第35話 姫宮明日香の遺書。
次に姫宮明日香の遺書を読んだ。
かなりの量だった。
[遺書。姫宮明日香。
お父さん、お母さん。ごめんなさい。
この世界に居場所はないと思ったの。
お腹に赤ちゃんがいると分かった時、怖かった。
お父さんとお母さんに怒られるのが怖かったのに、2人とも泣いてしまった私を抱きしめて、許してくれてありがとう。
私が関係を持ったのは小菅大樹だけだから、小菅大樹が父親になるのは間違いなかった。
妊娠が発覚して、小菅大樹の一家がウチに挨拶に来た日、両親の後ろで狼狽えてみっともなく小さくなって、お父さんが「君は父親になるのに、何だその態度は?」と言ってくれた時の、小菅大樹の態度が情けなくて絶望した。
未来なんてないとすぐに痛感した。
そもそもは小菅大樹に初めてなんて取られたくなかった。拒絶してるのに迫ってきて、避妊をしてくれなくて、その一度で子供ができてしまった。
勿論、気持ちもないのに交際を受け入れた私も悪いの。それはわかってる。それでも大学にもいけない。学校にもいけない日々。家の中で毎日美咲が全部悪いと恨んでた。
2月の終わり頃、受験が終わった蒲生さんが家に来てくれた。蒲生さんは私を見て泣いてくれた。
蒲生さんは清算したいと言って、私が優斗の前から離れてクラスが変わって、学校に行けなくなってからの事を教えてくれた。蒲生さんも優斗のことが好きだって。2人で優斗の事を話したら、同じ所が好きだったから久しぶりに沢山笑って沢山泣いた。私は自分に何があったかを蒲生さんに話した。2年になって同じクラスになった優斗を好きになった事、優斗には後でわかったけど、理由があってあまり遊びにいけない事、遊園地に遊びに行ってからもっと好きになって、一番の友達だと思った美咲に相談した。美咲は応援してくれるって話だったのに嘘だった。優斗の家の秘密…遊びに行けない理由を聞いていたのに教えてくれなかった。私の気持ちに気づいた優斗に、勘違いだと吹き込んだ。
そして家の事で疲弊している優斗に優しくして、キスをするように仕向けた。
でも真面目な優斗はキスで終わりにしないで、キチンと美咲の彼氏になった。
美咲は目的を達成したから、そこで終わらせたかったけど、優斗に傷ついて欲しくなくて、私が美咲にそんな目的で優斗に近付いたと打ち明けたら許さない。美咲から別れを切り出したら殺すって言ったから、今も付き合っているけど蒲生さんは見ていられない冷遇ぶりだと教えてくれた。私は始まりが普通じゃなくても、美咲が優斗を幸せにしてくれると信じていた。それなのに美咲は優斗を傷つけ続けていた。
蒲生さんは今私の元に来た事を「清算」だと言った。そしてやることがわかったと言った。蒲生さんの清算は続く。
私は優斗の近況と蒲生さんの気持ちを知る事が清算で、優斗は美咲と私に何があったかを知る事が清算だと言ってくれた。
心を決めた蒲生さんが、優斗に会って真実を伝えてくれた。泣いた優斗は翌日美咲に会って真実を知ると、その足でウチに来てくれて、私のお腹を見ると玄関なのに蹲って泣いて謝ってくれた。何遍も「ごめん姫宮さん」「俺が気付かなくてごめん」と謝ってくれた。嬉しかった。その後は本当に驚いた。蒲生さんは小菅大樹がダメダメな事も優斗に教えてくれていて、優斗は真剣な顔で「俺が責任を取るのはダメかな?」と言ってくれた。言葉の意味を都合よく捉えないようにしながらも驚く私に、「話の通りだと、その小菅君に姫宮さんを支える事も、お腹の子供を支える事も無理だよね?俺はやるよ。勿論押し付けじゃなくて、姫宮さんが良ければだけど俺が父親になってもいいと思う。それが嫌なら援助だけでもさせてくれないかな?」と言ってくれた後は、真剣な表情から泣き顔に戻ってまた謝ってくれた。嬉しかった。本当に嬉しかった。優斗が美咲と付き合う事になってからの、一年半の傷口に染み渡る優しさが嬉しかった。でももうこの世界に居場所はない。どこか遠くの土地で暮らす?そんなのは無理だ。負担が全部優斗に行く。
