第28話 (最終話)ゴールデンウイーク。

俺は大学生になった。

あの後は平凡な生活だった。


3年になる頃には受験もあって、港さくらとは空中分解に近い終わり方をした。

ゴールデンウィークに港さくらに会わない事を母親に突っ込まれていて、受験があるから空中分解したと言ったら、「そうなると思った」と言われた。


母親あるあるの適当な口から出まかせかと思ったが、話を聞く限り確度の高い予測だったそうだ。


「あんな変な環境で付き合ったのに、普通の恋人同士になれる訳ないでしょ。アンタはあの痛い女に懲りて普通の子がいいけど、港さんは刺激が足りなくなったのよ。下手したら彼女のいる男にしか興味を持てなくなったし、逆に彼氏ができても他の男に言い寄る子になるわよ」


あの清純…純朴なイメージがピッタリな港さくらに関しては信じられずに、「まさか」と思って笑い飛ばした。


未練がないと言えば嘘になるが、追いかけたい気持ちはなかった。

とりあえず向原小巻で懲りた。

恋愛は休みたい。


その甲斐あってか大学は早々に決まった。

そんな俺の元には、聞きたくないのに向原小巻の話が舞い込んでくる。


舎弟君は今も頑張ってくれている。

手も繋がせて貰えないが、「向原さんは目黒のせいでボロボロだから、僕がお支えします」と言っていて、進路指導の先生や、親の説得も無視して、やりたい事もない大学に行くらしい。


向原小巻もやりたい事があるのかわからない。

皆で仲良くオカンの決めた大学に行くようだった。

あの親がオカンに憑いて行けと言ったのだろう。着いてではない憑いてだ。

だが面倒見が良さそうに見えるが、オカンは簡単に裏切る女だ。

大学でもしも新たな彼氏や友達ができたら、オカンは向原小巻を切り捨てるだろう。

だがまあ知った事ではない。



卒業後、ゴールデンウィークには何かしらあるのだろう。

豊島一樹から「会おうぜ!」と言われた。


近況を話すにはゴールデンウィークはちょうどいい時間なのだろう。

だが特に何もない。

向原小巻みたいな女に言い寄られる事もない。

ようやく通学ラッシュに慣れたとしか言う事がなかったが、言われるがままに出向くと、そこには太田楓も居た。


豊島一樹は太田楓と仲良くなったが、付き合っていないらしい。

太田楓がスマホで何かやっている時に聞くと、豊島一樹は「んー…。智也を守る会の会長と副会長なだけだ」とそんな事を言っていた。

会長と副会長って会員は2人だけだろうに。


俺の「今日は3人?」の質問に、豊島一樹は「んにゃ。もうすぐ来るよ」と言われる。

「誰?」と聞き返していると、太田楓が「こっちこっち」と呼んだ。


それは港さくらだった。


俺はここで港さくらが出てくるとは思わなかった。

一年ぶりの港さくらは、少し化粧をしていたが港さくらだった。


「港?」と驚く俺に「にへへ」と笑う豊島一樹が、「ほら、2人って受験が理由で会ってなかったから、俺がキューピッド?」と言うと、太田楓が「さくらさんも目黒君を守る会の会員なんだよ。私達は連絡先の交換をしてたからね」と続けてスマホを見せてくる。


「智也君久しぶり」

久しぶりの港さくらは君付けで俺を呼ぶ。


俺が「久しぶり。元気してた?」と聞くと、豊島一樹が「んもー。智也はがっつくなって。とりあえずあちーからお茶しようぜ。そこでゆっくり話そうよ」と俺を制止して、太田楓に「どこにする?」と話している時、あの日の距離感で俺の横を歩く港さくらは、上気した顔で俺を見て、「学校で男の子に言い寄られててさ…。話聞いて欲しいんだよね」と囁くように言ってきた。


俺はその瞬間に母親の言葉を思い出していた。


港さくらは普通の恋ができない。

それは間違っていない。


刺激が欲しいんだ。


それは俺にしか晴らせない。

思い上がりかも知れないがそう思った。


何かをしたら何かが変わる。

それはそうだ。

その実感しかない。


今まさに岐路に立っている。

ここでの選択が今後を大きく変える。


そう思いながら俺は港さくらの口元を見て口を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る