第9話 取捨選択

クソクソクソッ!

私にはこんなことしてる時間なんてないのに!


「ごめんね、円香ちゃん。私が倒れたばっかりに……」

「………。」


だったら死ねよ。

私に迷惑かけてる自覚があるなら、死んでしまえ。


「ゴホッ、ゴホゴホッ」

「窓開けますね。」

「ああ、ありがとうね。」


お前のためじゃねえよ。

私にうつらないようにしてんだよ。


クソッ!こんなことになったのは、どれもこれもコイツのせいなのに!

こんなボロアパートに住んでんのも、病気になったお前を看護しなきゃいけないような状況も、どれもこれも全部!お前が浮気して、離婚して、のくせに親権だけはしっかり持ちやがって!


『円香ちゃんは、もちろん私の方に来るわよね?』

『え,、ええと、私は……』

『ねぇ、どっち?どっちについていくの?』

『あぁ、お母さんの、ところに、行き、ます。』

『そう。円香ちゃんなら、そう言ってくれると思ってたわ。』

『はい……』


今でも後悔している。

どうして、あの時、父親の方に行きたいといえなかったのか。

浮気がダメなことだと、わかっていたはずなのに。


(いや……)


わかっていても、父親を選ぶのは、不可能だっただろう。


『円香、お前、だいぶ成長したんじゃないか?』

『……、』

『おいおい、だんまりかぁ〜?ほら、もっとこっちに来てぇ。』

『い、いやぁ……』

『お前……、父親に抵抗するんじゃない!』

『だ、誰か、助けて__


……私は、小説家になる。

小説家になって、このクソみたいな家も、過去のしがらみも、全て取っ払って自由になる。

私は、一人で助かる。

勉強もできないし、運動もできない。可愛くないし、明るい性格でもない。

でも、


“あなたの描く物語に、あなたはいなくていい。あなたは、嘘をつけばいい。全ては、虚構の世界であるのだから。“


私は、嘘で本当を得る。

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