第二十七話「乱入者――イレギュラー――」


「ふむ、元気が良いのは結構だが、北城がそこまで言う根拠は?」


「朝霞それについて皆にも説明したい。いいな優姫?」


「うん、悠斗……先輩いいよ」


 そこで俺は彼女の左腕の一部が失われている事、それに伴う心因性の問題から対人恐怖症に近い状況で自分だけはバイト先で、やっと慣れた所だと嘘の説明をした。


「悪いな優姫、もういい……」


「うん……」


 義手を外して見せると全員が沈黙した。これから始まる楽しい撮影旅行が最悪なムードになったが構わない。むしろ優姫から男が離れるなら大歓迎だ。


「彼女には紅林の援助が必要だから基本は二人一組で行動させて欲しい、今の通り男は特に慣れた俺以外は遠慮してくれ……同性は問題無いと思う」


「なんか先輩がこんな話してるの初めて見たんだけど」


「うんうん……」


「でも、そっか……決まった人いたんだ北城先輩って」


 俺が言うと二年の女子が騒ぐが無視だ。そして代表の朝霞は「なるほど」と言って目をつぶって思案顔になった後に口を開いた。


「そうだったか、事情とはそういうことか紅林さん?」


「はい、黙っててすいません。でも、これ以上は迷惑はおかけしないので……」


「すいません……紅林さんが一緒に息抜きにって甘えちゃって」


 二人は謝るが後出しはダメだ。だが同時に紅林が優姫のために計画したと分かった以上、俺は動く。そして二人の隣に並んで割り込んだ。


「ふぅ…………もし二人が今回の撮影旅行に参加するのが難しいのなら俺が二人の面倒を見ます。幸い別行動を取れる用意も有りますので」


「え? そうなのか?」


「いやいや、だって北城もさっき知ったんじゃ?」


 三芳と小川の言う通り口から出まかせだ。だけど車が有るから最悪ペンションから少し離れたホテルに二人を泊めればいい。俺は車中泊すればいい。


「ああ、そうだが問題は無い」


「いやいや、二人を独占する気かよ御曹司!! 反対反対!!」


「三芳お前さぁ……でも俺も反対かな別に一人増えて何か問題有るのか?」


 小川が言うと二年の男子は微妙な顔をしていたが反対に女子の反応は違った。


「私も良いと思いま~す。それと優姫さん後で写真撮らせて可愛いから!!」


「うんうん、モデルとして良い感じだし協力してくれるなら賛成!!」


「でも腕とかこんなだし……良いんですか?」


 優姫が不安そうに腕に手袋をかけて腕を固定していたが答える二年の女子はそこまで嫌がっておらず朝霞や三年も頷いていた。


「ぜんぜん余裕、あと男共は北城先輩以外近づけないんで!!」

「私も賛成……です」

「紅林さんの友達なら私も」


 その二人は紅林といつも行動を共にしている女子二名つまり新入生だった。気まずそうにしているのは先輩の手前だからだろう。


「じゃ、俺も賛成で」

「仕方ねえ……」

「別に撮影の邪魔じゃなければ結構です」


 二年のカメラ真面目組の男子も渋々といった感じで二人も皆に頭を下げていた。だから俺も一緒に頭を下げ言った。


「二人の行動に何か問題が有ったら俺を通してくれ……頼む」


「え?」


「悠斗、先輩……」


「二人は、俺の、俺の大事な…………後輩だから、当然だ」


 そう俺が言い切った時だった。パチパチと俺達の背後から拍手が聞こえた。全員が振り返ったそこに居たのは予想外の人物だった。




「素晴らしいな悠斗!! 漢気があるじゃないか、感動したぞ」


「快利!? なんで?」


 そこに居たのは快利だった。しかも隣に知らないメガネをかけた美女も居て俺は余計に困惑した。


「ああ、偶然近くに用が有ってな、いや~偶然偶然、はははは!!」


「白々しいですよ快利、少しは演技をして下さい」


 まさか快利の恋人? 今の状況に困惑するが俺も残りの二人も、それにサークルメンバーも全員が大混乱だ。


「そう言うな那結果なゆか、今動けんのはお前くらいなんだから頼む、な?」


「自業自得でしょう、明日は我が身ですね……」


「あの、快利?」


 二人が何やら勝手に話を進めるから止めていた。そこで二人は今さら気が付いたように俺以外にも挨拶を始めた。


「失礼した皆様、我が親友ともが勇気を示したので我慢できず出しゃばった非礼をお詫びます。あと君らの宿泊するペンションのオーナー今年から俺だから」


「え?」

「てか隣の人、美人じゃね?」

「マジか?」


 急にざわざわし出す男子達だが、よく見たら快利の隣の美女に視線が釘付けだった。本当こいつら懲りないな。だが優姫から離れさせられたのは助かった。


「まあ、そんな訳で管理人としての仕事もするから、ようこそ~って言いに来た感じさ……まさかここを選ぶとは驚いたぜ親友?」


「そう言う事は先に言ってくれ快利!!」


「言ったらサプライズにならない、でしょう? 代表殿」


「うむ、面白い御仁だな、オーナー殿?」


 二人が握手を交わしながら見ると快利の後ろからガタイの良い男性が三名もやって来た。服装は『センドー家事代行サービス』と書かれた花柄エプロンを付けていて可愛らしいが俺達の撮影機材など大物をペンションまで運んでくれた。


「これは失礼、改めて秋山 快利かいりです。悠斗とタメなんでお好きに呼んで下さい。それとペンション名も変わったんで確認もね?」


「ペンション『ブレイヴ』だって!? 去年までは『素朴館』だったのに」


「せっかくだから相応しい名前にした、さて、ご案内します」


 こうして俺の撮影旅行は波乱の展開から始まった。二人のことサークルのことだけでも大変なのに、まさか快利まで……だけど俺にとって最高の援軍だと思えた……この時までは……。

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