第31話 黒い感情。
遊園地後。
姫宮明日香から「気づいてないかも知れないから言うけど、優斗の事をいいと思ってるんだよね」と打ち明けられた。
気付かない訳がないだろうと呆れてしまった。
「もし何か知ってたり、私の事とか言ってたら教えてね」
この言葉に、私は「うん」とは返事をしたが、妹の事は言わなかった。
あの日、堀切拓海の根回しで写真を沢山撮った。
中には関谷優斗と姫宮明日香のツーショットが収まっていて、カップルにしか見えなかった。
アリバイづくりではないが、怪しまれないために堀切拓海と私のツーショット写真もある。
それのせいで関谷優斗は誤解して、堀切拓海に「堀切くんは王子さんと仲良くなりたいの?お似合いだから応援するよ」と言っていたらしい。堀切拓海は呆れながら話してきた。
やはり関谷優斗はおかしな男だ。
姫宮明日香に恋愛経験はない。
見た目は可愛らしいが、言い寄る男を捌いていただけで経験がない。
なので猛烈にアタックする以外の方法を知らない。
だがそれは彼女になりたい女性のものではない。
現に関谷優斗は姫宮明日香を妹としか見ていないし、妹に対する対応しかしていない。
それでも姫宮明日香が幸せならそれもいいのだろう。
末長く関係を育んでいって、関谷優斗の気持ちが恋に代わり結ばれれば幸せになる。
だが私はそれを待つ程お人好しではない。
今も散々比べられる姫宮明日香の本気の恋を、台無しにしたくなっていた。
転機はすぐに訪れた。
体育祭でコレでもかと関谷優斗に甘える姫宮明日香。
段々と女子連中からも見ていられないと、気分を害する者まで出てくる。
甘えた姫宮明日香は、喉が渇いたと言って赤く照れながらも甘えて、関谷優斗に間接キスを要求する。
「飲みかけでもいいから頂戴。死んじゃう〜」と言って、飲みかけのスポーツドリンクを飲んで、「返すね」とやる姫宮明日香に関谷優斗は照れて、「それは姫宮さんにあげるよ」と言うともう一度自販機に向かう。
姫宮明日香はついていくと、2人で戻ってきた時には更に新しいスポーツドリンクまで買ってもらっている。
嬉しそうに「優斗が飲みかけじゃ可哀想だからって買ってくれたの!」と言う姫宮明日香と、「最初からこうすれば良かったよ」と言って笑う関谷優斗。
姫宮明日香は飲まずに保存し出すんじゃないかと思ったし、やはり関谷優斗は妹に対する扱いに見えた。
だがこの日を境に、関谷優斗は姫宮明日香を意識する事になる。
愚かな関谷優斗は堀切拓海に相談をした。
相談内容は姫宮明日香の距離が近くて周りが勘違いするし、姫宮明日香に申し訳ないという関谷優斗らしい悩み。
それを聞いた堀切拓海は、呆れながら「俺には姫宮さんが好きなのは優斗に見えるけど?」と言ったらしく、関谷優斗は姫宮明日香を意識して悩み始めた。
姫宮明日香は関谷優斗の変化には敏感に反応をして密かに喜んだ。
私は「良かったね」とだけ言った。
次に私の元に相談に来た関谷優斗は、堀切拓海から聞いた話をどう思うかと、妹の事があって付き合っても何もしてあげられないというものだった。
「そうなのかな?明日香は関谷君に甘えてるだけじゃない?」
「それなら良かったよ。堀切くんが変な事を言うから変に意識しちゃって、姫宮さんに悪い事をしちゃったよ」
バカな関谷優斗はシレッと騙される。
「妹さんの事も真剣に考えてあげないとね。ご両親は祝福しても、やはり頼っている部分があるから、どこかで今まで通りにはいかないよね」
「…うん。ありがとう王子さん。意見が聞けて良かったよ」
これで姫宮明日香と関谷優斗はまた遠のいた。
天は味方している。
そんな訳はないが、このタイミングで隣のクラスの男子が姫宮明日香に告白をした。
姫宮明日香は勿論断る。
回ってきた話では、姫宮明日香のアピールが激しくなってきたから、せめて気持ちだけは伝えたいというものだったが、効果は絶大で関谷優斗は姫宮明日香に一定の線引きをした。
憔悴する姫宮明日香を見ていて溜飲が下がる。
きっと私は姫宮明日香がそんなに好きではなかったのだろう。
だが関谷優斗は姫宮明日香を妹としてケアをして慰める。
「姫宮さんはモテるんだから、あまり俺と仲良くしていると嫌がる人もいるよ?」
「私はそんなのいらないもん!優斗と居るよ!」
姫宮明日香の精一杯の想いだが、私から恋愛感情じゃないと聞いてしまった関谷優斗には届かない。
「ありがとう。嬉しいよ。俺も姫宮さんが困ったりしたら助けるから言ってね」
「…ありがとう」
このやり取りだけで気分が良かった。
何かをしたら何かが変わる。
私はここで手を引く事も考えなかった訳ではないが、姫宮明日香に勝ちたかった。
後で知る事だが、季節の変わり目で妹さんの調子が崩れて入院をした。
前回は一日の安静で復調していたが、今回は入院になってしまっていた。
その事で関谷優斗は少し参っていた。
ここに姫宮明日香が居たら応援もしたし一緒に通院もした。
彼女として支えただろうが私がその道を潰していた。
関谷優斗は話を知っている私に、相談と言うほどでもない報告を入れてくる。
それくらい弱って参っていた。
私はごく一般的な返事しかしていないのだが、関谷優斗は何遍もありがとうと言っていた。
関谷優斗の気持ちが私に傾くのを感じていた。
別に気のせいで済ませてもいいのだが、私は姫宮明日香に勝ちたかった。
だから話を聞くと言って何遍も2人きりになった。
病院の前まで付き添った。
そして妹さんが退院した後、公園で話を聞いた時に目を瞑って関谷優斗に顔を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます