第二十話「妥協の関係性」
「あれ、大学の近くじゃんここ」
「優姫、この人達は悪い人達じゃないから……」
「うん、それより朝霞さんってどんな人?」
俺は家の場所とかの警告をしたんだが、なぜか朝霞のことを聞かれた。いや、それより早く部屋に入ってくれないだろうか。
「え~っと法学部で、しっかりした奴だ。真面目で成績もいいし優秀な奴だよ」
「そっか、くれっちと似てるね……」
「え?」
何で紅林さんの話をここで? でも今の顔は昔の付き合ってた頃の優姫に戻った感じで不覚にも俺は可愛いと思った。
「じゃ、今日も送ってくれてありがと……次のシフトで、また」
「ああ、また……次に!!」
優姫を見送ってから俺は先輩たち二人にどう言い訳するか考え車に戻った。
◇
「では例年通り撮影旅行は二泊三日で隣県のペンションで決定だ!!」
「「「「異議な~し」」」」
そして翌日、俺はサークル会議に強制参加させられた。あの後、今回も逃げたりしたら優姫の事をサークルメンバーにバラすと先輩らに脅されたからだ。
「はぁ……」
「そこ、昨日も欠席した北城……異議でも有るか?」
「ないよ朝霞」
そして釣り目の刀を持ったら武士だろコイツという感じの女が新代表の朝霞 友美だ。この見た目で運動音痴で写真ガチ勢だったりする。
「このサークルの看板はお前だ!! 実力におごらず参加してくれ!!」
「そ~だぞ、御曹司~」
「おい三芳それに皆も、ほどほどに……」
そして騒ぎ出す二年と大人しい一年生……先輩達が居ない旅行とか嫌な予感しかしない。それに一年の中で一際目立っているのが紅林さんだ。
「じゃあ最後に、基本は自由参加だが三年は私を含め六人全員が参加する、二年と一年は自由参加……それと当日はサプライズも有る!! では解散!! 最後に北城は部室に残ってもらう!!」
「はいはい……」
俺は部室に残され新代表から説教が始まると覚悟していたが甘かった。朝霞と俺そして紅林さんが残ったからだ。
「わだかまりが有るんだろう? なら話し合いだ!! 私は外に出ているから存分に話せばいい!!」
「えっ? いや……朝霞、それは!!」
「外の見張りは任せろ!! 仲直りするまで出られない部室だ!!」
凄いドヤ顔で言うと朝霞はドアを閉めた。あいつなら本当に外で見張りをしかねない。てか絶対にしてる。責任感が明後日の方へ突き抜けてるのが朝霞という人間だ。そして俺は不安顔の紅林さんに向き直った。
◇
「ごめん……」
「謝罪は聞きたくない。それに今回悪いのは俺だ。騒ぎにしたのは済まなかった」
だからこれで終わりにしたい。頭を下げ次で終わらせ部室を出ようと思ったが先に向こうが口を開いた。
「写真……東京で見たんだ……木崎くんの」
「え?」
「特別賞の……偶然、学生コンクールの写真展に、そこで名前見て驚いた。あんな綺麗な写真……だから立ち直ってくれたんだって……思った」
そこそこ大きいコンテストに提出したのは1年の冬だ。先輩たちに教えられシャッターをひたすら切って過去を振り切るために撮った中の一枚だった。
「だから、この大学に?」
「うん……死ぬ気で勉強した。一年無かったし……ブランクも有ったから」
それで受験を突破したのは凄い。二年のブランクを感じさせない優秀さだ。ちゃんと現役で対策もして勉強してたらT大だって夢じゃなかったろう。そう考えると彼女も兄達の犠牲者か。
「そうか……あの写真を向こうで?」
「うん……あの風景はどこ?」
「今度行く所だ、そこの滝の上から撮った」
毎回行く場所が同じで伝統らしく春と秋にサークル単位では行く事が多い。借りられるペンションも安く学生も車さえ有れば懐に優しい撮影スポットだ。
「私、行ってもいい、かな?」
「撮影旅行は自由参加……朝霞が言ってたろ、好きにすればいい」
「うん、でも木崎くんは強制参加でしょ?」
何がおかしいのかクスクス笑っている。でも俺の方も肩の力が抜けていた。
「ああ、誰かさんのせいでな……あと今は北城、北城悠斗だ」
「うん、分かった。じゃあ改めて悠斗……くん、昨日はごめんなさい」
でも俺はやっと理解した。たぶん、これから先も逃げ続けるのは無理だ。何か有る度にこうなる……ならば俺は……。
「分かった。それと紅林さん今後は先輩後輩の関係で行こう」
「いい……の?」
「しつこい君に根負けした、なら一定の関係を持った方が楽だ」
「そっか……ありがとう悠斗、先輩……」
(やっぱり変わってなかった……だから私は……)
とにかく折り合いも付けたしサークルにも迷惑がかからないし万事解決だ。そう思うとドッと疲れが出た。
「じゃあ朝霞には俺から言っておく」
そのまま今日は帰ろうとカバンを持った俺の後ろから声がかけられる。
「あのっ!? 連絡先……も、交換とか……ダメ、かな?」
「……二年前から変わってない……まだ俺のスマホに残してる」
最後に俺の家で会った時に渡された連絡先……俺は機種変しても毎回データは移行していた。女々しいと自分でも思いながら消せなかった。
「そっか……うん、私もまだ残してるから、その、連絡も……」
「ああ……分かった」
その言葉に頷くと俺は部室を出た。だが既に彼女の術中にはまっていた事に俺は気付いていなかった。俺はまた二人が見えて無かった。
◇
「昨日、繋がらなかったから心配したよ快利」
『悪いな忙しくてな……』
俺は先日から連絡のつかなかった快利に電話していた。昨日は仕事で忙しかったみたいで繋がらなかった。
「コンサルタントが連絡つかないとか致命的じゃないか?」
『こっちにも色々有るんだ……え? いや友達だから。ってカインが迷子!?』
「どうした快利?」
俺は久しぶりにできた友人ともっと話がしたかった。できれば二人で飯に行きたいから誘おうと思ったら電話の向こうが慌ただしくなっている。
『ああ、いや……少し野暮用だ。とにかく頑張れよ、な?』
「うん。それで、その前に暇な時とか有る?」
『まあ時間は作れるが……』
快利の住んでる場所は都内らしいが出張で離島にも行ってるらしく昨日はそこだったらしい。でもコンサルタントが島で何しているんだろう?
「じゃあ今度また話そう、色々と聞きたいこと有るんだ」
『オーケーだ!! ま、運が良かったらすぐ会える、じゃあな悠斗!!』
次はいよいよ本番、紅林さんへの連絡だ。通話はまだ怖いから今回はメッセージだけ送る事にした。最初に送るのは……言葉じゃなくて写真。あの特別賞を取った写真の元データを俺は贈っていた。
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