全てを捨てたら。
第7話 ホームページ。
何かをしたら何かが始まる。
何かをしたら何かが変わる。
損得勘定主義は話にならない。
「友達なら」「家族なら」「恋人なら」
この言葉の後に入るのは「損をしても付き合うべきだ」という言葉達。
損得勘定主義も、徹底していればまだいいが、ダブルスタンダードは本当に話にならない。
自分が得をする為には徹底的に不義理を行うが、こちらが得を優先して、相手に不義理を行おうとすると文句を言ってくる。
「お前だけはダメだ」だそうだ。
聞いていて頭がクラクラしてしまう。
本物の損得勘定主義なら、「損はダメだな」とこちらの損を許せないだろう。
昔からそれを痛感していた。
大学を卒業した。
不景気の世の中で、どんな仕事であれ正社員につけた事は良かったと思った。
だが同時に、漠然とした不安感と焦燥感に襲われた。
終身雇用の世の中ではなくなったが、やはり転職を繰り返す事は、世間的にも印象が良くないし、一つの所に腰を据える必要もある。
会社側も長年勤める事を期待している気がして、無碍にできなかった。
そう思った時、22歳で人生が全て決まった気がしてしまい、このレールの先にはロクな分岐もなく、死へと向かうと思った時、漠然とした不安に襲われた。
勤め先には妙齢の女性が少なくて、結婚に関して考えた時に、職場で探す事がそもそも正しいのかわからないが、相手のいない事も原因の一つにあった。
上の事もあってか、学生時代の縁が切れなかった。
飲み会には率先して参加をして、出会いの間口は閉ざさなかった。
だがそれだけだった。
今思えば急ぎすぎていたのだろう。
仕事にしても人一倍早く終わらせた。
ゆったりした空気に流されないように働き続けた。
何かを感じてくれたのか、社長がホームページに興味を持って、ホームページのデザインを作ってみないかとソフトを用意して聞いてくれた。
規定量の仕事を片付けた後で、1日1時間半程ホームページ作成に打ち込んだ。
新しい事をしているという実感が、渇いた心に染み渡って活力をくれていた。
会社のホームページは2ヶ月かかったが、素人仕事にしては納得のいくものが出来た。
理解のない古参の人達からは遊んでいると言われたが、取引先の人達は見てくれていて、社長は「羨ましい」と言われた。
他にも業者に頼もうとしたら、とてつもない金額を請求された話を持ち出して、社長に「こんな立派なホームページがあるなんて羨ましい」と言った話なんかもあって社長は鼻高々だった。
そして社長は取引先のホームページも頼めないかと言ってきた。
話を聞くと、簡単で構わないし、付き合いを大事にしたいからと言われた。
そして拙いものでも作れば喜ばれて、喜ばれると頑張ろうという気持ちになれた。
多分ここら辺が転機だったと思う。
各世帯にインターネットが普及していく中で、自分のホームページを持ちたくなった。
だがここで困ったのは「何をするか」だった。
会社のホームページはその点から見れば簡単だった。
取扱商品、会社の沿革、会社案内みたいなものを、ホームページに落とし込めば良かったからだ。
だが完全に個人で好きに作れるホームページは、何をしていいかわからなかった。
二週間悩んで、町おこしではないが自分の住む街のホームページを、勝手に作ってしまうことにした。
「町おこし写真隊」として、フォトスポットになりそうな場所に行って写真を撮って、手書き風の地図にそれを書き込んでアップロードする。
休日の度に写真を撮り溜めて、平日の夜にホームページを作る。
飲み会に行く頻度を減らしたら、「彼女が出来たのか?」と旧友に言われたが、趣味ができたと言うと暇人認定をされた。
暇人と言われたのが引っかかって、一緒に町おこし写真隊に入るかと聞いたら「有名になったら手伝ってやるよ」と言われた。何様なんだと呆れてしまった。
昼を地元で食べる際に、軒先の写真と食べたものの写真をホームページに載せたいと言うと、初めは嫌がられたが、次第に「変な事は書かないでくれよな?」、「そのインターネットって、よくわかんないから怖いんだよ」と言われながら許可してもらえるようになって、ホームページを持つお店のリンクも貼るようになる。
アクセスカウンターも設置して集客努力もするようになると、地元が多かったが観にくる人も増えて、前に定食の写真を載せたお店からは、「あれさあ」と言われて削除の話かと思ったら、「紹介記事も書いてくれよ」と頼まれて、本やその他のホームページなんかを見て、文章の勉強をしながら書くと喜ばれるようになる。
口コミで広がったホームページは、遂に市長の目にも止まって地域振興課経由で表彰される事になった。
表彰式には他にも女性が居て、その女性のホームページは文章こそ弱かったが、デザイン性に富んでいて敵わないと思った。
表彰されると、その話を聞いた企業からは、クリックすると報酬の入る広告を設置して欲しいと打診が来て、趣味の範囲を超えた。
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