第三十二話「二人だけの夜間撮影」

――――現在


「お~い、悠斗それに末野さんも、説明終わったぞ?」


「「えっ!?」」


 快利に声をかけられ周囲を見ると周りは閑散としていて勝手に飲み会を始める者や寝る準備をする者に別れていた。


「じゃあ伝言係の快利くんから二人に伝えよう、まず今後の予定だが夜間撮影が深夜の0時まで、それ以降は鍵は閉めちまうからな?」


 快利の説明では夜間撮影に行かない人間は、ここで軽い飲み会しても良くて、出たくない者は自室に戻って寝るのもオッケーで自由解散だそうだ。


「そうか……」


「どうしたの悠斗?」


 優姫が聞いて来るから俺は気になっていた事をつい喋っていた。それはサークルの悪しき伝統だ。


「例年なら心霊写真撮れるかチャレンジや、女子限定男風呂盗撮チャレンジ、そういう企画が有ったんだ……」


「えぇ……」


「俺は毎回ヌードモデルにされかけて外の露天風呂に行けなかった」


 過去二年間、横瀬&幸手さんの他にも破天荒な先輩たちの企画は多く今話した以外にも過激な企画が多々有った。それが今年は無いのに違和感が有った。


「それは私が無くしたからだ!!」


「朝霞……ま、当然か」


 そこで話に入って来たのは代表の朝霞だ。ほんのり頬を染めているのは少し飲んでいるからだろう。見ると後ろで女子数名がゴメンと手を合わせている。


「横瀬さん達は、はっちゃけていたが私は違う!! 犯罪行為や倫理的にNGな事はしない。だから明日の企画は健全にカップルイチャラブ撮影会だ!!」


「は?」


「分かっている北城……お前は明日までパートナーを決めておけ、紅林さんと末野さんどちらも魅力的だから大変だろうがな!!」


 いや何の話ですか? 確かに盗撮やら夜中に廃墟に入り込んで撮影よりは健全だが何か違くない? そもそも俺の候補が死ぬほど気まずい相手なのだが?


「あの、朝霞?」


「任せろ、あの二人には私が近付かせんよ!! 明日の午後まで時間は無いから励めよ北城!! は~っはははははは!!」


 そして朝霞は回収されて行った。回収したのは相方の副代表の男で大変そうだな……あいつ名前はド忘れした。今度さり気なく聞いておこう。


「で? どうすんだ、飲みならテーブルで手を振ってる奴らがいるが?」


 快利の言葉にふり向くと三芳が「末野さんだけ限定で~」とか言ってたから無視して俺は撮影を選んだ。


「いや俺は撮影に行く……少し夜空を撮りたくなったから」


 あの日の思い出が呼び起され自然と星空を撮りたくなった。山の中なら多くの星が見えると思う。それに一人で頭の中を整理したかった。




「じゃあ末野さんも一緒だな」


「え? でも……」


「二人は一緒に居なきゃダメだろ? こんな男が多いとこに置いて行くのか?」


 快利の言う通りだがダメだ。そもそも俺は一人で考えたい事が有るし夜の撮影は危険だ。足元も見えないし今の優姫じゃ危険過ぎる。


「いや、だが夜間は足場も悪いし寒いし優姫が風邪でも引いたら、それに」


「行っちゃダメ……かな?」


 俺を見上げて来る顔は過去を思い起こさせる。だが簡単に流される訳には行かない。俺はキチンと話して謝って……それで関係をリセットしてから……してから? 俺はどうしたいんだ?


「俺が写真を撮るだけ……だからな? 面白いことは無いと思う」


「……うん」


「それでも、よければ……来る?」


 どうしたいかどうするか……それよりまずは話さなきゃいけない。先の事を考えて今を先延ばしにするのはダメだ。だから俺から歩み寄る。そう思ったら自然と優姫を誘っていた。


「うん、行く……」


「じゃあ準備しようか」


 カメラは調整もしたいから持って来ていた。でも他は全部部屋だ。ちょうど紅林の様子も見れるかと思ったが予想外の横やりがが入った。


「そう来ると思ってコートや防寒着それに水筒にはホットココアを用意した!!」


「快利……準備が良過ぎない?」


「先読みは基本だ、ほら末野さんも割と寒いから、春でも夜だしね、悠斗なにか有ったら電話くれ、すぐ迎えに行く」


 快利に急かされる形で俺達はコートを羽織るとペンションを出た。


「助かるよ快利、じゃあ行こう…………優姫」


「うん、水筒とか私が持つから」


「分かった、足元には気を付けて」


 そう言って俺は自然と手を出していた。昔と同じように……でも出してから気付いた。昔とは違うと……彼女の腕はもう片方しか無い。


「大丈夫、こっちで持って後ろから付いて行くから」


「……ダメだ、高台のベンチまでは道が危ないから……嫌だったら言って」


 優姫の肘より上の残った部分、肩から上腕二頭筋の部分を掴んだ。


「え、きゃっ……悠斗?」


「カメラは構えるまでは首からかけておけば良いから、水筒と荷物お願いする……だから君は俺が支えるから……」


 今度は、今度こそ俺がそばで守る。それが僕が……俺がやりたかった事だ。




 なんて思ってたのに道中は何も無かった。そりゃそうだ危ない所は優姫をしっかりガードしていたし細心の注意をはらっていた。これで何か有ったら逆に問題だ。


「到着?」


「ああ、少し待ってて……シート敷くから」


 俺は快利の用意していた荷物の中からレジャーシートをベンチに敷く。レインボーなアレだ。快利が完璧に用意していたのはお見事としか言えなかった。


「ありがと……」


「ああ、そこで座って見てて……俺は準備するから」


 素早く三脚にカメラをセットしレンズ越しに見て何枚かシャッターを切る。星空は綺麗で都会のとはまるで違う。だから直接夜空を見上げていた。


「綺麗……」


「ああ、星が多いな」


 優姫も同じ気持ちだったらしく星空を見上げていた。だけど出て来た感想が俺とは少し違った。


「でも私は田舎と同じくらいの星で懐かしい……かな?」


「そういえば越して来るまでは東北だっけ?」


「うん、心機一転って感じだった……話した……よね?」


 そこで思い出した。中学の時に聞いた彼女が引っ越して来た理由だ。


「ああ、お婆さんが亡くなられたんだよな?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る