第34話 関谷優斗の遺書。

卒業式の前日がお通夜で卒業式がお葬式だった。

最悪だった。


関谷優斗は姫宮明日香と心中していた。

現場には丁寧な遺書が遺されていて、関谷優斗の遺書にも姫宮明日香の遺書にも、私に向けて書かれた部分があり、警察に呼ばれて話を聞かれた。


警察は酷い。

周りを固めて逃げ場を封じてから私を呼んだ。

同じく遺書に名前のあった堀切拓海、そして殆ど接点のなかった蒲生葉子の2人に、事情を聞いてから私を呼んだ。


蒲生葉子は1年から関谷優斗と同じクラスだった。蒲生葉子は関谷優斗に恋をしていた。

見た目なんかではない、あの甘さにしか見えない優しさに惹かれた蒲生葉子は、2年になり姫宮明日香の熱烈なアプローチを見て身を引く事にした。


だが彼女になったのは、姫宮明日香ではなく私で、関谷優斗は幸せにはならなかった。

姫宮明日香もヤケになって、好きでもない男からの告白を受け入れて、望まぬ妊娠をした。


蒲生葉子は清算を選んだ。

姫宮明日香ではなく蒲生葉子が関谷優斗に事実を全て話した。

確かに蒲生葉子はノーチェックだったから、変更したメッセージのIDを手に入れる可能性もあった。


清算の結果、関谷優斗は私に真実を聞き、私から現実を突きつけられて姫宮明日香の元に行く。

手遅れになった姫宮明日香のお腹を見て、泣き崩れて謝った関谷優斗は、姫宮明日香の子供の父になると言ったが姫宮明日香はもう壊れていて、子供を産みたくない、死にたいと言い、関谷優斗はそれを受け入れて共に死んだ。


そんな簡単な経緯を警察で話してもらった。

私は自身を庇うように、初めはどうアレと言葉を選び、姫宮明日香に振り回される関谷優斗を見兼ねたうちに、一瞬気持ちが芽生えたと言った。

そして付き合ううちに、その気持ちがなくなったと言った。


説明の後で大きなため息をついた刑事の、「周りの話とは違うみたいだよ、王子美咲さん」と言った言葉に私は驚いてしまう。


蒲生葉子が姫宮明日香から全てを聞いて、全てを刑事に話していた。

諦めた私は素直に話をした。

女同士のやり取りという事で女性の刑事が話を聞いた後で、呆れながら取り返しのつかない事をしたと言ってきた。


心配でついてきた親は、全てを聞いて顔面蒼白になった。

だが改めて思ったが、私の謝らない所は親に似たのだろう。

すぐに「でもうちの美咲も被害者よね」と開き直ってくれた。


警察には姫宮明日香の家族が居たが、関谷優斗の家族は居なかった。

女性の刑事に聞いたら、妹が関谷優斗の死にショックを受けて、発作を起こして救急搬送されて入院してしまったらしく、すぐに来られなかったらしい。


蒲生葉子は清算と称して甲斐甲斐しく動く。

警察署でも姫宮明日香の親の横にいて、私を見て「彼女が王子美咲さんです」と言った。

憔悴した顔の姫宮明日香の母が、「あなたのせいで娘が!」と飛びかかってきたが、私の親が守ってくれた。


嫌な予感と存在の気持ち悪さから、すぐに蒲生葉子をブロックしたが、蒲生葉子から堀切拓海経由で、関谷優斗と姫宮明日香の遺書の写メが届いた。



[遺書

突然の事ですみません。俺は男として責任を取って、この世を去ります。生きることへの未練と、死ぬことに対して後悔はありません。

後悔があるとしたら、2年の時に姫宮明日香さんの気持ちに気づけなかった事。

堀切拓海君の応援を鵜呑みにしたかったのに、自分が姫宮明日香さんと何かがあるなんてないと思い、王子美咲さんの言葉を信じて、姫宮明日香さんの気持ちに気づけなかった事、それが後悔です。

未練は姫宮明日香さんを悲しませてしまい、助けを申し出ても助けられなかった事です。もっとやりようはあったのではないかと思いました。

俺と姫宮明日香さんがすれ違った事で、姫宮明日香さんは望まぬ恋愛と望まぬ妊娠で、居場所を失ってしまいました。一昨日、蒲生葉子さんが俺と姫宮明日香さんと王子美咲さんの事で、伝えなければいけないことがあると言って、全ての事を教えてくれました。

蒲生葉子さんは、聞かれたら全て語る覚悟があるから、辛い出来事を思い出してまで、遺書に何があったかを無理に書く必要はないと言ってくれました。

一応書くと、蒲生葉子さんは俺と姫宮明日香さんを最後まで止めて説得をしてくれました。でも姫宮明日香さんが生きる事を放棄して、この状況を作った一因を持つ俺は、男として責任を取ります。

王子美咲さん、あなたの彼氏として振る舞った約一年半。嫌な思いをさせてしまいすみませんでした。勘違いした自分の愚かさを恥じています。

父さん、母さん、愛、ごめんなさい。ですが自分のやるべき事がわかったつもりです。俺の為に貯めていてくれたお金は、愛に使ってあげてください。愛はお金の心配をせずに身体を治して夢へと進んでください。

優斗]


私はこの時初めて、関谷優斗の妹は関谷愛だと知った。

もしかしたら話の中に出てきていたのかも知れないが、特に記憶に留めていなかった。


それにしても関谷優斗らしい手紙だ。

だが蒲生葉子の気持ちを知ってか知らずか、書かずにいる辺りがやはり好みではない。

姫宮明日香の…誰かの為に自殺なんて選びたくない。

どうして自分を責めるのだろうか?

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