第20話 カナデとの再会
ソウタが退院の日を迎えた。
結局カナデが病院に見舞いに来る事は無かった。
それはソウタの気持ちを尊重した結果だったので仕方が無い。
そんな事から二人は随分と会えない時間が長くなってしまった。
だからソウタは、会いたいので見舞いに行きたいと言ったカナデの思いを受け止める事にして、代わりにどうすれば良いのか二人で話し合った。
けれどその話の行き先が、まさかこんな事になるなんて。
(まさかやで。自分の部屋に、カナデが遊びに来るなんて…)
とは言え、ソウタも普通の男の子。
こんな事態になった事に、浮かれるのも仕方が無い。
それでも自分の家に来るには時期早々だとも思う。
ソウタが想定していたよりも随分と早すぎる進展だ。
妙な緊張感と期待感はあるものの、それで良いのかどうかもそれなりに悩む。
そんな自問自答を繰り返し、あれこれと考え込んでしまった。
だからカナデの見舞いの話を母に告げたのが、前日の夜になってしまったのは、これもある意味で仕方のない事なのだ。
そんな突拍子もない話に当然驚かれたし、盛大に叱られもした。
なんでも掃除やら準備やら、母からすれば色々とあるらしい。
そんなこんなで迎えた当日。
早朝から掃除に付き合わされた…と言っても、松葉づえのソウタは戦力外。
せいぜい邪魔にならないように自室を片付ける事しか出来なかった。
しかも母は何故だか昼前に出かけてしまった。
よりによって、こんな日に出かけるなんて…。
特にする事も無いソウタは、仕方が無ので早めの昼食を取って、一人でソワソワとカナデの来訪を待ちわびた。
*****
やがて約束の時間が近づく頃、マンションのオートロックの呼び出し音がなる。
カメラにはカナデの姿。
自動ドアを開錠し、ソウタは玄関のチャイムが鳴るまで廊下で待機した。
やがてチャイムが慣らされ、玄関のドアを開けると、少し懐かしい雰囲気のする恋人が立っていた。
「えへへ、久しぶりのソウタだ~」
久しぶりの再会はソウタの家の玄関で色気も何も無いのだが、カナデがヘニャと笑うのを見て、ソウタの緊張も一気に解けてしまった。
「うん、久しぶりやなぁ」
「へへへ」
「まぁ、あがって。誰も居らんくなってもうたけど…」
「え?そうなん?勝手にお邪魔して大丈夫?」
「あ~うん、家族にはちゃんと言ってるから」
男一人の家に恋人を招くには気が引けるが、それはソウタが前日に母に伝えたせいである。母にも母の予定がある。
多少の気まずさを抱えながらも、ソウタはカナデを家の中に招き入れた。
「そっか、それじゃぁお邪魔します」
「どうぞ、どうぞ」
妙な空気感に二人の間に笑いが零れる。
新鮮だけど懐かしい。そんな気持ちで胸がいっぱいになる。
「それでちょっと悪いねんけど、お茶とか色々、俺の部屋まで運んでくれへん?」
ソウタはリビングまで来ると、自分の足に視線を向けてカナデにお願いをした。
「あ、うん、そうやんな。大丈夫やで」
「ごめんな」
「私もお土産のシュークリームとかは、冷蔵庫に入れた方が良いと思ってたし」
「そっか、お土産か。わざわざありがとうな」
「一緒に食べたいなって、前から思ってたやつ」
「そっかぁ」
二人はリビングを抜けて、キッチンに向かい並んでお茶の準備を進めた。
そんなに広くはないキッチンに二人。
「お皿はこれかな?」とか「牛乳は右側のドアポケットやで」なんて会話をしていると、ソウタは妙に恥ずかしくなってしまった。
だから少し息を吐いて、自分の口元を手で隠して少しだけ俯いた。
そんなソウタの異変に気が付いたカナデが心配そうに声をかける。
「どしたん?痛くなったん?」
まさか自分の口元が緩むのを見られたく無いとは言いにくい。
「いや、大丈夫、大丈夫!痛くない!痛くない!」
必死に誤魔化したせいで、少し声が大きくなったソウタに戸惑うカナデ。
カナデの驚いたような困った顔に、ソウタはちょっぴり後悔をした。
「いや、そ、それや無くて…」
「それ?」
「あ~それは」
「?」
「カナデが家のキッチンに居るから」
「??」
カナデをから見ればソウタの挙動がおかしい。
足の具合が悪のせいでは無いようだけれど、妙に焦っていると言うか、落ち着きがないように見える。
何だろう?
