第23話 反撃。

俺は呆れ顔で、「別に構わないけど、年内も既読無視。年明けのあけましておめでとうのメッセージも既読無視。俺はクリスマスにプレゼントを渡したけど、何も貰ってないどころかお礼もない。これのどこに不利になる要素があるの?」と返して、「ないなら終わり」と言ってから男友達の方を向くと、「お前、強くなったな」、「父さん嬉しいぞ」なんて言われて、俺は「親父小遣い」と返して笑い合う。


その瞬間、心の友女から「アンタ小巻という者がありながら、浮気してるじゃない!」と怒鳴られた。


焦った。

正直「うわ」ってなった。


だが心の友女が愚かだったのは、俺に焦る暇も与えずにマシンガントークをしてきて、俺に冷静になる時間を与えてしまった事だった。


「年内既読無視!?細かい事でごちゃごちゃ言うなって言ってるでしょ!あけましておめでとうのメッセージだって、小巻の家は去年の2月にお爺ちゃんが死んじゃって喪中なの!彼氏なんだからそれくらい知ってなさいよ!クリスマスのプレゼントって別に小巻の欲しい物でもないし、威張らないでよ!」


俺は冷静になりながら、心の友女から彼女に視線を移すと、彼女はドヤ顔でこっちを見ている。

正直自分で言いに来いと言うやつだ。


「ほら!何か返せる?アンタが全部悪いのよ!謝って!小巻に謝って!手をついて詫びろ!」


勝ち誇った顔で、ふーふー言いながら話す心の友女に、俺は「何?お前って向原のオカンなの?」と聞くと、心の友女は一瞬の間の後で「は?」と聞き返してきた。


そしてクラスの他の女子達の嘲笑。

みるみる真っ赤になる心の友女。


「俺に何かがあるなら、向原が堂々と来るべきだろ?そんなに世話焼かないと向原は何もできないの?それともお前が世話焼きなの?」

「な…」


「それにさ、既読無視を細かい事とか言ってるけど、返信の一つもできないくらい忙しいなら、付き合うなんて無理だよ。喪中?そんなの聞いてないし、聞いていない事を知れってのは無理な話だよ。俺はエスパーじゃない」

「何よ…何を…」


「プレゼントが欲しくないもの?そもそもありがとう一つ言えないのに何様なの?彼女様なの?お返し一つ出来ないのに、向原を怒るんじゃなくて、オカンが怒鳴り込むなんて常識知らずもいいところだよ。恥ずかしくないの?」

「そ…それは…」


しどろもどろになる心の友女は唯一の望み。

俺と港さくらの話をしてくる。


「そんな事なんでもいい!」

「なら言うなよ」


間髪入れずに返すと、クラスからは嘲笑と共に、「ウケる」、「ダサ」、「本当だよね」とか聞こえてくる。


「アンタ浮気してんじゃない!それだけで全部アンタが悪いわよ!」

「証拠あるの?どこで見たの?誰に聞いたの?」


「私の友達が、アンタと同じ中学を出た子と知り合いだから、教えてもらったの!ショッピングセンターで2人でいたって!」

成程、見られていたかと冷静になった俺は、「それ絶対に俺なの?違っていたら、そんな事まで皆の前でベラベラと話した事を謝れるんだよな?手をつくんだっけ?」と言った。


浮気男は慌てて取り繕うとでも思っていたのか、心の友女は顔色が悪くなる。


そこに担任が「ホームルーム始めるぞー」と言って入ってきて、話が終わる所で彼女と心の友女は泣きながら教室を飛び出して行ってしまって少し騒ぎになったが、それこそ知ったことではない。

清々した気持ちで「帰ってくんな」と思っていた。


スマホを取り出して、港さくらに「なんか見られてたみたい」と送ると、向こうの休み時間だろうか「うん。ありがとう」と返事が来た。


まあなんの問題もない。

2番目同士という事で、説明理由は用意してある。

仮に心の友女が騒ぎ立てても、恥をかくのは向こう側だ。



2時間目の終わりに、目を真っ赤にして帰ってくるなり俺を睨む彼女と心の友女。

今になって気付いたが、2人はクラスで浮いていた。


小さく、「むかえにきなさいよー」、「ちいさいおとこねー」と揶揄う声と嘲笑が聞こえてきた。


そして休み時間。

案の定、肩で風を切って俺の前に現れると、腕を組んで仁王立ちの心の友女は「アンタの浮気相手って、港って女でしょ!」と言ってきた。


この2時間で調べたのか…。


俺は呆れ顔でよくやるよと思いながら、「それで?」と聞くと、またまた思ったリアクションと違うのか「え!?」と返ってきた。


どんだけアドリブに弱いんだよ。



俺の「名字だけで因縁つけるのやめろよ」と言った言葉に、心の友女は「さくらよ!港さくら!アンタの中学に中野真由って子が居たでしょ!その子が見てたんだから!」とベラベラと面白いように話してくれる。


成程。おしゃべり中野に見られていたのなら、周りにバレるのも時間の問題だし、港も誰かに何か言われているかも知れない。


「港の奴には彼氏がいるぜ?」

「え!?アンタじゃ…」


「何言ってんの?勝手に物語を作るなよ。中学の時によくつるんだ連中の中で、彼氏彼女が出来たのが俺と港で、たまたまショッピングセンターで会ったから話を聞いてもらう仲にはなってるけど、浮気なんてしてない。それこそ彼女がプレゼントを渡してもありがとうもない、既読無視をしてくるって話を聞いてもらっただけだよ」


一気に捲し立てると、また「ダサ」と言う揶揄いの声が聞こえてきてしまう。


「もうないなら戻んなよ」


もう俺の完全勝利だった。

また顔を真っ赤にしてハンドタオルで顔を覆いながら、彼女と心の友女は出ていってしまい4時間目の終わりまで戻って来なかった。


「清々する」

「目黒の勝ち」

「そりゃあ浮気だってされるよね」

「手を握ったらケダモノ!」

「オカン号泣してたね」


そんな声が女子の方から聞こえてきてきていた。

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