第二十二話「カメラが無い!?」


「さて、俺も課題を片付けないと……」


 明日は午前中は寝てられるし少し夜更かしも出来る。そう思った時にスマホに通知が有った。相手は紅林さんだった。


「話したい……か、よ、よし話すぞ!!」


 俺は了承するスタンプを送った後に通話ボタンを押す。あれ? 繋がらない……どうしてだろうと切ったら向こうから通話が来た。


『もしもし、先輩? もしかして、そっちも通話してた?』


「あ、ああ、そう……だけど」


 同時に通話すると繋がらない時が有ると聞かされ驚いた。だって友達が俺には一人しかいない。しかも一ヶ月前に出来たばかりで知らなかった。


『それで少し相談なんだけど……いい、かな?』


「内容による、あくまで先輩としてだ」


『その、今度の撮影旅行で必要な物とかを教えて欲しいって話なんだけど』




 なるほど……てっきり過去の話を蒸し返すのかと思って変に警戒して損した。単純にサークルの後輩として相談したいだけか。


「二泊の旅行と考えて着替えと後はカメラ、女子は化粧品とか、かな?」


『基本は普通の旅行で後はカメラ周り……と、なるほど』


「分かってると思うけどSDカードやバッテリーも予備とチャージャーは必需品だと思う……ってまさかデジタルじゃなくてフィルムじゃないよね?」


 カメラの話題が出たから俺は一年の頃に教えられた事をそのまま教えた。一緒に勉強していた高校時代に戻ったみたいで少し高揚し早口になっていた。


『えっ……あ、その……それ、なんだけど……実は……』


 だが俺は衝撃的な事実を告げられた。それは……。


「え? スマホしか持ってない?」


『う、うん……とにかくサークル探してきざっ、悠斗先輩と話そうと思って……』


「そうか……カメラ無しで行くのか?」


 そう言うと彼女は言葉に詰まっていた。スマホも悪手では無い下手なデジカメより最新のスマホの方が性能が良い事はままある事だ。でも一応は写真系サークルでそれはマズいと思うし向こうも同じ感想だった。


『どうしよう……やっぱり持ってないとダメだよね。明日その相談とかできる? 初心者用とか教えてくれると嬉しいんだけど』


「……分かった。ただ大学だと周りがうるさいから講義の後に合流できる?」


 そこで明日は二人とも四限で終わりと分かったから落ち合う事になった。バイトは休みだし問題は無い。


『うん!! じゃあ場所は……駐車場? そんな所にも?』


「ああ、第二研究館の近く。そう、そこの裏手で、じゃあ明日」


 それで通話は終わった。とにかく明日は大変だ。まずネットで最新の情報を集めようとキーボードを叩く。ネットニュースでは緊迫の国際情勢から芸能人の結婚報道それに勇者降臨や新作ゲームの広告まで色々と有ったが今はカメラだ。




「ねみい……」


「北城、どうした?」


 そして朝方まで調べたり知り合いと話した事も有って俺は寝不足だった。そんな所に三芳&小川がやって来た本当にしつこい奴らだ。


「はぁ、調べ物で寝不足……」


「本当だ目の下にクマ凄いな、レポートとかって有ったか?」


「違うな動画サイト巡りだろ? 実は昨日、元グラドルの流出動画見つけてよ~」


「そんなの興味無い」


 そもそも好きな人以外の裸なんて興味は無い。何度かコイツらに勧められて見たが正直な所、俺は欠片も欲情しなかった。


「へいへい、硬派ですね御曹司様は……でもよ、それでも今日の紅林ちゃんは見るべきだぜ? あれ、絶対なにか有る服だ。俺には分かる」


「おい、三芳やめとけ。この間のこと有ったろ?」


 三芳の言葉に前の講義が一年だったと小川が説明して気が付いたが紅林さんは未だに友達と残っていた。


「そういえば周りの二人いつも一緒だな」


「てか三人でいつも行動してる、仲良いんじゃね?」


 大学ですぐに友達も作ってるんだ。でも紅林さんなら当然だ何だかんだで高校ではまとめ役で……それで僕を……俺を裏切ってクラス委員を交代した。


「ふぅ……」


「おいおい美人見て溜息とか幸せ逃げるぞ~」


 今さらだ。俺の幸せなんて永遠に逃げ続けてる。その一つが紅林さんなんだから……と俺も気になり視線を向けたら目が合っていた。


「おっ!? お~い!! こっち見た紅林さ~ん!!」


「ばっか、お前!!」


 そんな二人を見ながらペコリと頭を下げると紅林さんは講義室を出て行った。確かに言われてみればいつもと少し雰囲気が違う服装かも知れない。なんて思っていたらスマホが震えた。


「ん?」


 通知を見るとスマホには紅林さんから『後でね、先輩』と通知が来ていた。そして瞬く間に講義の時間は過ぎ時間になった。




「えっと紅林さん?」


「あっ、悠斗……先輩!!」


 俺がいつもの駐車場の近くを探すと紅林さんの後姿が見えたから声をかけた。だが彼女は一人では無かった。


「あっ?」


「どちら……様?」


 紅林さんは素早く傍まで走って来ると俺の隣に立った。気のせいか走りずらそうにしているのはミュールだからか?


「先輩を待ってたら、声かけてきた人……かな?」


 なるほどキャンパス内だから油断してた。彼女が一人でいたならナンパくらい出て来るか。そもそも大学は危ない所だ。俺の兄達が事件を起こしたのも大学だ。


「ああ……悪いが俺の連れだ」


「分かった……って、あんた女嫌いの御曹司!?」


「まだ何か?」


 俺の噂を知ってるなら消えて欲しいが向こうは引き下がらない。なら仕方ないから俺達が引こう……車まで。


「いや……でも」


「じゃあ俺達が失礼する。紅林、車こっち……今日家まで送るよ」


「え? あっ、うん!! お願いします」


 愛車のドアを開け恭しくエスコートすると彼女は笑っていた。釣られて俺も笑いそうになるけどポーカーフェイスで通す。そのまま助手席に彼女を乗せ最後に相手を睨みつけると車を出した。

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