第三十三話「それぞれの変化」


「うん、しかも転校してすぐアレだったから……」


 優姫は転校して来て、すぐイジメに遭っていた。後から主犯に理由を聞けば優姫が東北出身者なのに訛りが無いのをイジったら今の自分達世代はそこまで訛ってないと流され逆に恥をかいたという下らない理由から始まったらしい。


「そうだったな……でも、すぐ解決しただろ」


「お節介な誰かさんが担任の先生に言ったんだよ……ね?」


 優姫にはバレてるらしい。もちろん俺がやった。かっこよく解決なんて出来なかった俺は担任ではなく教頭に相談という形で話を持ち込んだ。学校側は外部に漏れるのを恐れ即座にイジメを潰したという流れだ。


「……初めて知ったよ」


「ふふっ、でもあの後に同じクラスになれてホッとしたんだ……」


 実際クラス替えの後は優姫の周りは普通に戻った。俺が動いた理由は家でのイライラを発散しただけ……その時はそう思った。だけど実際は好きな子を助けたかっただけだと後から気付いたんだ。


「よし……そろそろ集中するから用が有る時は声かけて」


「うん、頑張って……悠斗、先輩」


「今は仕事じゃないから……気にしないでくれ優姫」


「え……うん!! 悠斗!!」


 だが実際、頑張ってと言われてもレンズから夜空を眺めるだけなんだけどな。でも不思議と今日はいい写真が撮れると思った。そうして俺は撮影に没頭した。


「……ふぅ、よし」


「ね、悠斗?」


「ん? なんだ? もう次の休憩?」


「違うよ……そろそろ時間が……」


 あれから何度か休憩を取って二人でココアを飲んだり話したり穏やかに夜は過ぎて行った。だから時間の感覚を完全に忘れていた。


「ああ、本当だ……あと20分か、そうだな戻ろう」


「うん、荷物まとめておいたよ」


 見るとシートも折りたたまれて鞄の中に全て収納されていた。片手で大変だったろうに俺が夢中になってて任せ切りだった。


「ありがとう助かる……でもさ、つまらなかったろ? 寒いしさ」


「ううん、久しぶりに長く一緒にいられたから」


「そうか……あの、優姫……」


 今だ。今しかない。俺は覚悟を決めた……今日こそ彼女と話そう。そして全てに決着をつける。彼女に罵られても何を言われても構わない。この関係を清算する。




「どうしたの?」


「その、優姫に大事な話がっ――――「お~い!! 悠斗~!! 末野さ~ん!!」


 だが俺の決意はあっさり覆る事になる。見ると薄っすらと遠くに懐中電灯の光が揺れていた。その声の主は快利だった。


「快利ぃ~、何で今なんだよ……」


「なんだ? そんな情けない声出して、さっきラジオで濃霧注意報が出たから心配になって迎えに来たんだよ」


「そうだったんですか……じゃあ急がないと」


 優姫の頬が心なしか赤くなっていたように見えたが気のせいかもしれない。だって周りが暗過ぎる。それにしても快利タイミングが悪過ぎる。


「そう、だな……」


「荷物は俺が持つから、お前は末野さんを支えてやれ、先導するから」


 快利が懐中電灯で道を照らして気付いたが確かに周囲に霧が発生して足元も危なかった。俺はこの変化にぜんぜん気付いていなかった。


「優姫、危ないから今度は手を……繋ごう」


「うん……ありがと」


 繋ぐというより腕に抱き着いている感じだが昔はデートの時は毎回こんな感じだったのが懐かしい。それにもう今度はこの手を絶対に離さない。


「二人とも、もう少しでペンションだけど気は抜くなよ、それと撮影中に変わったこと無かったか?」


「変わったこと? 特には……無かったけど?」


「あっ、そのぉ……」


 唐突に言った快利の言葉に俺は何を言ってるんだと思ったが優姫は違った。何か有るようで口を開いていた。


「末野さんは何か有った?」


「えっと、気のせいだと思うんですけど、人……もしかしたら動物の影を見たような気が……したんです」


 俺は撮影に集中してたから気付かなかったのか? そもそも山を下りる途中まで濃霧にすら気付かなかったくらいだ。気を付けなきゃいけない。


「この山に熊は居ないはずだが……この濃霧だし気を付けよう……もしかしたら他の山から迷い込むとかも有るかもだしな」


「ああ、明日は奥の湖で撮影会だし警戒するよ快利」


「朝霞さんから聞いた……ま、熊だろうが無粋な連中だろうが関係無い、このペンションは安全だから、入った入った」


 そして俺と優姫がペンションに入ると快利は外から施錠を確認しながら言った。


「快利? なんで外から?」


「他の箇所の見回りもするからな、これでも管理人だぜ? じゃあ二人ともおやすみ、あと悠斗、送り狼になるなよ~?」


 そう言って後ろ手にドアを閉め更にシャッターまで閉める念の入れようで俺が文句を言う前に閉め切られていた。


「快利!! ったく、優姫……とにかく部屋まで送るよ」


「うん、大丈夫……悠斗のこと信じてるから……」


 その言葉で最初は怒りそうになった。だけど優姫の寂しそうな顔を見て怒りはすぐ引っ込んだ。まず話してからだ俺は何も出来てない。それから部屋に戻ると那結果さんが、まだ部屋にいて紅林は寝ていた。体調は戻ったと聞き安心した。




「よく寝た……ふぅ」


 時間は朝の七時過ぎ。あの後すぐ寝たから睡眠時間は十分だ。間も無く朝食の時間で俺は着替え始めたのだが、そのタイミングでノックの音が響いた。


「「あっ……」」


 こっちの答えも聞かず開いたのは正面のドアでは無く隣の部屋と繋がっている快利の改造した方だった。その隙間から紅林が覗いていた。


「なに、してるんだ?」


「昨日、来てくれたらしいから……少し挨拶をと思って」


「別に気にしてない。あと着替えたいんだが?」


 その言葉で紅林は大人しくドアを閉めた。先に下から脱がなくて良かった。着替えが終わりスマホで呼び出すと紅林はすぐに来た。


「タイミング悪かったわね、ごめんなさい」


 俺が寝てると思いコッソリ見ようとしたそうだ。一応は納得したが同時に昨日の事を思い出す。見た感じ体調の方は回復したようで問題無いから安心した。


「体調はもう良いのか?」


「ええ、それより昨日の車の中で話の続き……いい?」


 その言葉に頷くと紅林は優姫が寝ているのを確認すると口を開いた。

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