第21話 2番目の恋人同士。

夏休み明け、港さくらも大変な目に遭っていた。

開校記念日で学校が休みの日、親は共働きで不在。

日中なら門限がないからと、彼氏に呼び出されて彼氏の家に行く事になっていた。


身構えて行ったが、案の定だったらしい。


タバコ臭さを消すように消臭剤を撒いた形跡。

雰囲気作りかわからないが、甘ったるい匂いのお香。

そして無駄に綺麗にされたベッド脇には、いやでも何かを考えさせられる、ティッシュペーパーと避妊具らしき箱。


怯えながらも、最初は特に何も起きなくて安心しかけたが、油断したところで襲われかけたらしい。

港さくらが嫌がっても、止まらなかった彼氏だったが、港さくらが泣いた所で興醒めしたらしく、そのあとは何もなく夕方には解放されていた。


その後の冷遇具合と言ったらなかったらしい。



「それでも彼女なんだって。嫌になっちゃうよ」と言われて、「何なんだいったい?わけわからん」と返事をした。


多分共依存に近い。

俺は彼女に対する不満を港さくらとのメッセージに救われ、港さくらも彼氏に対する不満を俺とのメッセージで誤魔化していた。


俺達も…俺だけかも知れないが、不健全なのは港さくらとのメッセージのお陰で彼女に対して大らかになれた。


それこそ、あのお節介で意味不明の心の友女が言った大きな男なのだろう。好き勝手放って置かれたと思えば、都合良く彼氏扱いされる事も、手すら握れない事もどうでも良くなっていた。


周りは案外よく見ていて、クラスメイト達は「悲惨」、「可哀想」、「逃げられないじゃん」、「憑き遭ってる相手?」なんて笑い話にしながらも、何もない俺に同情してくれて居場所を残しておいてくれた。


そして11月。

彼女は俺の誕生日を無視した。

俺は夏に会った時にキチンとプレゼントを渡していた。だが誕生日当日は、あの心の友女と出かけていた為に、メッセージを既読無視して会えなかった事を新学期の会話で知った。

ちなみにプレゼントは、何が喜ばれるかなんてわからなくて、安物だったがネックレスを渡したが付けたところは見てもいない。


それを愚痴ると、港さくらは「誕生日って11月なの?言ってくれればいいのに!」と言うと、夕方になってショッピングセンターに呼び出された。


港さくらは「何をあげたらいいかわからないから」と言って、スポーツ用品店で買ったフェイスタオルをプレゼントしてくれた。


彼女から無視された事もあって、倍嬉しかった俺は素直に「ありがとう。嬉しい」と言いながら、「港の誕生日は?」と聞くと、「海老で鯛を釣るとか嫌だから言いたくないけど12月の終わりの方」と言われる。


俺は誕生日プレゼントをあげたいと思っていた。

また2人でフードコートで話をしていると、港さくらは彼氏の愚痴を言ってきた。

あの泣いた日からギクシャクが加速していて、彼氏はバイト先の高校生から二十歳前後までの女子を引き合いに出して港さくらを貶めていた。


「あの子はお化粧が上手で綺麗」

「あの子は門限なんてない」

「あの子は性におおらか」

「あの子は飲み会にも着いてくる」


そんなことばっかりを言われていたらしい。

そもそも、それならその相手と付き合えばいい。

港さくらにそれを求める事が間違いだと、何で気づかないのか不思議だった。


港さくらは愚痴を言いながら泣く。

フードコートの目線が自分に向いている気がしてしまうが、気にせずに港さくらに「それならその相手と付き合えばいいんだよ。それに合わせる必要なんてないよ」と説明して、「本当になんなんだろうな。俺の方も肩書きとかいらないから、解放して欲しいよ」と言って、「港も早く解放されるといいな」と言った時だった。


「ねぇ、2番目同士になろうよ」


港さくらは潤んだ瞳で俺を見ながら、「ねぇ、2番目同士になろうよ」と言った。

何を言われたのかわからなかった。


俺がわかっていない事を察したからか、港さくらは「私も彼氏が別れるって言わないし、目黒君も彼女が別れるって言わない。だから私と目黒君で付き合うの。どうかな?」と言った。


「それって…浮気?」

「他の人に見られたらそうでも、私は彼氏に気持ちないし、目黒君も彼女に気持ちがないなら浮気じゃないよ」


港さくらはそう言って俺を見つめてくる。


何かをしたら何かが変わる。


俺は人生の岐路に立った気でいた。

この半年の事を思い出した。


クラスメイトの「お前あの向原と3年間続けるの?」、「そのまま結婚とかしたら人生真っ暗だぜ?」、「もう「お前とは終わった」で終わらせちゃえよ」と言った言葉を思い出して怖くなった。


3年後もそばに居るなんて思いたくなかった。

俺の彼女は向原小巻だけなんていう一生は嫌だった。


俺は「うまくやれるかわからないけど…」と言って頷くと、港さくらは満面の笑顔で「ありがとう。嬉しいよ目黒君」と言ってくれた。


「え…と…。彼女が居ても手すら握れない男だから、何したらいいかとかわからないけど、気になったら教えて」

「うん。私こそ彼女らしい事を何もした事ないけどよろしくね」


俺が真っ赤になると港さくらはそれすら喜んでくれて、一緒にショッピングセンターを回った。


「ごめん。一緒に買い物とかしてみたいんだ」

「うん。私もしたかったんだ」


中学時代の奴らに見られたら面倒だが、気にせずにショッピングを楽しんだ。最後は港さくらが「手、繋ごうか?」と言ってくれて、俺は手を繋いで泣いてしまった。


俺の涙を見た港さくらは、「そんなに辛かったの?それなのに我慢しようとしたの?2番目同士だけど、私は目黒君と手を繋げて嬉しいよ」と言ってくれて、俺は「ごめん。ありがとう」と言って港さくらの手の温かさを感じていた。

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