私はもう疲れてしまっていた。だから私は「優斗、ありがとう。でも私はもう生きてるのが辛いの…。お腹の赤ちゃん。動いているし、生きているってわかるの。でも愛せる自信がない。優斗を忘れる為に、辛さを誤魔化すように付き合ってみた小菅大樹と、優斗を何遍も比べて嫌になった。別れたくて別れてって言ったけど、うまく説明ができなくて、最後は押し倒されて避妊もしてくれなくてこうなった。愛のないお腹の子に小菅大樹の血が混ざっていると思うと絶対に愛せない」と思ったままを告げたら、優斗は真っ青な顔で「姫宮さん?」と聞いてきた。
最後だから「明日香で呼んで」と伝えたら、恥ずかしそうに「明日香?」と聞いてくれた。
私が泣きながら「もう死にたいの」と言うと、優斗は止めてくれたけど、何度止められても「うん」と言わない私をみて、「俺も一緒に」と言った。今度は私が驚いて止めたのに、優斗は「俺も明日香と行くよ。お腹の子は明日香が愛せない分を俺が愛するから、3人でいよう」と言ってくれた。私は泣きながら何回も「本当?」と聞いたら、優斗は「本当だよ」と言ってくれた。
その後で蒲生さんに2人で報告をしたら、蒲生さんは「そんなつもりで清算をした訳じゃ、会わせた訳じゃないのにだめだよ」って泣いて止めてくれた。
何時間も止めてくれた蒲生さんに、2人でありがとうと言ってから、3人で写真を撮って、優斗に「優斗、蒲生さんも私と一緒で優斗が好きなんだよ」と教えてあげたら、あの懐かしい顔と声で「えぇ!?」と驚いてから、「蒲生さんみたいな真面目そうな子が?」と言って私をみて、「明日香もだけど何で?」と言っていた。蒲生さんと2人で泣きながら「そんな優斗だからだよ」と言うと、優斗も泣きながら笑って「ありがとう。この一年半は辛かった。好きなんて言ってもらえなかった。姿を見てもらえなかった。存在を認めて貰えなかった。だから今が1番幸せだよ。ありがとう」と言ってくれた。
蒲生さんを巻き込みたくなくて帰ってもらって、最後にありがとうバイバイとメッセージを送っておいた。
公園の東屋でこの手紙を書く時、優斗は「手紙を書きながら、気が変わったら言って。恥ずかしいことは何もないよ。生きていく道でもずっと明日香といるよ」と言ってくれた。
私はそれすら嬉しくて「キスして欲しい」と言って、2人で泣きながらキスをした。
「遊園地で告白すればよかった」、「一緒に大学生になりたかった」、「こんなのは嫌」と言いながらキスをしたら、優斗も「自分の気持ちに素直になればよかった」、「あの日、流されてキスをしなければよかった」、「明日香を幸せにしたかった」と言ってくれて、泣きながら何分も名前を呼びあってキスをした。
手紙を書きながらその先について話した。
多分だけど、この手順で私たちは死にます。
2人で私のお腹に手を置いて、赤ちゃんにごめんねと言ってから、抱きしめあって川に飛び込む。まだ水は冷たいし夜中を狙ったから人通りもない。発見は遅れると思う。この手紙を読んだお巡りさん達は、蒲生さんを呼んでくれる。蒲生さんは全部話すと言ってくれていたから、そうしたら全てが明らかになる]
本当に長い手紙だ。
だが問題は姫宮明日香にもあった。だからあの時、小菅大樹と付き合うことにしても、誰も止めなかったし誰も関谷優斗に真実を話さなかった。
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