第2話 加納幸助という男。
成人を超えてしまうと、集まりなんてものは最寄駅に集合ではなく、全員の意見をすり合わせた集まりやすい場所になる。
男と幹事の宮澤優は地元が同じなので2人で電車に乗る。
男の表情は不満一色。
どうせなら横にはお友達になった女子にいてほしかった。
どうせなら大衆向けチェーン店ではない、オシャレなお店に行きたかった。
そんな事を思っていると、横で吊り革をもつ宮澤優が、「さて加納幸助君?」と話しかけてきた。
男の不満にはコレもあった。帰り道でのお小言とダメ出し。
人から注意を受ける事を何より嫌う加納幸助だったが、宮澤優とは古い付き合いだし、宮澤優と距離を置くと合コンのお誘いがなくなるので、仕方なく甘んじているがこの時間は喜ばしくない。
不満げに「なんだよ」と聞き返すと、呆れるように宮澤優は「君は何度失敗したら治るのかな?」と言い、思い出すように「自分語りはやめて、聞き役に徹してあげるように言ったよね?」と言った。
初めの頃の合コンでしくじった加納幸助は、一応だが気をつけていた。
面倒くさそうに「やったよ」と話す加納幸助に、宮澤優は「やれていないから彼女は帰ったんだよ」と呆れ口調で文句を言ってくる。
「開始30分であそこまでやれるのはある種の才能だよ」と呆れる宮澤優。
加納幸助はなにがいけなかったかわからない。
質問をしようとしたところで自宅の最寄り駅に着く。
加納幸助は改札をくぐって飲み直しながら、何がダメだったのかを聞く事にした。
宮澤優は簡単な自己紹介の後で、男側のメンバーを紹介する。
気難しい顔で斜に構えて、「加納幸助です」と挨拶をする加納幸助の事を、宮澤優は「多趣味で、最近は食べ歩きをメインにしてる奴です」と紹介をした。
田中麗華側も少なからず情報を貰っていて、加納幸助の事を伝えて貰っていて、「多趣味で大体の趣味の子とは話せると思うけど、人間性がなぁ」と言われていたので、合コンデビューの子と引き合わせる事にした。
女の子の方は最大限努力をしていた。
加納幸助に頑張って話しかけて、直近の趣味の話を聞くとキャンプと言われたので、「わぁ、今流行っていますよね。どこのキャンプ場が良かったですか?」と聞いたが、加納幸助は流行りの前から始めていた事を強調しながら女の子の話を聞かずに、言い換えれば女の子を楽しませる話ではなく延々と自分語りを始めた。
開始5分で宮澤優の頭は痛くなる。
田中麗華との話を一旦止めて、「お前、そんなに玄人向けの話をされたら困るだろ?食べ歩きとかの話にしろよ」と軌道修正をした。
食べ歩きはまだなんとかなったが、なんともならなかった。
女の子が誘って欲しそうにパスを出すが、そのパスを全て無視するし、会話のキャッチボールは始まらないし続かない。
加納幸助は女の子からのパスを、打ち返しやすい球くらいにしか思わずに、フルスイングで打ち返してホームランを打っては1人で喜んでいた。
中でも酷かったのは、「美味しいご飯屋さんを教えてください」と言われた時に、「何を持って美味しいって?僕と君の好みは違うかも知れないのに?」と言い出した事。
そしてトドメは「あの有名なステーキハウスに行ったんですか?私あそこに行ってみたくて、今度ご一緒してくれませんか?」と女の子に言わせておきながら、「あそこは2年前に行きましたが、国産とは言えあんまりでした。お断りします」とのたまっていた。
これで心折れた女の子は【謎の体調不良】で帰って行った。
「お前なぁ、とりあえず[美味しいお店を教えてください]、[行ってみたい]ってのは、『今度2人で行きませんか?』なんだぞ!」
宮澤優は怒りながらレモンサワーを煽ってお好み焼きをつつく。
加納幸助は不満気に「でも」と言ってハイボールを飲むと、宮澤優が「でもじゃない。しかも「でも」の後は、好みは人それぞれだから伝えてもか?」と指差すように箸を加納幸助に向けてくる。
加納幸助は「違う、教えた俺は何を貰える?」と言い返しながら、独り占めするように茶碗蒸しを頼み、ハイボールをお代わりする。
宮澤優は早々に諦めていた。
加納幸助は甘やかされて奔放に育てられたボンボンで、特に食に関しては壊滅的だ。
2人飲みを行っても自分の食べたいものは渡さないが、他人の食べているものは全て味見をしたがるし、気にいると頼んだ人間のことは気にせず全部食べてしまう。
だから仮に2人でステーキハウスに行ってもそれはデートではない。
「何が貰える?彼女との素敵なひと時だよ、馬鹿野郎。その考えをやめろ」
「何で?ギブ&テイクは大事だ。彼女は見返りもなく美味しいお店の情報を得るの?」
この考えは、もう長くなりつつある付き合いでも理解できない。
嫌な言い方だが、加納幸助といる事で学んだので「言うだろうな」とわかるが、到底受け入れられない。
「お前、彼女が出来て、「美味しいお店に連れて行ってやったからキスさせろ」とかはダメなんだぞ?」
心配そうに話す宮澤優に、加納幸助は「それくらいわかってる」と言ったが、「今度は彼女が美味しい店を見つけて、俺を連れて行く事はするべきだよね」と続けてきて、宮澤優は崩れ落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます