第二十六話「そして三人は再会する」


「な、なんで……優姫?」


「ど、どうして……くれっち!? 私、何も聞いてない!!」


 あれから数日後いよいよ旅行当日の朝に俺は衝撃を受けた。集合場所のキャンパスの駐車場に紅林さんの隣に優姫も居たからだ。


「うむ、彼女は末野 優姫さん、紅林さんの友人でサークル参加者も半数だけの気軽な旅行だから問題無いと判断し、特別参加が決まったゲストだ!!」


「あ、朝霞……そんな話は聞いて無いが……?」


「うむ、紅林さんが秘密と言ってな!! サプライズだ!!」


 朝霞に尋ねながら俺は紅林さんを見るがドヤ顔していた。もしかしてこの女、反省してないのか!? だって俺に全て捧げるとか言ったばっかなのに……。


「ごめんなさい……私、知らなくて」


「い、いや、優姫、だけど一体これは?」


「ま~ま~良いじゃないですか先輩? 他の方は賛成してますし~」


「紅林……さん? どういう……え?」


 紅林さんが言うと女子もだが男子の喜びようは凄まじかった。


「うっひょおおおお!! 末野さん末野さん末野さぁ~ん!! 俺たちの撮影旅行はこれからだ!!」


「……紅林さんの友達で美女とか!! 俺らにもワンチャン有る!!」


「ふっ、計算通り……外堀は埋められたわね」


 三芳はまだしも二年まで盛り上がってる。だが分かっているのか紅林、優姫は男性恐怖症だ。こんな危険な場所に連れて来るなんて正気かと俺は怒りが湧いた。


「紅林ぃ……お前な!!」


「ちょっと聞いて下さい悠斗先輩、優姫と会うの久しぶりですよね?」


「え? あ、まあ……」


 たぶん四日ぶりで久しぶり……か? だが俺は機先を削がれたせいで冷静になり気付いた事が有る。二人は友人関係で今も仲が良いのだろう……だが……。


「なんか反応薄い。その……優姫、あの時から本当に苦しんでて……」


「……ああ、そう、だよな」


「私は何でもしますから!! だから今のあの子を見てあげて欲しい、どうかお願いします!!」


 紅林は必死だが俺もそれ所じゃなかった。この反応だけで判断するのは早計だが俺の勘では彼女達は……恐らく互いの事情を知らない。


「そ、それは……」


「それにあの子は今……少し特殊な状態で、だから傍に居てあげて欲しいんです。たぶん難しいと思うけど、それでも今の優姫には!!」


「ああ、分かった……当然だな」


 恐らく優姫がバイト先で俺の後輩になっている事を紅林は知らない。そして先ほどまで優姫の方は俺が紅林と同じサークルだったのも知らなかったはずだ。ここで下手に話すと事態は混迷する……どうすればいいんだ快利。




「とにかく、優姫の傍に!! あの子は今でも!!」


「いや、だが……」


 だが俺は二人になんと話すか……お前ら報連相できてないぞと言っていいものか真剣な紅林を見ながら思案する。それに別の事も考えていた。


「私と違って、あの子は……だからお願い、です!!」


「まあ、とりあえず二人とも俺の車に乗せるから、そこで詳しく聞くよ」


 予定は大幅に変わったけど運が良かった。俺の車も今回は出すことが事前に決まっていた三人だけの時間が取れる。


「え?」


「車は、そこのレンタルの小型マイクロバスだと機材込みで結構ギリギリなんだ、だから毎年、車を出す人間がいて今回は合計三台で行く、その内の一台が俺のだ」


「そうなん……ですか?」


 俺は一年の夏休みに免許を取って以来、旅行では戦力扱いされ去年まで完全に先輩達の足扱いだった。それに俺は当の優姫を見て言った。


「それに優姫もう乗ってるし」


「はい?」


「やっぱり乗り慣れてる場所が……ふぅ、ここなら安心……」


 この光景に三芳がまた騒いでいるが完全無視だ。今は優姫の安全確保をしつつ紅林に何と話すかが問題だ。


「乗り慣れてる? ちょっと、どういうことなの優姫!?」


「え? な~に、くれっち?」


「これ、どういうこと?」


「えっと、そのぉ……これは……」


 そして朝霞の号令で残りの紹介は宿に着いてから改めてとなった。紅林が渋々と後ろに乗ると、三芳まで乗ろうとしたから即座にロックする。文句は全無視で俺は車を出した。


「そ・れ・で!? 優姫!!」


「えっと、バイト先の北城 悠斗……先輩、です」


「へ~、そうなんだ……ふ~ん、バイト先の優しい先輩だっけ? 男とは言ってなかったわね、そういえば……」


 バックミラー越しの紅林は怖かった。俺を卑怯者とか罵倒した時と同じくらい目付きが据わっていて軽くトラウマになりそうだ。


「うん、それで……くれっちの先輩こそ、だぁれ?」


 だが今度は隣の優姫が少し暗い目をして後ろの紅林を見て言った。こっちも同じく目が怖い……。


「あっ、それは……えっとサークルの先輩の北城 悠斗さん、です」


「くれっちも黙ってたんじゃん……」


「だ、だって……話そうとしたけど……こっちも準備が」


 そこで二人は黙って嫌な沈黙が訪れた。おかしい……本来は俺が一番気まずい立場だ。この沈黙をどうすると様子を見ていたが隣の優姫も後ろの紅林も俺を見ていた。


「と、取り合えずパーキングは一時間後で、トイレとか大丈夫?」


 俺から出た言葉はこれだけで……無難で情けなかった。




「では到着だ!! 全員いるな!!」


 マイクロバスから朝霞達が、そして後続車から他のメンバーも下りて来る。そして一番最後に俺の車から降りてきた二人に群がる男共からガードする。


「おい!! 北城、痛い、マジ痛いから勘弁しろ!!」


「なら、彼女に……優姫に近付くな」


 三芳を片手で抑えながら優姫の前に壁のように立ちはだかる。彼女は俺以外の男は本当に近付けられない。あの後、車内で三人で話した結果、今の状況が何倍も深刻だと知った俺は余裕が無い事を知った……だから遠慮はしない。


「てか、なんで北城……お前」


「彼女は俺のバイト先の後輩だ、その関係で紅林さんとも知り合いだった」


 事情を知る先輩は参加しておらず先ほどPAで休憩中に横瀬先輩と幸手さんには黙ってもらうよう頼んだ。手抜かりは無い……もう昔とは違う。さらに車内で聞ける話を二人から聞いたから今ならどんな嘘でも通る。


「マジかよ、じゃあスーパーに!!」


「来たら店長にストーカーと報告する、あと紅林に絡むのもほどほどにな?」


 二人を背に庇いながら俺は言った。それにしても我ながら嘘まで付いて大きく出たもんだ。足は震えてないか不安だが……でも今の言葉は後悔しない……と、思う。


「なんか、北城パイセンの目がマジなんだが……」


「先輩ってまさか女嫌い……じゃない?」


 まず大事なのは目の前の今を乗り切ることだ。それに、もし上手く行けば少しは前に進めると思う。

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