カナデが疑問を口にしようとするよりも前に、降参したソウタが自分の気持ちを吐き出した。
「…なんか、一緒に住んでるみたいで…」
小さな声でボソッと呟くように吐き出すと、ソウタはカナデから顔をそむけた。
顔をそむけたソウタの耳は少し赤くて、心なしか顔も首も赤くなっているように見える。
(なんか、可愛い…)
カナデはソウタの照れた姿に胸がいっぱいになり、たまらなくなると「ソウタ~」と言って抱き着いた。
「うへぇ!」
「へへへ、ソウタの匂いがする」
「っうぐっ!」
狭いキッチンの中、支えるソウタの足は心もとない。
冷蔵庫とカナデに挟まれたソウタの思考は、久しぶり感じるカナデの柔らかさに一気に引き寄せられる。
その上、家で二人きりで居る状況も相まって、理性がどこかへ飛びそうになる。
けれどソウタはなけなしの理性を総動員させて「ここは台所!」と叫びながら、一生懸命に煩悩の暴走を宥めて、ゆっくりとカナデの肩を掴んで引きはがした。
「え?台所?それは分かってんで?」
「…だから、そう言うのは…」
「そう言うのは?」
「…部屋とか…」
「っ!」
まるで続きは部屋でしますと言わんばかりのソウタのセリフ。
そんな生々しい言葉に、カナデの頭は沸騰する勢いだ。
「ソ、ソウタのエッチ!」
「っ!」
べつにそう思った訳では無いが、カナデのセリフはソウタの心に会心の一撃を与えた。カナデの攻撃にヒュっと息を飲んだソウタの意識が、どこか遠くへ飛んでいく。
そんなソウタを放置して、カナデは準備の出来たお茶とお菓子の乗せたお盆を手に取り、いそいそとキッチンから抜け出る。
「ソウタの部屋はどこっ?」
カナデの呼びかけにソウタの意識が戻って来る。
「っ、あ、ご、ごめん…」
「だ、だからソウタの部屋はどこっ?」
「あっ、げ、玄関の右横の…」
ソウタ部屋の場所を聞き出したカナデは、そのまま黙ってソウタの部屋と思わしき場所へ向かう。
既に扉の開いているソウタの部屋を見つけて、一人で先に中に入る。
部屋の真ん中のローテーブルへ、お茶の乗ったお盆を置くと、その場に座り込んだ。後からひょこひょこと歩きながらソウタが部屋に入って来る。
「カ、カナデ?」
「…」
「ご、ごめんって…」
ソウタが小さな声で謝る中、ドアがゆっくりと閉まっていった。
「…カナデ?怒ってる?」
「…お、怒っては無い…」
カナデの雰囲気から言葉の通り怒っている訳ではないようだ。
少し安堵したソウタは、ゆっくりとカナデに近づいて、彼女の少し後ろの方で座った。
怒って無いとはいえ、まだ少し顔を見るのが怖い。
「ごめん。別にそう言うつもりじゃな無かったけど、さすがにあそこでは…」
「そ、そう言うつもりって、どういうつもりなん?」
ソウタの言葉尻を捕らえるようなセリフと共に、ソウタの方へ振り向きながら大きな声を出すカナデ。
それでもカナデの顔は怒ってはおらず、むしろ顔を真っ赤にさせて、恥ずかしさに耐えているように見える。
「っつ!、カ、カナデ、その顔はアカン…」
ソウタはたまらなくなって、思わずカナデを否定するような言葉を使ってしまった。
「っ!アカンとか、そう言うつもりとか、何なん!」
今度はしっかりとソウタの言葉尻を捕らえて言い返す。
カナデはとうとう怒ってしまったらしい。
「っつ、って、ちゃう、ちゃう!」
「何がちゃうのん!」
「カ、カナデが可愛いすぎるから、アカンのや!」
「…!!」
