第3話 宮澤優の言葉。

ダメダメすぎる。

彼女を迎える人間の発想ではない。

だがこれ以上は宮澤優も言えない。


一定量の注意や説教を行うと、急に「受忍限度を超えた」と騒ぎ出して、顔を真っ赤にして早口で捲し立ててくるケースと、逆に捨て鉢になって俯いて、「あー」だの「うー」だのしか言わなくなるケースがあって、どちらも面倒くさい。


それ以上はお互いに嫌な思いをするだけだったので、「もう帰ろうぜ」と言って切り上げたが、その日の加納幸助は普段と違っていた。


宮澤優にはわからなかったが、日中の街コンで惨敗し、飲み会でも自分だけが鳴かず飛ばずだった結果に、打ちひしがれていたのかも知れない。「家の前まで送る」と言った加納幸助は、宮澤優の家まで着いてくるが、宮澤優の家に着いても一向に宮澤優を帰さない。

それどころか、「中学の時に使っていた通学路を歩かないか?」と誘ってきて、深夜に男2人で地元を徘徊する事になる。


いい加減眠い宮澤優が、「どうしたんだよ?」と聞くと、加納幸助は「俺の何がいけないのかな?」と言い出した。


お前

俺に

それを

聞くのか?


宮澤優はアルコールと睡魔のせいで思考が鈍っていたが、それでもこの数時間を思い出してガッカリしていた。


散々ダメ出しをしたのに、加納幸助には何一つ届いていないし、響いていなかった。


「何を聞いていた?さっき言った事を思い出せ」と言っても良かったが、加納幸助は理解しないだろう。

宮澤優は話を聞く姿勢になって、どうしたいのかを聞き出す事にした。


自身の不幸を呪うかのような他責の言葉の山から、ようやく出てきた言葉は、「何かをしたら何かが変わる」、「彼女が出来たら、変わる気がするから彼女が欲しいのに、出来ない」だった。


宮澤優は深夜の公園で、加納幸助に聞こえないように、「勘弁してくれ」と呟いていた。

結局、加納幸助という男は、「彼女が出来たら自分にプラスになるから欲しい」と言っているだけに過ぎなかった。

多分だが、彼女が出来て変わらなかった時に、変わらない自身を責める事なく他者を責める。この場合彼女を責めるのだろう。


「ロクでもない彼女だから変われなかった」

この言葉くらいはあり得る。


宮澤優は帰りたかった。

蒸し暑い深夜に、公園で蚊に刺されながら、終わらない話を聞きたくなかった。


早くシャワーを浴びて、エアコンを効かせた部屋で眠りにつきたかった。

眠るまでのひと時で、彼女とメッセージのやり取りをしたかった。


彼女も慣れたもので、宮澤優が「帰りたい。いつもの加納説教中」と送ったら、「お疲れ〜♪(´ε` )」と返事が来た。


多分だが、加納幸助の求めるモノは完全な肯定。

相互的な裁判ではない。

一方的な裁判で無罪になりたい、肯定されたいモノなのだ。

何を言っても、「でも」「だって」と言うだろう。


宮澤優は帰りたい一心で考えを巡らせて、一つの考えに行き着いた。


「なあ加納」

「何?」


「お前の何かをしたら何かが変わるって奴は、間違ってないと思う」

「そうだろう!」


嬉しそうな加納幸助の声。

だがここで終わらない。

もっと言え、もっと俺様を癒やせと顔に書いてある。


「だが、何かに問題があると俺は思った」

「は?」


明らかに不機嫌になる加納幸助の声。


「とりあえずお前、来週末の地元の花火大会行ってこいよ。何かが変わるかも知れないぞ」


加納幸助は「え?ここのは規模が小さくて、打ち上げも5000発だし、行くなら有名なびわ湖とか、横浜のみなとみらいとか…」と、わざわざ遠方で有名な花火大会を持ち出して嫌がってきた。


そう、加納幸助には時間と金がある。

家に金があるからバイトの必要がない。

バイトの必要がないから時間がある。


溺愛している親は、息子が言えば喜んでびわ湖までの新幹線代を出す。

だからこそ成長なんて夢のまた夢だった。


宮澤優は、それ以上関わっていられないとばかりに立ち上がって、「俺は帰る。花火を見るまで連絡してくんな」と言って、蚊に刺された腕をかきながら帰って行った。


加納幸助は不満タラタラだった。

もう話の流れから、花火大会に行かなければならない事にはなったが、未だになんとかびわ湖や、みなとみらいに変えられないかと何処かで思案していた。


だが第六感というべきか、直感的に宮澤優を裏切る勇気はなかった。

嫌過ぎたが、宮澤優は地元の花火大会を指定してきたので、諦めて行く事にした。

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