幕間その2 理由


「では引き続き頼む……俺は別件で動くから後は任せた」


『はい、任せて下さいカイさん』


「ただ無理はするな、必ず周りに頼れ」


『はい、信矢さん達にも同じこと言われましたので、では失礼します』


 ピッと通話を切ると彼、秋山快利は目頭をつまんだ後に大きく深呼吸した。


那結果なゆか、あっちは任せて大丈夫そうだ」


「そうですね、助手いや、お目付け役も付いたからですか?」


「違う、信矢さんがサポートに回ってくれたからさ」


 自分の兄貴分が動いてくれるから大丈夫だろう。むしろ心配なのは最近できた友の方だと頭を悩ませた。


「春日井さんなら安心ですが……それより彼は本当に?」


「ああ、例の話を聞きに行った時にな、偶然会って後で調べたら黒だった」


「それは……なんと数奇な……」


「あいつは過去の俺だ……誰も救えなかった世界の俺なんだ……」


 そう言って快利はあの日の出来事を思い出す。臆病で警戒心が強い後の自分の親友となる男、北城悠斗との出会いだ。



――――快利視点


「久しぶりの一人か……少しだけ羽を伸ばすかね」


 最近は色々と考える事が増え動くのが大変だ。それに今の俺は自由に外を歩けない立場だ。何が原因で綻びが出来るか分からないし慎重に動かなくてはいけない。


「にしても広いな大学って……城みたいだ」


 そんなことを呟きながらサングラスをする。これは大事なお守りで迂闊に外せない。今日は背広ではなく私服なのは半分休みだからだ。そこで俺は構内を歩いていると敵意と哀愁を発してる不思議な男を見つけた。


「お、そこの、悪いが少しいいか?」


「ん? 俺……?」


 それが悠斗だった。気になって道案内を頼んだが案外と普通でアッサリ別れると本来の目的の教授の話を聞きに行った。二時間以上は講義を受け休憩も挟んだが半分くらいしか分からなかった。


「では、近い内にまた……」


「貴方なら大歓迎です。秋山社長にも、よろしくお伝え下さい」


「はい、父にも伝えます、では本日はこれで」


 そんな社交辞令を交わすと昼はすっかり過ぎていた。ルリの飯が食いてえ……でも今は大変な時期だし外で何か食べようと考えていたら悠斗が引くレベルで盛大に泣いていた。


「こんな所で男泣きか?」


「誰……って、秋山、くん?」


 声をかけた手前、放っておけず一緒に飯を食うことになった。お勧めのラーメン屋に連れて行かれると悠斗はポツリポツリと事情を話し出す。


「やっぱ女絡みか~」


「やっぱりって」


「振られたか? それとも捨てられたのか? そういう時は何かで発散すりゃいいんだよ友達でも誘ってさ」


「友達、いないんだ……」


 開口一番言われた言葉は俺にも返って来た。俺も友達は少ない。仲間や同僚は多いがイコール友達では無いし気持ちは理解できた。


「そ、そうか……なら、俺、付き合う……か?」


「……うん」


 そこで俺達はカラオケに入った。友人と入るのは初めてと言われ俺の高校時代を思い出してしまい盛り上げようと必死になり気付けば二人でバカみたいに歌った。




「秋山……くんも、このアニメ好きだったんだ」


「ああ、ゲーム原作のアニメ化で主題歌は一緒だからな?」


 悠斗は昔から一人遊びが多かったらしくアニメか勉強の二択という灰色の青春時代を送り後は筋トレしてたらしい。某知恵袋の回答が「筋トレでもしてろw」と言われたからだそうだ。ネット老人会に騙されたな。


「そうなんだ、好きなアニメの話とか初めてしたよ」


「俺もこういう話は意外とできなくてな……素直に嬉しいぜ」


 そんな感じで盛り上がっていると頼んでいたビールとツマミも到着し二人で乾杯した。意外にも悠斗はワインを頼んで一気飲みすると追加で泡盛も頼んでいる。酒好きだったのには驚かされた。


