第11話 心中
なんでかと言われたら、小説家になるためという目的はある。
でも、正直に話して、どうなる?
さっき、嘘をついたのは、自分の家庭事情を悟られたくなかったから。
私の家庭事情を知った時、蔑まれるのではないかと思ってしまった。
こんなやつに蔑まれるなんて、耐えられない。
もし今、正直に「小説家になりたいの。」なんて言ったら、光はなんて言うのだろう。
バカにするだろうか。茶化してくるのだろうか。
いや、多分、「へぇ〜」とか、「そうなんだ」とか、そんな感じの返事をする。
私が、嘘についての話をしたときもそうだった。
聞いてるのか、聞いてないのかわからないような返事。
文学部なのだから、ちょっとくらいは議論になるかと思ったら、拍子抜け。
何にも役立たない。光も、みんなと変わらない。
だからいっそ、利用してやる。私の作品を書くために。
私は、学校に友達と呼べるような人はいない。
話し相手は、せいぜい教師か、母親だけ。
光は、話し相手に置いておこう。
なんて考えてたら、光が気を遣って、答えなくていいなんて言ってる。
じゃあ、最初から聞くな。
その気遣いも、全部嘘。
私が、母親に敬語を使うのと同じ。
嘘を使うのは、自分を守るため。自分を守るのは、自分のため。
その人を傷つけたくないのは、自分がその人に嫌われたくないから。
その人を悲しませたくないのは、自分も悲しくなるから。
結局、人間は自分のためにしか動けない。
だから私も、全部自分のために動く。
あぁ、もう下校の時間か。
帰りたくない。
光が、さようならと言っている。
きっと、育ちが良いのだと思う。
だから、何も考えていない。自分が救われるのは、当たり前だと思っている。
……帰ろう。
あの時、なぜ私は本当のことを言い直したのだろう。
別に、蔑まれたくないのなら、ずっと嘘をついていればよかったのに。
でも多分、その嘘は、違うと思ったから。
あぁ、母親が、ただいまと言っている。死んでなかったんだ。
あるまじき嘘 @Gpokiu
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