第二十九話「撮影と困惑の理由」


「――――以上だ。つまり基本的に夜まで自由行動。あと山中は危険だから各自で細心の注意を気を払うように、明日のスケジュールは夕食時に発表する」


 朝霞が集まった全員に説明していたが去年と同じだ。一年の六人や優姫は真面目に聞いているが二年の八人はソワソワしていた。早く動きたいのだろう。


「他の諸注意は……そうだった、一応全員に言っておくと付近の他ペンションの客と揉め事は起こさないように、特に三芳はな」


「は? 朝霞、何で俺が!?」


「他大学の人間もそこそこ居るらしい、お前が他校の女子に手を出しかねんからな」


 朝霞がトドメの一言を放ったが隣の小川は頭を抱えていた。俺も同じ気持ちだ。何で余計なことを言ったんだ朝霞よ。


「はっ!? その手が有ったか!?」


「余計なことを……朝霞……」


 小川が言うと朝霞は自分の失言にやっと気が付いたらしい。


「しまった!? 止めてくれ北城!!」


「それは無理だ」


 だが俺は即座に否定した。三芳は優先順位が低過ぎる。もう旅行の間、俺には別にやるべき事が出来たんだ。


「なっ!? なぜだ!? 数少ない常識人のストッパーが!?」


「俺は優姫と紅林を守るので忙しい、小川、頼んだ」


「はいはい見張っておきますよ、他ならぬ北城の頼みだからな?」


 俺がそっぽを向いて言うと快利がニヤッと笑っていた。それに二年の女子と一部男子から、どよめきが起こった。


「マジかよ先輩……総取りかよ~」


「どっちが本命なんだろ、でも先輩って……」


「……とにかく優姫も紅林も、いいな?」


 二人に確認するように言うと優姫はコクリと頷いた後に一歩近付いて来たが紅林は溜息を付いた後に俺みたいに、そっぽを向いていた。


「う、うん……でも、いいの?」


「はぁ、あくまで優先するのは優姫ですよ、先輩?」


 紅林は優姫のことが心配らしい。確かに不自由な彼女を優先するのは当然だろう。それに二人は戦友であり紅林にとっては恩人だから大事にしたいのだと思う。


「問題無いし、分かってる」


「なら結構です。私はオマケですので」


「くれっち……」


 それに頷くと明らかに壁を感じたが、そこで解散となった。再び奥を見ると快利が口パクで「がんばれ」と言っていて俺の三日間の奮闘が始まった。




「じゃあ最初は紅林の撮影技術を見たいから何か撮ってくれ」


「あの、それより優姫を……」


 やはり優姫を気遣っているが今回はサークルメインで優姫はゲストつまり外様だ。そして俺は二人の面倒を見るから先に身内を指導するのは当然だ。


「今回は撮影旅行だ、優姫は……そうだなモデルとかやってみるか?」


「ゆ、悠斗、私、脱ぐのは……それに昔より少し太ったし……」


「違う!! 普通に立ってポーズ取るだけ!!」


 なぜだ、なぜヌードモデルに直結してるんだ。とにかく優姫の誤解を解くと紅林は大人しく優姫の撮影を始めた。更に一年女子や三芳や小川も集まって来て優姫をモデルに撮影を始めた。


「今なら大丈夫だな……よし」


 これなら目を離しても安心だと俺はカメラの調整をしつつ周囲の風景を軽く撮る。ウォーミングアップみたいなもので適当にシャッターを切ると今の自分のステータスが分かる……気がする。


「ふぅ、まあまあか……この時間だから光量を考えなきゃダメだな、狭山さんに何度も言われたのに、それにブレてる……」


 何枚か見るが全部ミスが同じだ。合わせて更に数枚撮ると今度はシャッタースピードが微妙に速いのが分かる。芝生に座り込んで調整し、また構えレンズを見て調整を繰り返す。


「ダメだな、後は……」


「これでダメなの? きれいなのに……」


 確認をしているタイミングで後ろから声をかけて来たのは優姫だった。


「っ!? 優姫……モデルは?」


「うん、くれっちも他の人も、悠斗みたいにカメラと睨めっこで暇になって」


 紅林を始め他も写真をチェックしたり三芳ですら小川と一緒にノートPCで既にチェックをしていた。普段はあんなのでも写真に関してだけはマジな奴がサークルには多い。二十年以上も続いている伝統サークルは伊達じゃないという話だ。


「そうだったのか、あ、モデルお疲れ、意外と大変だったろ?」


「うん、ただ立ってるだけだと思ってたけど……色々と」


「え? まあ純粋な人物と風景なはずだからポーズはそこまで要求されなかったと思うけど……何をしたんだ?」


 だが俺の言葉は秒で否定された。


「え? あの、三芳さんに女豹のポーズとか分からなかったから、取り合えず四つん這いになってみたんだけ――――」


「三芳いいいいいいいいい!!」


 瞬間、叫んでいた。また守れなかった……三芳、許さんぞ。


「ちっ、もうバレたか!?」


「だから止めろって言ったんだ、悪いな北城!!」


 逃げ足が天下一品な二人は森の中へ消えた。


「おのれ小川まで、あの二人……飯の時は覚悟しておけ」


「やっぱり、そういう系、でも悠斗が喜ぶからって二人が……」


 優姫も少し自覚が有ったらしい。でも不用心過ぎる。目を離すと危険なのが、よ~く分かった。


「確かに優姫のは興味が……って腕は大丈夫なの、そんなポーズ取って!!」


「うん、ちょっとなら、それに左手は添える感じだし、右腕は凄い筋肉有るんだよ、ほら、見て!!」


 女子にしては力こぶが出て鍛えられた腕だ。握力も付いたらしい。元々バスケやってたし腹筋も少し付いてたと過去を思い出す。


「ああ、そうだったな……でも無理はしないでくれ、な?」


「うん……分かった、あの……悠斗は撮らないの?」


「……俺は人物は……撮らない、から」

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