第30話 変な男の秘密。
話が少しだけ動いたのは夏休みだった。
夏に遊びに行く話が出た時に、姫宮明日香は懲りずに関谷優斗を誘った。
関谷優斗は穏やかな笑顔で、「ありがとう」と言ってから、難しそうな顔をしながらもスマホを見て、お盆に1日だけ候補日を立ててきた。
姫宮明日香は「それでいいよ。もっと皆で仲良くしたいのに、優斗とはいつも遊びに行けない」と言って、関谷優斗を最優先にした予定を立てた。
席が近くて、そこそこ話の合う堀切拓海も誘うと、喜んで着いてくることになった。
なんとなく姫宮明日香と関谷優斗と3人では行きたくなかった。
姫宮明日香はご機嫌で、堀切拓海が付いてくるのも構わないと言った。
多分、私が関谷優斗と姫宮明日香の邪魔をするくらいならと思ったのだろう。
出かける先は遊園地になった。
全部姫宮明日香が決めてきた。
それだけ熱心なら2人で行けばいいのに、それだけは言い出せずに、可愛らしくニコニコと甘えるように関谷優斗に、「優斗、4人で行こうよ。来年は受験だから今しか遊べないよ?」と言っていて、関谷優斗から「ありがとう姫宮さん」と言われて喜んでいた。
夏休み中に連絡先の交換をした堀切拓海から、「姫宮さんって関谷の事?」と聞かれたが、すっとぼけて「どう思う?」と聞いたら、「多分アレは本気だから、2人が付き合えるようにしてあげたいね」と返ってきた。
お人好しがここにも居た。
私は「そうだね。そうだったら応援しようね」と返して誤魔化した。
遊園地で姫宮明日香は一つのミスをした。
多分、分水嶺という奴だ。
それを姫宮明日香は逃した。
張り切り倒した姫宮明日香は、熱中症のような症状でうずくまり、堀切拓海は乗り物酔いでダウンした。
2人をベンチで休ませた関谷優斗は、甲斐甲斐しく世話を焼き、飲み物を買ってくると言った。
流石に見ていられない私は、飲み物を買うのに付き合った。
夏の売店はかき入れ時で、賑わっていて中々先に進まない。
変な男、関谷優斗は「王子さんごめんね。混んでいるから先に戻っても平気だよ?」と声をかけてくる。
そういう訳にもいかないので、私が「そうもいかないよ。それに甲斐甲斐しくて、お母さんみたいで、関谷君はなんでそんなにやるの?」と聞く。
ハッキリ言えば、ある程度は友達として動いてもいいが、これはやり過ぎだと思う。
姫宮明日香は関谷優斗と遊べて嬉しくて仕方なくてダウンして、堀切拓海は乗り物に弱いなら遊園地の段階で断ればいい。
「んー…。昔からやってるからかな?」
「昔から?」
関谷優斗は「うん。だから慣れてるんだ」と言った。
踏み込んで聞く気なんて無かった。
だが渋滞にハマり、手持ち無沙汰で…。
黒い感情があった。
関谷優斗が姫宮明日香に言えばそれまでだが、聞いた私が黙っていたら、姫宮明日香も知らない事を聞ける。
姫宮明日香が嫌いとかではなかった。
だが横に居て、いつも可愛いと言われて、本人は謙遜をするが、私自身は可愛いと思う姫宮明日香。
その姫宮明日香が好きになった男の事で優位に立ちたかった。
その気持ちから「慣れてるの?なんで?」と聞いた。
少し困った顔をした関谷優斗は「…妹が居るんだ」と言った。
妹さんが居るから、姫宮明日香の甘ったれも平気なのだと言うことかと若干の期待外れに呆れてしまうと、「妹は昔から体が弱くてね、親は治療費を稼いだり、将来の事を考えて、共働きで頑張っているから、俺が世話をしてるんだ」と言った。
「え?じゃあ早く帰るのも?」
「うん。家の事をやっているんだ。後は妹が学校から帰ってきて、体調を崩していたらよくないから帰っておきたくてね。調子の崩し始めとかに処置をすれば、酷くならないからね」
なんという話だ。あまり聞きたくない。
だが列は中々進まないし他に話題もない。
会話は続いてしまい、「あれ?前に休んだのは?」と聞くと、「うん。妹の体調が悪くて病院。両親は仕事だからね」と返ってきた。
「ご両親は?」
「悪い事をしているって言ってくれるよ。普段だって友達と遊んでこいって言ってくれる」
「じゃあ今日は?」
「お盆休みで両親が家にいるよ。でも休みは親達も休みたいだろうから、1日だけもらう事にしたんだ。親は喜んで小遣いまでくれて申し訳ないよ」
照れくさそうな顔で申し訳なさそうに言う関谷優斗。
申し訳ない?
関谷優斗には貰う権利がある。
主張すべきだ。
私は「貰っておきなよ。ご両親も喜ぶよ」と言うと、関谷優斗は驚いた顔の後で、「王子さん。聞いてくれてありがとう。少し心が軽くなったよ。優しい人なんだね」と言ってきた。
本当に変わった男だ。
ベンチに戻ると、姫宮明日香も堀切拓海も少し復活していた。
長時間離れていた事を心配していたが、関谷優斗が「売店が混んでたんだよ。はい飲んで」と飲み物を渡すと、姫宮明日香は喜んで受け取る。
お金について堀切拓海が心配すると「俺あんまり使わないから小遣いあるんだ。平気だよ」と言って関谷優斗は笑う。
それだけで姫宮明日香は嬉しそうに関谷優斗を見ていた。
なんでお金を使わないかをキチンと知っているのは自分だけだと思うと、少しだけ心が気持ちよかった。
それ以外でも姫宮明日香はご機嫌で、多分だが堀切拓海がうまく行くように手伝うとか言ったのだとすぐにわかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます