その申し出に頷いたら。
第19話 彼氏と彼女。
何かをしたら何かが変わる。
それはそうだ。
その実感しかない。
今まさに岐路に立っている。
ここでの選択が、今後を大きく変える。
ものの数分だが、俺はこの半年を思い返していた。
高校一年のゴールデンウィーク明け、クラスの女子から告白をされた。
高校デビューではないが、初の彼女に心躍った。
沢山様々な夢想をしてしまった。
年相応の可愛いものから、大人の階段を少し登った先の事まで考えていた。
ゴールデンウィーク中はそんな事は1ミリも考えられなかった。
ずっと友達なんて言っていた、中学の時の連中と出かけて遊んでいて、現実に戻ると告白をされた。
翌週も中学の友達と遊ぶ約束をしていたので、もしかしたらもう遊べなくなるかもと言って、彼女ができた話で大盛り上がりされた。
男女合わせた仲間内で大盛り上がりしていると、女子の1人が「私も告白されたよー」と言って、話題を全部持っていかれた。
「見せ場が…」と思ったが、それすら楽しかった。
楽しくて笑ってしまった。
まあその時がピークだった。
彼女は名ばかりの彼女だった。
俺は彼女にとって都合良く彼氏をする事になる。
一緒に通学と言われて、待ち合わせをする為に30分早く家を出て、わざわざ彼女の家がある遠方まで行ってから通学をしたが、俺を待たせても平気な彼女のせいで遅刻をしかけたり、小雨の日に連絡もなく彼女はバスに切り替えて、雨の中待ちぼうけを食らったりした。
だがやはり学校に彼女がいるというのは心が豊かになる。
行事の時なんかに2人でいるのはやはり特別感もある。
それだけで……。
後は持ち前の気の弱さで終わりにできずにいた。
夏休みは悲惨だった。
会ったのは2回だけだった。
理由を知りたくて何を聞いても、返事は「別に」だけだった。
友人たちとは遊べなかった。
この状況を話せなかった。
自分で理解できていないものを人に話して、笑われても、質問を返されても、受け止めきれないから話せなかった。話さなかった。
かといって、家にいても親がウザい。
彼女はどうした?友達はどうした?家にずっと居るつもりか?
そんな事を言われていた。
あまりに暇で、宿題を片付けてしまったくらいだった。
毎年出かける祭りの日には、流石に家にもいづらかったので、諦めて1人で外に出た。
適当に時間を潰せて、友達たちに会わないで済む場所を考えた時、皆が祭りに行くならと言う事で、近くのショッピングセンターに行って、フードコートで飲み物を飲みながら時間を潰す事にした。
そんな時、「あれ?目黒君?」と声をかけられた。
まさか人に会うなんて思わなかった俺は、慌てて声の方を向くと前には港さくらが居た。
港さくらはゴールデンウィーク明けに、彼氏ができたと言って話題をかっさらっていった女子だった。
「目黒君どうしたの?」
「色々あって、そっちは?」
俺からしたら、彼氏の居る港さくらがここに1人でいる事が気になってしまった。
もしかしたら彼氏はトイレか何かかもしれない。
「え……と」と困った顔の港さくらが、「笑わないかな?誰にも言わないでね」と言ってから、「今日1人でさ、皆とはちょっと会いにくくて」と言って半笑い、うすら笑顔を浮かべていた。
「港も?俺も。仲間だな」
俺の言葉に救われた顔をする港さくらが、「一緒してもいい?」と聞いてきたので、「助かる。一緒してくれ」と言って2人で時間を潰す事になった。
港さくらの話は俺に近かった。
春先に出来た彼氏とうまく行っていなかった。
相手はバイト先の二十歳のフリーターで、仕事中はバリバリ働いていて素敵な人だと思ったら、向こうから付き合わないかと誘われていた。
だが16歳の俺たちからする4歳の歳の差は大きすぎた。
彼氏は港さくらに無理難題を突きつけてきた。
バイト後はすぐに帰るように言われているのに、少しだけだから一緒に居ようと言って門限を破らせようとする。
泊まりを要求する。
飲み会に連れて行って飲酒をさせようとした事もあったらしい。
身持ちの硬さからそこら辺を拒んだら、彼氏は港さくらを相手にしないで、男友達と飲み会に行ったり、オールナイトで遊び歩くようになってしまったと言う。
だが別れる気はないらしく、港さくらを半放置しながら束縛していた。
半ベソでそれを話す港さくらに、「そこまで一緒かよ」と言ってから、彼女に振り回されて、夏になったらと予定していた事が全滅して、誰にも話せなくて会いにくくてここにいると話すと、「一緒だね」と言った港さくらから笑いながら「目黒君はその彼女と別れないの?」と聞かれた。
何遍も自問しているが答えの出ない話。
手持ち無沙汰の夏休みなんて、考える時間ばかりで常に考えていた。
別れてからの事を考えると面倒に感じるのと、別れると言う事の面倒さで困っている事を告げると、「優しい…のかな?難しいよね。でもわかるな。私ならバイト先だから辞めちゃえば良いけど、学校だとそうは行かないよね」と港さくらは言った。
俺は嬉しくなって「そうなんだよ!」と言って、「わかってくれて嬉しいよ」と言った時に、心がスッと軽くなるのを感じた。
夏祭りが完全に終わると、誰かしらに会いそうだったから、早めに切り上げて帰る時、港さくらは「これからも話聞いてくれないかな?」と言ってきた。
俺は「助かる」と言ってメッセージアプリのIDの確認をしあってから帰宅した。
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