深海魚
水底に囚われて
暗がりへと潜る
沈むほどに暗くなる水色
生命の光明に背を向けて
何度も、何度も
苦しさを厭わず
悲観的な一心で
魂が求めるまま
深みを目指した
リストカットより優しい自傷
自殺には届かない苦行
自分で自分を殺すことを
何度も何度も思い浮かべて
ほんの少しの気の迷いが
ミネラルウォーターよりも
簡単に命を救ってしまうから
誘蛾灯よりも強く惹かれる
安寧と揺蕩いの黒に
潜るたびに 近づいていく
墜死よりも
轢死よりも
圧死よりも
毒死よりも
絞死よりも
溺死の方がずっと
美しい死に方だと思う
なにも見えないけれど
なにも聞こえないけれど
この暗がりには
苛む日差しがないから
何度も、何度も
救いを求めて深みに潜る
エラは無いし
鯨にはなれない
それでも繰り返すたびに
少しずつ底に近づいている
現実に溺れた先の暗がりで
溶けるような眠りを
──
それでも
ふとしたことで
地上に引き揚げられることもある
全ての命綱を切り払って
全ての迷いを断ち切って
飛び込んで
沈み込んだはずなのに
自分でも気付かぬうちに
引っ掛かった か細い糸に
偶然で巻き上げられて
あれほど嫌った光の世界に
引き戻されてしまうこともある
深海魚になりたかったけれど
余計なお世話で
呼吸もできない場所に
放り込まれてしまったのに
それを苦しいと
それを悲しいと
怒ったり
憎んだり できないのは
なんでだろうか
透き徹るもの ハグレ @hagure_i
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。透き徹るものの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます