第24話 無茶な要求。
話は荒れた。
これ以上ないくらい荒れた。
港さくらの方は極めて穏やかだったが、俺の方は荒れに荒れた。
「目黒君、大丈夫?」
「平気。まあおしゃべり中野に見られてたのは迂闊だったよなー」
俺はこの状況を逆手に取ることにして、ダメ彼女の事を相談している体裁で堂々と港さくらに会う事にした。
2人でフードコートで堂々と会って話すようになったのは、あの後すぐだった。
理由はいくらでもある。
あの彼女の話をすればいい。
オカンの奴が迷惑をかけた事を謝ればいい。
そう、あの話から心の友女は「オカン」のあだ名を付けられてしまった。オカンがヒガシって名字だった事も碌に知らなかった俺は、クラスメイトの豊島一樹から「東陽奈子のあだ名、「お節介オカン」になったな」と言われて、初めて名前を知った。
オカンの奴は時期的なものと精神的なものが重なったのか、インフルエンザになって1週間学校に来れなくなった。
その間に孤立した彼女は、しおらしく俺のところへ来れば良いものを、当初二日間意地になって俺を待った。
だが行くわけがない。
移動の時に横にくるくらいは今まで通りだったが、昼も何もなかった。
クラスの女子達も、ここぞとばかりに彼女を孤立させた。
豊島一樹と仲良くなった子達が、豊島と話しながら「目黒君もこっちくれば?」と昼になると俺を呼ぶし、豊島一樹が「そうだよな。もう一年が終わるのに、接点が少なかったもんな。智也も来いって」と言って俺を輪の中に連れて行く。
そしてこれ見よがしに「向原さんも来る?」と聞くが、彼女は泣きそうな顔と怒り混じりの顔で顔を背けてしまう。
彼女に声をかけた子は、ため息混じりに「あの子、オカンの奴が居るから調子づいて打ち解けて来ないし、これ見よがしに目黒君との仲をアピールだけはしてくるから、浮いてるんだよ」と言った。
オカンに依存をしている彼女が悪いのか、彼女の世話を焼きたいオカンが悪いのか、浮きに浮いている彼女は孤立すると弱々しく見えた。
1週間後。
戻ってきたオカンは、彼女からの告げ口にブチギレはしたが、クラスの中が変わっていて碌に何も言い返せずに大人しくなっていた。
この結果、彼女とオカンは親に泣きつき、親は担任に文句を言った。
高校生にもなってなんだそれ?と思ったが、俺は職員室に呼ばれて生徒指導室に連れて行かれた。
愚かなのは黙って帰ればいいのに、職員室に呼び出されて指導室に入れられる俺を見て、オカンが満足そうな顔をして、彼女が横で嬉しそうな顔をしていたのが見えてしまって、もう無理だと思った。
担任の先生は50手前で、まだ話はわかる人だった。
男としては俺の状況に同情してくれて、担任としては「申し訳ない事を言っている自覚はあるんだ。うまくやってくれないか?」と言ってきた。
「マジすか?アレですよ?」
「それはわかってる。目黒も向原と東のせいで浮いていたから心配していたんだが、今は豊島達ともうまく行っているし、あの2人にこれ以上何かを言うのは酷な話なんだ」
俺は「話は聞きますけど、雨の日にすっぽかされて謝りもない、そんな通学は二度としたくないし、返事もないのに連絡を入れ続けるなんてしませんよ?」と言うと、「それでいい。とりあえず話は聞いてくれた。それで済まそう」と言ってくれた担任は恐ろしい事を口走る。
「東が2年の選択授業に関して口を挟もうとしてきていて、向原の親を使って圧力をかけてきたんだ。目黒はどうしたい?」
「え?選択した授業でクラス分けが決まるって…」
「目黒には文系科目を選ばせるから、そうしたら同じクラスにして、仮に豊島達も文系だった時は、目黒と離せと言ってきている」
俺は聞いていてクラクラしてきた。
「先生?俺理系の方が成績良いんですけど?」
「知っている。だから頭を抱えてるんだ」
担任の本気の落胆ぶりに、ご愁傷様と思った俺は、「先生、嫌な予感するんですけど」と言う。
「なんだ?」
「この部屋の外にあの2人が居そう。さっきもザマアミロって顔でこっち見てたんですよ?」
担任は俺の顔と指導室の外を見て、「…あー…。どうする?」と聞いてきた。
俺が「部屋変えて、そのまま逃げられるようになりません?」と聞くと、担任はそこら辺はいい人だった。職員室に内線をかけてくれて、迎えにきた学年主任の教師が、「岩渕先生は別件があるから、俺と進路指導室に行こう」と俺を連れていきながら、「帰りに教室に戻るのは嫌だろう?」と会話を運んでくれて、帰り支度までさせて貰えて進路指導室に入れられると、「真面目な話、岩渕先生から聞いているが、青春には色恋も必要だけど、それで進路を歪める真似をしてはダメだ。目黒は理系に強いんだから理系に進みなさい」と言われた。
そのまま学年主任は何も知らない体裁で、「もう帰りなさい」と言って、俺を玄関まで連れていきながら、説教の体裁で「進路を真剣に考えるんだ」と言って、万一近くにいても割り込む隙を与えずに俺を逃してくれた。
そしてその週末にはフードコートで港さくらに話すと、冒頭の「目黒君大丈夫?」になった。
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