第四話「最悪の結末への再戦――リベンジ――」
◇
「悠斗、修行いや、アルバイトの方はどうだ?」
「まだまだ覚える事も多いですが……順調です会長」
「家では爺ちゃんと呼んでくれ」
あれから転校先の高校を卒業し俺は地元の大学に進学した。もちろんT大では無いけど何とかやってるしバイトも順調だ。
「すいません。つい癖で、周りには会長の孫でも容赦しないって言われてて……」
「それは素晴らしい。まず現場。お前も三年後には卒業、そうなれば今度は我が社に入ってもらう……将来の会長候補としてな、頼むぞ希望はお前だけだ」
そして今は全国に800店舗以上のスーパーマーケットを抱え他事業も展開しているNCグループの会長候補だ。だから俺は今、爺ちゃんが会長をしているスーパーマーケット『HOJYO』で修行兼バイトをしていた。
「はい」
「お前を選んだのは人を思いやれる優しさ、それに自分より他者を優先する奉仕の精神だ……あの二人には無かったからな……」
「そう……ですね」
祖父の言葉で食卓は一気に暗くなった。祖父はそこまで顔色を変えなかったが祖母は悲しそうだ。実は半年前、兄達は逮捕されていた。
「良則にはガッカリだ……曜子にもな」
「あの二人には甘かったので……当然かと」
「うむ、そのようだな、ふぅ」
ちなみに良則と曜子とは俺の実父母の名だ。そして肝心の兄二人だが、広樹は大学内外で薬物パーティーを主催し同時に新種の
「一応は新聞には載らなくなりましたね……」
そして広樹の用心棒として脅迫担当をしていたのが誠一郎だった。二人は他にも多くの罪で逮捕・起訴されている状況だ。
「うむ、あの大事件のお陰で、最初に騒がれただけなのも幸いだった……」
テレビや新聞などの報道は現在の緊迫する国際情勢がメインで兄達の不祥事は数ヶ月で風化していた。だが、どの道あいつらの人生はお終いだ。
「それで、本日から?」
「ああ、手続きが落ち着いたからの……あれでも娘と義理の息子だ、助けてやらねばなるまい」
どうやら両親は助かるらしい。既に二人は解任され今は祖父の決定待ちでビクビクしていると聞かされた。
「肝心の二人への対処は予定通りで?」
「うむ、当家と関係無いと言いたいが最低限の責任は取らねばなるまい。あのような愚か者でも孫だ。それに誠一郎は一人で動けぬしな……」
「ええ、そうですね」
これも天罰だったようで誠一郎は下半身不随となった。警察から逃亡を図りバイクで逃走中に人をひき逃げしバランスを崩して最後は乗用車に自ら突っ込んだ。奇跡的に生きていたがこれ以上、罪を重ねたくても出来ないだろう。
「弁護士の話では広樹は実刑、誠一郎は執行猶予付きの可能性が高いらしい」
「被害者の補填だけで凄い事になりそうですね……」
「ああ、だが金より信用の方が問題だ、幸い資金面はお前が解決してくれた」
この事件は現役T大生ら主催のイベントサークル『ストリーム・フリー』が起こした組織的な犯罪として世間に注目されマスコミ各社は一連の事件を『ストフリ事件』として報道した。その事件のために俺は祖父と事件の火消しをしていた。
◇
「父さん、やっと会ってくれた……」
「お義父さん、この度は……」
一年半振りに会った両親はやつれていた。当時も社畜の影は有ったが今は精神的にもボロボロらしい。
「よい、では悠斗、義弟であるお前から教えてやれ」
「はい会長」
そうだ……もう既に戸籍上、両親とは義兄弟にもなったと思い出す。だが不思議と二人は家に居た時に比べ情けなく見えた。
「ゆ、悠斗……久しぶ――――「決定事項です木崎夫妻は本日から半年の謹慎の後に当グループの孫受け会社に入社してもらいます」
「悠斗……父さんと話を――――「学業と修行が忙しいので遠慮します。この後もスケジュールが詰まってますので」
それだけで切り上げようとしたが内心でショックを受けた。自分の両親がここまで情けなかったなんて思わなかったからだ。
「待ちなさい悠斗、あなたっ――――!?」
「ふぅ……それと今後は私を二人の弟として扱って下さい。あなた方の子供は犯罪者の二人だけだ!! いいな!!」
「「ひっ!?」」
僕なんかの恫喝でここまで及び腰……だが、いけない祖父も見ているし何より小物をいたぶるのを祖父は許さないタイプだ。
「では失礼お義兄さん、お義姉さん。明後日までには弁護士から連絡が行くと思います……では、さようなら……」
「二人とも、一から出直せ……」
その祖父の言葉で全てが終わり二人の顔色は真っ青になっていた。
◇
翌日、僕は祖父と一緒に生家を訪れた。家の周囲には、これでもかと言わんばかりに落書きやゴミなどが投げ捨てられている。たった一年半でここまで変わるのかと複雑に思いながら周囲を簡単に片づけ家に入ると空気を入れ替えた。
「今日は警察病院の誠一郎だ。大丈夫か悠斗?」
「はい、僕の試練だと思ってます……爺ちゃ、いえ会長」
「そうか、もう身内で頼れるのはお前だけだ頼む……」
そんな話をしていた時、不意にチャイムが鳴った。表に車を停めているから僕らが居るのがバレたのかも知れない。相手はマスコミの可能性も有るから僕らは無視を決め込んだ。
「表の車を流すよう手配した、合流は駅前だ歩くぞ悠斗」
「はい、分かりました。では参りましょう会長」
そして家の周りに誰も居ないのを確認し祖父を先導し歩いて数分した時だった。曲がり角で立ち尽くす女がいた。
「久しぶり……悠斗……」
「知り合いか?」
「いえ……先を急ぎましょう会長」
僕は祖父の問い掛けにだけ答えて無視して通り過ぎようとした。目の前に現れた女、末野 優姫を見て思った感想は髪の色が黒に戻ったなというだけだった。
「待って、悠斗!! お願いだから話を!!」
「悠斗、お前の将来のためだ。全ての問題は解決してきなさい」
「……分かりました会長、では後ほど」
祖父の言葉には逆らえない。だから僕は祖父と別れ近くの公園に優姫を誘った。昔、彼女に告白した場所だ。
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