さっきからカナデは一体何なのだ。
カナデの言動に翻弄されっぱなしのソウタは、諦めから、そのまま後ろにゆっくりと倒れた。いわゆる完全降伏の降参である。
仰向けになったままで両手で顔を覆い、自分の赤くなった顔を隠す。
「ソ、ソウタ?」
「だ、だって、俺、めっちゃカナデが好きやって言うたやん!」
完全降伏のソウタは自分の感情を暴露する。
もうソウタにすれば理性の限界なのだ。
「しかも家に二人っきりやで!そんで台所で一緒に居ったら、一緒に暮らしてるみたいやなって思ってまうやん!」
「~~~~!!」
「だから、そんなん考えてたら…」
ソウタにすれば、久しぶりの彼女との対面なのだ。
出来るだけ努めていつも通りに振る舞おうとしても、やっぱり可愛い彼女と二人っきりの状態は自分でも危ないと思う。
出来るだけカナデを怖がらせないように…と思いつつも、ソウタは普通の男の子である。妄想が暴走するのは仕方が無い。
「ソ、ソウタ…?」
「…」
「…ソ、ソウタ…??」
「あ~。…ちゃうわ…」
「えっ?」
否定の言葉を口にしたソウタの声は、いつもより冷めた温度の無い低い声だった。
ソウタは片手を付いて、身体を捩じりながらゆっくりと上半身を起こす。
「…俺、カナデに謝る事あるんやった…」
思いもよらないソウタの言葉にカナデは身構える。
それでもどこか冷静で居れたのは、冷たい声をしたソウタの苦笑いのような表情の中に、どこか柔らかいものがあったからだ。
「謝るって何を?」
「…カナデの事、ちょっと疑った…」
「え?」
「最後にバイト先で会った時、ちょっと距離感があったから」
「…!」
ソウタの話は心当たりのある話だった。
きっかけはカナデが自分の本気の恋心に気が付いた事。
ソウタの事を考えると嬉しさより恥ずかしさが勝った事で、兄ミナトと喧嘩のような状態になってしまった。
その上、ソウタにも余計な心配をかけさせた事もあって、色々な問題から逃げたくて、ソウタに対して少し避けるような行動を取ってしまった日の話だ。
「もしかして、俺の事、好きじゃないって…気が付いたんかな?とか…」
ソウタはカナデとマネージャーのサエちゃんを一緒に並べた事を後悔していた。
だから会ってからその事を謝ろうとずっと考えていた。
さっきは理性が飛びかけてその事が飛んでしまったのだが、こうして冷静になれば、一番最初にカナデに言いたいのはその事だったのだ。
「付き合ってみたら、少し思ってたのと違うかったんかな?とか、色々考えて…」
「そ、そんな事あらへん!」
「え?」
「わ、私はちゃんとソウタが好きや!」
だけどそれはやっぱり余計な心配だった。
ミナトの言う通りだった。
そしてそれはソウタの信じたい通りだった。
「ちゃんと好きやから…だから…ソウタやったら…」
「…」
「…だから…怒ってない…って、ソ、ソウタ!」
カナデはカナデだった…。
カナデの心からの告白の言葉に、ソウタはたまらなくなって、彼女を引き寄せ、抱きしめた。
抱きしめたカナデは小さくて柔らかい。
自分はカナデの柔らかさの何をこんなに恐れていたのだろうか。
カナデはひたすら温く、ただ存在する事がこんなに愛おしい。
「ソ、ソウタ??な、何?」
「…ありがとうな」
「え?」
「俺の事、好きになってくれてありがとう…」
言いたい言葉以上の思いの言葉が自然と零れていく。
一度そんな言葉を告げると、ソウタは自分の過去の話をカナデに聞いて欲しくなった。
