第36話 (最終話)迫られる決断。

遺書は最後の一枚になった。

私はそれを見て背筋が凍った。


「美咲へ

許さない。

アンタのせいで、私と優斗と赤ちゃんは死ぬ。

優斗は優しいから、「悲しい気持ちでいたくない。王子さんにも思う所があったんだ」なんて言っているけど、私は優斗と付き合えていたら薔薇色の人生だったと、今も思っている。

愛ちゃんの事を聞いていたら、毎日一緒に優斗と優斗の家をお掃除をして、優斗には相談しにくい女だけの話を愛ちゃんとして、それを見て嬉しさと仲間はずれ感に困惑する優斗を、愛ちゃんとフォローして3人で仲良く過ごす。夜になって帰ってくる優斗のお父さんとお母さんにも、堂々と優斗の彼女だと挨拶をして仲良くなる。

そして私達は幸せな高校生活を過ごして大学生になる。

長い付き合いになれば、喧嘩なんてものもあるかも知れないが、それすら愛おしい気持ちで赦しあって婚約をする。

優斗は小菅大樹みたいにオドオドしないでウチに来て、キチンと私の彼氏だと宣言をして、私と結婚をさせてくれと言う。

お父さん達に優斗の素敵な所を全部教えて安心してもらう。そして結婚をして赤ちゃんを授かる。

今、私のお腹の中にいる、愛のない所から来た可哀想な子ではなく、愛が溢れる中で一日一日を、1分…1秒を大事にして、お腹の子を育てて産みたかった。

その幸せを台無しにしたアンタを許さない]


私のためだけに書かれた便箋は、写真なのに画面越しに圧を放っていた。

だが、それはあくまで仮定の妄想に過ぎない。

前に一度想像してみたが、あれはあくまで想像で、アンタの雑掃除じゃ関谷優斗の妹は入院したかも知れない。アンタの距離感じゃ、仕事で疲れて家に帰った関谷優斗の両親は休まる事もなくヘトヘトになるが、アンタはそれに気付かない。

関谷優斗に対する印象だって、アンタの親が私に近い感性なら嫌っている。

赤ん坊にしても関谷優斗とは相性が悪くて不妊かもしれない。

仮定の妄想で恨まれるなんてたまったものではない。


そう思いながら、堀切拓海には「送ってくれてありがとう」とメッセージを送る。

堀切拓海は全てを知っても中立でいてくれているから、「いや、なんか蒲生が俺たちの為に、姫宮と優斗の家族から遺書の写メを貰ってくれたんだってさ」と教えてくれた。


その時、私は嫌な予感に襲われていた。

故人を弄ぶ真似はしないだろうが、蒲生葉子からすれば私は憎い相手。何かしらの報復がある事を考えてしまった。


何かをしたら何かが変わる。

痛みの伴わない変化や変革はないのかも知れない。


とんでもない事をした。

軽い対抗心と、どちらが上かをわからせたくて、余計な真似をした。

その結果、取り返しのつかない事になった。


今まさにその時で、私は後悔と共にさらなる変化を受け入れるか悩んでいる。


悩んだ結果、お通夜は出なかった。

両親が何を言われるかわからないから行く必要ないと言って、担任にまで私を行かさせないと言ってくれた。


だが問題は明日だ。

卒業式に出れば好奇と悪意の標的になる。

だが告別式に出れば、遺族から何を言われるかわかったものではない。

蒲生葉子はどちらに行くのだろう。常識的には卒業式だが、2人の覚悟を見届けて遺書の写メまで貰える蒲生葉子は葬儀に出るかもしれない。

姫宮明日香の両親も、関谷優斗の両親も2人の葬儀を合同で執り行って、同じ斎場でやる事もまた忌々しい。どちらかを選んだフリしてすっぽかす事もできない。


何て迷惑なんだと思った時、IDを変えた蒲生葉子からメッセージが入った。


「関谷君は何も望まなかった。最後まで王子さんを悪く言わなかった。でも姫宮さんと私はあなたを許さない。卒業式か告別式か好きな方を選びなさい。正解を選べば遺書は、御家族以外は私と堀切君とあなたしか持っていない。だが不正解を選んだら私は真相を知りたがっているクラスメイト達にばら撒くわ」


そのメッセージに慌てようが何をしようが、蒲生葉子はメッセージに既読も付かなければ電話にも出なかった。


私は決断を迫られていた。

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