第27話 夏の終わり。
向原小巻の周りの狂った人間達。
その教えに染まった向原小巻は、お姫様のように振る舞い、俺を引っ張り回してオカンや両親に褒められる。
本人はメッセージも送りたかったし、誕生日プレゼントにしても欲しいものではなかったが、嬉しくない訳ではなかった。
それでも主従関係をしっかりさせる為に表には出さなかった。
そうしたら俺から振られた。
向原小巻達のシナリオに、俺から振られるというものはなくて、急展開に慌てふためいたし、なんとか俺に復縁してくれと頭を下げさせたかったらしい。
そんな事を向原両親は悪びれる事なく話していたらしく、教師一同は頭を抱え、俺の両親は憤慨した。
ここまでで話が終わり、これからになるはずだったが、話の流れから迷惑をかけた港さくらの話になる。
「港さんって中学校の側に住んでいる子よね?」
「なんでこの話にその子が出てくるんだ?」
俺は「向原めぇ」と思いながら事の経緯を話した。
勿論二番目同士の仲の話はしない。
同じ頃に恋人(?)が出来たもの同士だった事、お互い自分に釣り合わない相手が恋人で困っていて、去年の夏休みに偶然会って相談をし合える仲になった事、そして港さくらが彼氏に振られたのと、俺が向原小巻にキチンと関係の終了を持ちかけた時期が近かった事。
そのまま彼氏と彼女になった事。
おしゃべり中野、中野真由にオカン達と共通の友達が居て、情報が筒抜けになっている事。
向原小巻がウチに来たのも、港さくらの家に突撃する事になった事も、全部中野真由がやらかした結果である事。
そこら辺を説明したら、母親は港さくらの家に電話して謝ってくれていた。
港さくらにメッセージである程度を話すと、「あの子は怖かったけど、色んなことが進んだりしてスッキリしたよ」と言ってくれた。
俺はそれから一つの事をキチンとさせた。
港さくらに了解を得て、豊島一樹や太田楓達に会ってもらって、キチンと彼女だと紹介した。
キチンとしていないのは浮気の期間がある事だけで、そこら辺は散々相談し合った仲だから付き合いたてのイメージが無いと誤魔化した。
豊島一樹は「遂に俺たち親友って感じだな!智也!」と喜んでくれた。
港さくらの友達にもキチンと彼氏だと挨拶をした。
それだけで心が軽くなる。
だが家に帰ると心が重くなる。
懲りずに向原小巻がうちの前に待機していて、地縛霊みたいで怖い。
近所には説明済みだが、やはり向原小巻が来るとゴシップに近所は沸き立つ。
遂に向原小巻は手すら握っていないのに想像妊娠をした。
インターフォン越しに「お腹の赤ちゃん」とか「パパ」と言われるたびに吐き気を催した。
親が弁護士を立てて、学校外での不必要な接近禁止を向原家に対して行った。
向原両親は娘を可愛がっているので、娘の経歴に傷がつくことだけは避けて、悪態をつきながらも認めようとしたが、散々俺を貶めて甘やかした向原小巻は法律ごときでは引き下がらなかった。
夏休み中という事でカウンセリングに通わせて、少し心が落ち着いた向原小巻は最後のお願いとして、俺とデートに行きたいと言い出したが、誰もが反対をして断ると向原小巻は失踪した。
緊急時には本性が見えると聞いたことがあるが、向原両親とオカンの奴はこの期に及んで俺のせいとして、泣きながら電話をしてきて「お前のせいで娘が!」、「小巻ちゃんを探して!」、「小巻を返して!」と騒ぎ立ててくれたので、弁護士先生にお願いして電話すらやめてもらった。
向原小巻が押しかけてくるかもしれないからと、港さくらには安全なところにいてもらった。これで嫌われる事も考えたが、酷い女に関わってしまった被害者として扱ってくれて逆に心配してくれた。
向原小巻は深夜になって警察に補導されて無事が確認された。
理想のデートコースを回ってきて楽しかったと微笑んでいたらしい。
本当に最後だったのか、両親が全力で止めたのかはわからないが、夏休み中にこれ以上の接近はなかった。これにより俺と港さくらは堂々とカップルのように…、実際付き合っているのだが振る舞う事ができた。
俺は恐怖に慄きながら新学期を迎えたが、なんとも想定外の終わりを迎えた。
夏休み中にちゃっかりオカンの奴が彼氏を作り、その彼氏の友達?舎弟?と向原小巻は付き合っていて、向原小巻は元彼?の俺が見てもキラキラと眩しい笑顔で御通学なされていて、あの夏の恐怖はなんだったのかと豊島一樹達と肩を落とした。
その横には岩渕先生も居て、「おいおいおいおい、嘘だろ…」と漏らしている。
俺はその日のうちにオカンに呼び出されて、指定した場所に行くと、舎弟君が居て「あなたは向原さんにふさわしくない。僕が彼女を守る」と言い出した。
後ろで仁王立ち&ドヤ顔のオカンと、オカンの彼氏だろう男と、向原小巻が物陰から満足そうにそれを見ている。
やれるもんならやってくれ。
舎弟君の顔がなんとも言えないドヤ顔で、俺の事を[向原小巻を幸せに出来なかった男]として軽蔑している節も感じる。
もう軽蔑でも侮蔑でもキャベツでも構わないから放っておいてくれ。
俺はニコリと笑うと、舎弟君に「君みたいな人がいてくれて良かったよ。俺は何も出来なかったけど、君なら安心だね。末長く幸せにね」と言うと、オカンにも「オカンも声かけてくれてありがとう。じゃ」と言ってその場を後にした。
向原小巻とオカンが苦虫を噛み潰したような顔をしていたので、俺が悔しがって「ぐぬぬ」とか言っている横を、「じゃ」とか言って通り過ぎたかったのかも知れないが、そんな訳あるか。
俺は自分の幸せの次に向原小巻と舎弟君が続く事を祈る。
あんな日々は二度とゴメンだ。
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