第15話 火とガソリンの反撃。

取材の申し込みも無視して、好き勝手怒鳴り散らしていた鳥人間には、正直申し訳なさよりも怒りの方が上回ってきていた。


泣いて謝っていた田村綾子の姿。俺が頭を下げ続けて謝る所に、鳥人間なりの配慮はあったが、おしぼりをコレでもかと投げつけられて怒鳴られる事に、申し訳なさより怒りの方が上回ってきていた。


「オラ!聞いてんのかよ!何とか言えよ!」と言った鳥人間の言葉にキレた俺は、鳥人間を間蛭代表のように「散々黙って聞いていたら好き勝手言いやがって!俺の辛さなんて無視か!?大切に作って成功させた町おこし写真隊を奪われて、荒らされて、汚されて!この街を追い出されて、仕事も失って!裁判まで起こされて!奪われた後も責任者とか勝手に名前使われて!居場所もなくなったのを拾ってくれたのは浅一で、夢工房で、この田村さんだ!恩義に報いる為にも!ものづくりをする者としても、いいものを作って何が悪い!当然だろう!」と怒鳴りつけると、俺の剣幕に何も言えなくなる鳥人間。


ふーふーと言いながら、少しやり過ぎた感はあったが、田村綾子を見ると「よく言いました!もっと言いましょう」と俺を応援する。


そう。

俺と田村綾子は火と油。

村木さんに言わせれば火とガソリン。


止まるわけが無かった。


田村綾子のもっと言えを聞いた鳥人間が、「わかった、もういい」と言ってきたが手遅れだ。何を勝手に幕引きしているのか。こうなったら止まらない。外を見れば人集りも出来ているし、その中には取材相手も居るし、タウン誌からは外れていたが、町おこし写真隊でお世話になった人達もいた。


それらを無視して「開店前だから平気ですね。行きますよ」と言って、戸締りだけさせると、鳥人間を連れて組合長の元に言って、「鳥人間さんとは話しました。怒りのほどがわかりました。俺の気持ちもほんの少しだけ伝えました。今のままでは良いものが作れません。今からお話を聞きに行って気持ちを伝えます。俺に遺恨や禍根のある店舗を全て教えてください。それが終わってから取材します」と言う。


後日、組合長から言われたのは、「真っ青な顔をした鳥人間と、泣いた田村綾子と、真っ赤な俺がきた時にはとにかく困惑した」だった。


その日はひたすら謝罪行脚をした。

帰りたがる鳥人間を捕まえたまま、組合長を連れて5店舗程回った。

回るたびにその店舗のオーナーも捕まえて次の店舗に向かう。

何を言われても、「全員の理解を得た事を全員に見てもらいます」と言って聞かずに、田村綾子も「それがいいです!」と泣きながら言ってくれる。


間蛭商店街では地獄の行進と呼ばれたらしいが知らなかった。

不満の大半は鳥人間と変わらなかったし、更にあった不満は、懲りずに町おこし写真隊に掲載してやると迫った旧友が、過度なサービスを要求したのにホームページは待てど暮らせど更新されない事だった。


旧友の面の皮の厚さだけは評価できてしまう。

それだけ詐欺に近い事をしても堂々と間蛭で生きていた。

俺には無理だ。


気持ちをぶつけ合って理解を得た俺は、「明日から取材に伺います。前の文章は裁判で向こうに渡してしまっていて使えないので、新規で考えますからよろしくお願いします」と言って間蛭を後にした。


定時は過ぎていたが、まだ社長達は夢工房に居てくれた。

帰るなり「残業禁止。帰れ。今から俺たちも帰る。これで美味いもんでも食って帰れ」と言われて福沢諭吉さんを渡された。


田村綾子と話して焼肉屋に顔を出す。

ビールとキムチで乾杯をする中で、田村綾子に諸々の礼を言うと、村木さんの言葉通り怒られた。


「お礼なんていりません!次は因縁の間蛭です!他の商店街と差はつけませんが最高の物を作りますよ!」


そう言われた俺は素直に頷いて2人で肉を食べる。

前におすすめと言われたビビンバより冷麺のが美味しかったので、オーナーに聞いてみると「冬場はそんなに売れないし、字面で寒そうだから言えないよ」と言われたが、「次回は「冬でも食べたくなる旨さ」で冷麺にしましょう」と言うと、「仕事人間だな」と笑われた。


帰りに田村綾子から「やっぱりお礼ください」と言われる。

何を求められるのか、何となく身構えたが同衾だった。


「冬だし、1人で寝るのは嫌です」

「最近照れるんですよ」


「慣れてください。今日は泣いてしまったから、抱きしめて貰って眠りたいし、怒った太田さんを見て嬉しかったから、抱きしめて眠らせてください」


俺は「怒って嬉しい?」と聞き返すと、田村綾子は「嬉しかったです。心のままに吐き出してくれた。力強かったですよ」と言って、「ウチに来てください」と言われて田村綾子の家に言って風呂に入って寝た。


何も無かった。

あるわけがない。

そもそも経験がないので、どうして良いかなんてわからない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る