

 オレのオタク臭さが見抜かれるかもしれないという怖さは、やはり拭え切れないが。


「……はぁ。よろしくな、宏」

「うん、よろしく鉄矢。それとさっき冗談って言ったの訂正するよ。苦手そうな顔して最初から名前呼びとか、やっぱ面白い奴じゃん」


 ……参ったな。

 以前の学校では陽キャに囲まれていただけあって、サラッと呼んでしまった。

 しかも苦手そうな顔を表に出してしまっていたというのは、指摘されると恥ずかしい部分だ。


「これなら反対側の子とも仲良くなれそうだね」

「反対……?」


 そう言う南雲の視線はオレを横切って――南雲とは反対側の隣人へと向けられていた。

 何かと思えばそこにいたのは――。


「……あ」

「一昨日ぶり……ですわね? 戸叶くん」


 オレが引っ越しした初日に……スズメバチに襲われていた美女二人の片方が、そこにはいた。

 あの時と違い今は制服。

 ただ彼女の……お嬢様っぽい様相は崩さず佇んでいた。

 それは良いとして、だ。

 ――彼女が見るからに不機嫌なのは一体どうして……?

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