何かをしたら。
さんまぐ
花火を観に行ったら。
第1話 彼女を作ったら何かが始まる?
何かをしたら何かが始まる。
何もしなければ何も始まらない。
そんな言葉があるように、男は手当たり次第に何かを行ってきた。
軽音楽もやった。
料理もやった。
サイクリングもやった。
キャンプもやった。
その他にも、評判になったものはとりあえずやってみた。
だが何も始まらなかった。
男が望む何かは始まらなかった。
男は今まさに絶望の只中に居る。
今男がやったら始まると思っている事は、【彼女を作ったら何かが始まる】だった。
なので街コンにも行った。
散々な結果に終わった街コンだが、原因の一端は男にもある。
真剣に彼女が欲しければ、真剣交際の街コンに行けばいいのに、中途半端に友達が欲しい人だったりが行く、緩い条件の街コンを狙って外していた。
男には唯一絶対の欠点があった。
細かく言えばそれ以外もあるが、この一つがどうにかならないと何も始まらない。そんな欠点だった。
軽音楽でいえば、練習はしていたが、あくまで初歩的な部分のみで、難しい曲は弾けなかったし弾こうとはしなかった。
恥と失敗を極端に嫌っていた。
料理も外してはいけないポイントなのに、「ここは自己流で構わない」と言って練習を怠っていた。
それなりにうまく行ったのは、サイクリングやキャンプだったが、よくある初心者を狙った、お節介な人達にニワカ知識で太刀打ち出来ずに足は遠のいた。
家が資産家で、父親の口癖は「何もしない事はダメだ」だったので、新しく何かを始めると言えば援助はされていた。
だからこそ、資金力がモノをいうモノのスタートダッシュは凄かった。
だが惰性のみで、あとは失速して終わり、高いギターも自転車もリサイクルショップに行き着く事になる。
空梅雨は早々に明けて、水不足を気にしてしまう7月の暑い日。
この日は街コンからの合コンだった。
合コンは5対5。
彼氏なし女子は4人。
こちらも幹事の宮澤優以外は、彼女なしの男が4人なので、あぶれる心配は無かった。
だが目の前に女の子は居ない。
厳密にはいた。
数分前まではいた。
男の中では、そこそこの見た目の女の子を見た時に「まあいいかな」と思ったし、その子から次を申し込まれれば受けても良かった。
だが今はいない。
開始30分で【謎の体調不良】になったその子は、トイレに行ったまま帰らぬ人となった。
家に帰ってしまった。
「お父さん、まだ飲む前で迎えに来てくれるって言ってくれてるからごめんね」
その言葉とお通しと生ビール代を女側の幹事に渡して帰って行った。
女側の幹事は「マジで!?大丈夫?お父さん無理そうだったら、ウチの父親にも迎えに来させようか?多分時間的に飲む前だから、ウチのが早いかもよ?」と言って心配したが、女の子は「麗華は幹事だからいてあげてよ」と言って帰ってしまった。
彼氏持ちの麗華という女幹事は、見送りを済ませるとさっさと席に戻って、宮澤優とカップルあるあるで盛り上がり、他の連中も各々の相手と盛り上がる。
男は輪の中に入る事をせずに、意地を焼いて勝手に刺身の盛り合わせとたこわさを頼んでハイボールを煽る。
呆れ顔で「幸助、お前1人で好き勝手頼むなよ」と言ってくる宮澤優に、男は「金なら出すから構わないだろ?」と言って、ハイペースにハイボールを頼み刺身を独り占めしていく。
男が苛立ったのはその姿を見て、「お寿司食べたい」と言った女に、目の前に座る宮澤優が連れてきた名前もよく知らない男の1人が、「じゃあ今度さ、車出すから早朝の魚河岸でお寿司とかどう?」と言って、女も「え?いいの?行く行く!」と盛り上がり、それを見た残りの2組も「俺たちも」と始まって「いいね」となる。
もうつまらなかった。
会は3時間で終わると、皆で駅まで行って解散になる。
男どもはこの後も一緒にいたい下心を隠して、「またね」なんて言っているし、宮澤優は幹事の麗華に「田中さん、今日はありがとね」なんて言っていて、幹事の麗華も「ううん。別にお安いご用だよ」と返している。
駅で名残惜しそうに話して、ダラダラと解散にならない中、「麗華さん、いたいた」と言って現れる男。
幹事の麗華が男を見て「薫くん?なんで?」と驚くと、薫と呼ばれた男が「今日は残業で今帰り道。近いならって迎えを頼まれたんだよ。まだかかるならそこら辺で時間潰すけど?」と言うと、その男の登場で解散の流れになる。
薫と呼ばれた男と帰る幹事の麗華の幸せそうな姿を見て、名残惜しい連中は熱心に連絡先の交換を済ませてしまうし、ひと組はもう一軒と言って夜の街に消えて行った。
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