第三話「敗北と逃避の始まり」
◇
あれから二週間、最近は僕の家の中には優姫だけではなく紅林さんも見かける事が多くなって更に家でも居場所が減った。学校でも話はしていない。正確には話そうとしても避けられていた。
「おい木崎、なんか委員長、最近、変じゃね?」
「遅刻多いし無断欠席も……最近は委員長の仕事もサボってるし何か知らない?」
クラスメイト達にも聞かれたが僕は知らないとしか答えられなかった。兄と付き合い始めて以降、見せつけるようなボディタッチやスキンシップが増えていたし車で出かける二人を何回か見送っただけで行き先は知らない。
「知らない……僕も最近は話せなくて」
「そっか木崎くんならクラスで一番仲良いし、お似合いだったから」
「学年の成績ツートップだしよ、そっか……木崎も知らないか」
そんな風に見られていたのかと複雑な心境だが今さら僕には何も出来ない。そして季節は秋から冬へ気付けばクリスマス。今年も寂しく一人でクリスマスかと思っていた。だが、そんな僕を不憫に思ったのか母方の祖父母が僕を招待してくれた。
「一年振りだな……」
偶然とは言えタイミングは良かった。電車に揺られ数時間、都心を離れ僕は祖父母の家に来た。相変わらず大きな洋館で両親が結婚してから越して来たそうだ。今、僕が住んでる家も元は祖父達の家だったらしい。
「旦那さま、奥さま~!! 悠斗坊ちゃんが来られましたよ~」
「あ、どうも好子さん、お久しぶりです」
この家はお手伝いさんを何人か雇っている。祖父の先々代が貴族に憧れていたらしく財を成した時にお手伝いを雇ったそうだ。その名残で前の家から越して来る際にお手伝いさんの家族ごと越して来て雇っていると聞いた。
「おお来たか悠斗、待っていたぞ」
「悠斗よく来たわね」
厳しそうな、いや実際すごく厳しい祖父と優しい祖母が出迎えてくれた。二人には近況を聞かれたが僕は当たり障りの無い話をして家族の話は誤魔化した。
「冬休み中、いて……いいの?」
「もちろんだよ」
「じゃあ、そうしよっかな……」
その話を僕は快諾した。あの家に戻るのは嫌だったし渡りに船だ。それに、お爺ちゃん孝行も悪くないと僕は屋敷で二人の手伝いに精を出した。
「やはりお前が適任だな、そう思わないか秋乃?」
「ええ、あなた」
そして大晦日の日に年越しそばを食べながら突然、話が有ると言われた。お手伝いさんが全員帰った後で何の話だろうと僕は疑問だった。
「どうしたの二人とも?」
「ああ、私の後継者を探していた。やはりお前が相応しいな悠斗」
「え? 後継者って何の話?」
「ああ、実はな……」
そこで聞かされた話は思った以上に大きな話で悩んだ。それに話を受ける前に僕にはやるべき事が有った。それを話すと二人は納得してくれて僕が祖父のグループ企業の会長候補の話は待ってもらう事になった。
◇
「それで? 話って何かな木崎くん」
「うん、紅林さん今日は話を聞いてくれて嬉しいよ」
新学期になって学級委員になった僕は元学級委員である紅林さんを空き教室に呼び出した。二学期の時のような気安さは互いの間には無くて苦しかったけど僕は最後の希望を胸にこの場に来た。
「あんな風にクラスメイトの前で声かけられたら断れ無いよ、随分と狡猾だね広樹さんの言う通りだった」
「っ……兄さんに何を言われたか分からないけど、これが僕だから……それより話を聞いて欲しい」
そこで僕は今まで兄達に受けた仕打ちや過去を話した。狙いは僕で紅林さんは利用されているだけだと説得するために必死に説明した。
「ふ~ん……それで?」
「だから君はいずれ必ず捨てられる。その前に広樹なんかと別れた方がいい……僕のせいでこれ以上は犠牲を出したくないんだ」
彼女には先に誠一郎に奪われた元恋人の優姫の話もした。僕に出来る全ての真実を話したが彼女は興味を示さずネイルを見ているだけだ。
「はぁ、ほんと、本当に頭悪いんだね」
「え?」
「それで揺さぶりかけて来るって広樹さん言ってたよ、ね? 優姫?」
紅林さんが言うとドアを開けて入って来たのは元恋人の優姫だった。少しバツが悪そうな顔をしているがスタンバイしていたのは二人が結託していたからか……最悪だ僕が説得しようとしていたなんて読まれていたんだ。
「う、うん、ふぅ……しょ~じき笑える、悠斗、すっごくダサいよ……」
「どういう、意味?」
「いやさ、私達を……取り返したいの分かるんだけど自分のお兄さん達を悪く言ってんのって最低……だよ。しかも私の今、カレ、だし……自分が、自分がさ……一番何も無くてダサいからってさ……ほんと、サイテーだね!!」
違うとは言えなかった。ある意味で優姫の言い分は正しい。あの兄達から可能なら二人を取り戻したいし優姫は無理でも紅林さんならまだ可能性は有ると思っていた。だけど、それだけじゃないから僕は真剣に話した。
「木崎くんのこと少しは好きだったんだ……でも、こんなに情けない人だったなんて……ほんと幻滅」
「でも君達は僕の兄さん達に騙されてる!!」
優姫の登場で僕は心が乱されたが構わず紅林さんに向き直って僕は言う。だが、それを否定したのも優姫だった。
「いや、それは無い……だって、私たち、この間のパーティーで恋人、宣言されたし、ね? くれっち?」
「ええ、広樹さんも、それに誠一郎さんも木崎くんなんかと違って頭も才能も全て格上で何より君と違って卑怯者じゃない!!」
紅林さんに卑怯者と言われて僕の心はズタズタになった。
「卑怯……僕が?」
「そうだよ、陰口、とかで……別れさせようなんて……」
さらに優姫が暗い目で僕に追い打ちをかけるように言った。その瞬間、僕の心の隙間にストンと何かがハマったような不思議な感覚が広がる。
「二人には、そう見えるの?」
「うん、そうだよ元カノの、よしみで教えてあげる……じゃあ、もうっ、二度と……話しかけないで悠斗……ううん、木崎くん、さよ、なら……」
「私も教室では、いえ今後は二度と話しかけないでね卑怯者の木崎くん!!」
これで僕は今度こそ完全に捨てられた。卑怯者の烙印を押され思い知った。もう完全に手遅れだ。僕は涙を流してその場を後にした。
「もしもし……はい、僕です悠斗です。例の話お受けします。四月からお世話になります……爺ちゃん」
そして僕は家に帰ると祖父に電話で連絡し三年生になるタイミングで転校し家を出て祖父母の養子となった。もちろん高校も転校し一年が過ぎた。
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