第26話 無茶苦茶な要求。

元彼女。

向原小巻は心を病んだ。

その全ての原因を俺のせいにしてきた。


2年連続で俺の担任をしてくれている岩渕先生は頭を抱える事になる。

向原の担任は別で、その先生は担任なのに登場もさせて貰えないで、よそのクラスの問題なのに岩渕先生が被らされる話になっていて、一学期の最終日に俺だけではなく、豊島一樹とこの前事情を知っていた太田楓まで呼び出しを受けて、事のあらましを話す事になった。


岩渕先生は「生徒達に言うことではないが、向原の親御さんの話は[立ち位置が向原寄りで、向原が完全な被害者で絶対に悪くない]だから、客観的に状況を知りたいんだ」と言って、太田楓が「悪いのは向原と東だよ」と言って説明をしてくれた。


豊島一樹は完全に置物だったが、女子達の動きを知る太田楓には大いに助けられた。

俺も知らない話に唸った岩渕先生は、「向原の親御さんからは、今のままじゃ向原は学校に来れない。環境作りを怠るなと言われてな」と困り顔で言うと、太田楓が「こなきゃいいじゃん」と即答する。


「そうもいかん。しかもよそのクラスの問題だぞ?」と言って肩を落とす岩渕先生と話してしまうと、何となく責任を感じてしまうが、俺の顔を見た豊島一樹が「バカ!智也は悪くない!」と言ってくれた。


俺はそれでなんとか気持ちが軽くなったが、岩渕先生は問題解決の見通しが立たない事に困っていて、豊島一樹と太田楓と【岩渕受難の夏】と言って、馬鹿話で盛り上がりながら帰りにしてしまった天罰だろうか?


岩渕先生が公平に状況を伝えて向原小巻の非を伝えてみたが、向原の親は認めなかった。


要求の全ては無茶苦茶だった。

俺との復縁。

俺が手をついて詫びる。

その他もごちゃごちゃあったが、ひと言で言えば卒業まで俺や学校は向原小巻に尽くして、向原小巻に振り回されろと言うものだった。


そしてクラス替えを緊急で行って、オカンと向原を一緒にしろと言うものもあった。


事態のヤバさから母親と呼び出された俺は、その話を聞いて頭を抱えた。

母親は向原小巻の事を付き合った最初しか聞いていなかったので、事の経緯と次第に憤慨し、「私からもキチンと相手の親御さんとお話しします」という事になった。


学校の電話を借りて向原家にかけると、母親はブチギレまくった後で、岩渕先生に「話になりません。会わせろ。いいから家を教えろ。そればかりですし、後は復縁を受け入れろばかりでした」と報告をして、サボテンが枯れてしまいそうなため息をついた。


学校側としても、こんな要求を飲む前例は作れないと突っぱねる事になった。

俺は自然淘汰ではないが、手に負えなければ切り捨てだって仕方ないだろうと思っていた。


俺はその気持ちをストレートに出して豊島一樹に愚痴を言うと、「親と夏休みに学校とかこの世の終わりだよ」と返事が来た。


笑えたのはその晩までだった。

夜中に大量の着信があった。


相手は向原小巻で、「会うと言え」ばかりだった。


起きて60件の未読メッセージに背筋が凍った。即座にメッセージを母親に見せて相談をしたらIDを変えるように言われた。

IDを変えて、港さくらに未読60のスクショと共に伝えると、「ふわぁ……。大丈夫?」と返事が来た。


豊島一樹は完全にドン引きで、「怪談より怪談」と言って、「とりあえずグループには俺から言っておくよ」と言ってくれた。

直近で連絡をしていた友達にも伝えたらまた夜中に来た。


教えていないのになんでわかるのかわからなかった。


そして一通目は「IDを変えたら彼女に報告するべきなのに、なんで言わないんだ」で、俺はスマホに向かって「さくらには言ったよバーロー」と呟いていた。


IDがバレたのは、中学の友達経由でおしゃべり中野がばら撒いていた。

おしゃべり中野が俺に連絡をとりたかったのに既読が付かないと言ったら、事情を知らない奴が話の流れから「ああ智也ならID変えたってさ」って感じで親切心で教えてしまっていた。


ID作戦をやめて、ブロックに変えたら向原小巻は家まで来た。

住所を教えていないのに来る向原小巻。

もう犯人はすぐにわかる。


IDの件も含めて、家に突撃してきた向原小巻が、「中野さんから聞いたの」と言って、中野真由に殺意が湧いた。


母親も向原小巻を知らなかったので、チャイムと共に「目黒君はいますか?」と言われれば、「暑いから玄関で待ってて」と言って家に上げてしまう。


向原小巻だと気付くと、俺のそばから離れずに帰れと言う母親には、涙が出そうになった。


向原小巻は何がなんでも帰らない。

母親がやんわりと、夕飯の時間だからをアピールしても帰らない。この態度にブチギレながら、ダイレクトに遅いから帰れと言っても帰らない。

仕事から帰ってきた父親が、頭を抱えながら送ると言っても帰ろうとしない。


諦めた俺は中野に連絡を取ると、簡単にオカンの電話番号をゲットしてくれたので、オカンに言って家の住所を聞き出して、半分無理矢理連れて行った。


終わっていると思ったのは、向原小巻の母親は「良かったわね小巻ちゃん」と言って長居させた事に詫びも無ければ、逆に食事も与えないなんてと文句すら言ってきた。


これには俺の両親がキレた。

翌日、仕事を休んだ父親は学校に電話をして、岩渕先生が真ん中に入る事でお互いの親だけで話す事になった。


俺は居場所が無いし身の危険もあるわけで、豊島一樹に頼んで保護をしてもらうと、「智也が居るから皆呼ぶよ」と言って男友達や、太田楓達が来てくれて1日遊ぶ事になった。


これは大正解だったが大失敗だった。


大正解は学校には親達だけでという話だったのに向原小巻がきていた。

俺がいない事に一家総出で文句を言ってきたが、初めから大人だけだと言ったと父親が言うと、「小巻ちゃん。先に帰りなさい」と向原母が言った。


だが帰った先は自宅ではなく俺の家だった。

炎天下に軒先で、体育座りで俺を待つ向原小巻のインパクトは果てしなかった。ご近所様から後日チクリと嫌味を言われたが、問題はそこじゃない。中野真由が何を思ったか知りたくもなかったが、向原小巻に港さくらの家を聞かれて教えていた。


それが大失敗だった。


港さくらは気丈に振る舞って向原小巻を撃退してくれた。

俺は後からそれを知って謝りに行くと、港のお母さんは俺たちの事を知っていて、呆れ混じりに応援してくれた。


帰宅した両親は頭を抱えていた。

俺も頭を抱えていて、説明するとカナリアならそれだけで死んでしまうようなため息をついた。


向原小巻の問題の原因はオカンと両親にあった。


家では両親が、外ではオカンが向原小巻を甘やかす。

蝶よ花よとお育てになられていた。


高校生になったら彼氏の1人も作らなきゃな。

でも男はケダモノだから、イニシアチブは常に持たなきゃダメだ。

キチンと上下関係を…主従関係をハッキリさせるべき。


それを狂った両親は娘に教え込んで、オカンのやつにも「陽奈子ちゃん。外で小巻を守って」とやらかして、世話焼きオカンは二つ返事で了解をする。そこで終わらんのは「小巻は可愛いし、言いよる男は暴力的かも知れないから、小巻がまだ許せる見た目で、気弱そうなのを見つけて小巻から告白させよう」とオカンの提案で、白羽の矢が直撃したのは俺だった。


もう勘弁して欲しかった。

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