第20話 別れられない。

俺は港さくらに依存していた。

彼女が既読無視をすれば、「既読無視されて3日目。キツい」と港さくらに送る。


港さくらは早い返事で、「困ったね。せめてスタンプくらいは欲しいよね」と返してくれる。


そして鳴らないスマホほどつまらないものはなくて、港さくらから「バイト終わり。彼氏は今日も飲み会なんだって。夏休みだから来るか?と聞かれたけど、未成年で高校生だしバレたら大変だって言ってるのに、「平気だって」しか言わなくて、断るの大変だったよ」と入ってくると、嬉しくて「マジで!?20歳は怖いな。バイト先までお母さんに迎えにきて貰えば?」と返す。


「無理だよ。お母さんは押しに弱いから、どうぞとか言いそうだもん」

「oh、そりゃマズイな」


そんなやり取りが頻繁に繰り返されると、夏休みはあっという間に終わる。

最後の方は彼女の存在は遠い彼方に消えていた。


新学期の彼女は少し垢抜けていた。

クラスにいる仲の良い女子と楽しく過ごしたようで、その話題で盛り上がっている。


だが俺には一緒に通学を要求してきて、彼氏の肩書きを渡すだけで何もない。


港さくらに愚痴ると「うわ、キツいね。私も彼氏が学校休めばとかしつこくて困る」と返事が来た。


文化祭の日に彼女と一緒に校内を回る時に、手を繋ごうとしたらコレでもかと悪く言われ、どうやって何を聞いたのか、彼女の心の友達女からケダモノ扱いをされた。


俺はその帰りに「懲りたか?」と顔に書いてある彼女に、「俺達は付き合っているんだよな?」と聞いた。


別に進んでいる奴らみたいに、キスやセックスを今すぐしたいと言っている訳ではないが、俺の理想の恋人同士からは、かけ離れすぎていて不安で堪らなかったし、不満が爆発しそうだった。


逆に言えば、港さくらに話を聞いて貰えていたからこそ、ここまで我慢できていた。

港さくらも彼氏から家に来いと言われ続けていて、怖くて逃げている状況だった。

港さくらの気持ちを聞いたからこそ、彼女にキスやセックスを無理に求めようとは思わなかった。


ここで彼女が「そうだよ。智也と私は付き合っているんだよ」、「私が智也の彼女だよ」と言ってくれれば、まだ救いがあったと思ったが、「そう思えばそうで、違うと思えば違うんじゃない?」と言われて校内に1人取り残された。

外から聞こえてくるサッカー部の声や吹奏楽部の演奏が嫌に耳に残った。



次の日から通学は1人でした。

学校でも解放されたとばかりに、男友達と話して遊んで一緒に飯を食べた。

1週間後に例の心の友女から廊下に呼び出されて、「謝って。小巻こまきに謝ってよ」と詰め寄られた。


「謝ってって何に?向原むかいはらに何を謝るんだよ」と返したら、「はぁ?アンタ小巻の彼氏なんでしょ?彼女泣かせて何やってんの?寂しがらせて悪いって思わないの?」と言われた俺は我慢の限界で、「寂しい?メッセージ送れば平気で何日も既読無視、手を繋ごうとしたらケダモノ扱い、雨の日に待ち合わせ場所で待たせて謝罪もなし、しまいには彼氏彼女かと聞けば、「俺の気持ち次第」みたいな返事をして1人で先に帰る。それで何が寂しいって?教えてくれよ!」と逆に詰め返してしまった。


心の友女は、俺を気弱なチワワとでも思い込んでいたのか、言い返されるなんて思わなかったのか、真っ赤になって、「小さい男!小巻は束縛なんてされたくないの!既読無視くらい大きな心になって笑って許してあげなさいよ。手が繋げないくらいでグジグジ情けない。雨の日の謝罪?いちいち言う事が小さいのよ!あの日だって、アンタから彼氏でいさせてくれって頭を下げて、追いかけてくるのを小巻は待ってたんだ!」と言い返してきた。


頭を下げる?

あの状況下で追いかける?


俺は呆れて「小さくていいんで。終わり?もういい?じゃ」と言って教室に戻ると、男友達から「修羅場!」「目黒 痴話喧嘩 智也って名乗ろうぜ」と揶揄われて、「マジありえん」と言って笑い合った。


1週間後、彼女…向原小巻から「別れないから」とだけメッセージが入ってきて、俺は未だ彼氏の肩書きを持たされている事を知って愕然とした。


ボードゲームで取り憑いてくると、離れないで悪さをしてくるキャラクターを思い出して、誰かになすりつけたくなった。


この事を港さくらに言うと、「うわぁ。私も彼氏に別れたいって言ったら認めないって言われた。別れるのって双方の合意って必要なのかな?」と返ってきた。

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