「うん、僕もぉ、あ、いや、俺も……」


「お? 本来は僕だったのか?」


「いや、それは……」


 歯切れが悪いが一人称が僕なのは悪いことじゃない。だから俺は単純に軽い気持ちで言った。


「隠す必要は無い別に好きな方で良いんじゃないか、合ってると思うぜ俺は」


「それはダメだ!!」


「え?」


 だから返って来た強い否定に驚かされた。今までのポワポワした感じが消え会った時と同じような深い闇を抱えた雰囲気に戻っていた。


「それじゃ弱い僕のままだ……誰も守れない、助けられない……好きな女の子を取り返す事もできない弱い……情けないままなんだよ!!」


「そう……か」


 キーンとマイクの音が響くが気にならなかった。その言葉は闇と何か別な強い意志も同時に持っていた。そして俺はビールを飲もうとしたら無くなっていた。


「だぁかぁら~!! 僕が、僕が弱いかりゃ~」


「おっ……俺の酒いつの間に……」


 すでに自分のグラスを五杯も空にして俺のまで飲んでやがった。やけに店員が出たり入ったりすると思ったら、こいつ端末操作を覚えたらポンポン頼みやがって少し目を離したらこれだ。


「どうしたら、どうしたらいいんだよぉ!! 僕はぁ……二人にっ……僕は!!」


「はぁ、それを決めるのはお前だぜ、悠斗?」


 ついにボロボロ泣き出してマイクを放り投げ大声で演説を始めたから俺は咄嗟にマイクをキャッチし端末も足でテーブルから落ちないように戻す。危なかった……。


「なら、二人ともぉ!! 今度こしょ!! 僕がぁ~!!」


「お? なんだ二人とも狙うのか?」


「だって、僕は……二人がぁ……」


 その後は完全に呂律が回らなくなって倒れた。しっかし酒癖が死ぬほど悪い。絡み酒で泣き上戸とか最悪だ。


「大丈夫か~、悠斗?」


「あき、やま……くん?」


「快利でいい、お前とは親友ダチになれそうだ」


 水を飲ませ少し落ち着くと立とうとするから肩を貸すと悠斗は不思議そうな顔で俺に尋ねた。


「ダチぃ?」


「俺の兄貴分が教えてくれた……親友と書いてダチと読むらしい」


「僕とぉ? なってくるのぉ~? こんな情けない僕と? 無能で、役立たずで、中途半端で~出涸らしのぉ~役立たずの三男とぉ~?」


 やはり闇が深い。女だけじゃなくて他にもトラブル抱えてそうだ。ここまで自己肯定感低いとは……てか役立たずって二回言ってるし。


「ああ……もちろんだ、だから次の店行こう!! 今夜は付き合うぜ悠斗!!」


「うんっ!! 快利!!」


 でも俺はコイツに手を貸したくなった。ほんの軽い気持ちだった。傷付きながら迷い、それでも進む北城悠斗という人間を応援したくなった。




「それがまさか『ストフリ事件』の縁者とは……これも因縁か」


「ええ、しかも今の話ですと関係者も含めてです」


 秘書の那結果は沈痛な面持ちで言う。だが当然だ。俺が取り寄せた資料の中身を読む限り悲惨の一言だった。


「だが凄いぞ、悠斗はさ」


「何がですか?」


「アイツはまだ完全に折れてない……悔いてるだけだ」


 この後の飲みでも酔っ払いながらアイツは二人を恨む以上に自分自身の行動を悔いていた。普通なら有り得ない……他者よりも自分の弱さを悔いる自己犠牲の精神と想いは間違いなく悠斗の強さだ。


「何が違うので?」


「後悔はしてるけど諦めてねえ……なら助けるのがダチだろ?」


「はぁ……相変わらずですね」


「昔からの性分だ。それに勇気ある者を助けるのは俺の役目だ」


 だから俺は友として……あいつが納得できる決戦の場へ連れて行ってやるとそう思ったんだ。



第二部 二年後の再会と出会い(完)

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