「あんな。俺な、高校時代のアレはやっぱり失恋やったって気が付いてん」
「…」
「だけどそれを認めたくなくて、ずっと放置してったっぽい」
言葉を続けるソウタの顔は苦笑いを浮かべていた。
だってそれは間違いなく、苦い思い出なのだ。
今になって思えば、最後にバイト先で行き違ったあの出来事も、そんなに悪いものでは無かったかもしれない。
自分の思い違いをカナデは気付かせてくれた。それもごく自然に。
だから失恋は失恋だったけれど、いつの間にか過去の思い出に変わっていた。
それはカナデがカナデだったから。
「だけどな、カナデと会って、カナデと関わるうちに好きになって、多分それで知らん間に終わっててん…」
「…」
「…何て言ったら良いんやろ…」
俯いて自分の気持ちを考えるソウタ。
言葉を選ぶが、言い表現が浮かばない。
それによく考えれば考えるほど、自分でも何が言いたいのか、良く分からない。
「…ゆ、ゆっくりで、何でもええから…」
ゆっくりでいい…。
カナデの言葉を耳にしたソウタは、肩を揺らしハッと息を飲んだ。
そしてカナデの言葉が腑に落ちた。
ソウタはゆっくりとカナデを引き離し、カナデの目を見つめた。
「ソ、ソウタ?」
「…うん。そやな…。ゆっくりでええねん…」
「…ゆっくり?」
「…うん。だって、俺だって普通に男やし、可愛い彼女が出来たら…と思うと、色々とそれなりに思う事もあるねん…って、ははっ、俺、何言ってんやろ…」
ここまで言うつもりは無かったのだろう。
ソウタは恥ずかしそうな顔を見せた。
「…だけどな、カナデは男が怖いやろうし、俺の事、そんな風に見て欲しくは無いねんなぁ…。だから…うまく言われへんけど、ゆっくりで良いいんやって思って…」
カナデはソウタの真摯な言葉に「うん」と頷いた。
「俺、ずっとカナデと居りたいし、カナデに嫌われたく無い」
「…ソウタ…」
「だから、ずっと一緒に居って欲しい」
「っ!」
「俺、カナデが好きやし、これからもずっと愛してる」
少しの緊張を纏わせ、それでも柔らかな表情で笑みを浮かべるソウタ。
そんなソウタの眼差しに、カナデは一気に心を奪われた。
「ソウタやったら怖くないし、大丈夫…」
カナデはソウタのそんな思いの全部が欲しくなってしまった。
だから無自覚のままで、自分の思いを告げてしまった。
そんなカナデの言葉にソウタは肩を揺らす。
「って、え?今、何か変な事言ったかも」
「…もう聞いたし…」
「え?」
カナデの無自覚な言葉で、ソウタはスイッチが入ってしまったらしい。
少し強い力で再びカナデを抱き寄せ、自分の胸の中にしまい込んだ。
ソウタの強引さにカナデは心臓が止まりそうになる。
漂う緊張感はあるが、それでも全くそれが嫌では無い事に気が付いて、恥ずかしい気持ちと、委ねたい気持ちが葛藤し、ソウタのシャツを掴んで小さくなってしまった。
「…カナデ、こっち向いて」
「~~~~!!」
「ん~?」
「だ、だって絶対何かする!」
「…するなぁ」
「だ、だ、だっ、だめ、アカ…んっ!」
小さく固まるカナデを少しだけ強引に引きはがし、その勢いでカナデの唇を塞いだ。
それは時間にすれば僅かなものだったけれど、二人はとても長い時間そうしているような感覚を覚えていた。
やがてゆっくり離れて、ソウタは再びカナデを腕の中にいれると、今度は力強くぎゅうっと抱きしめた。
「…びっくりした?」
そんな柔らかいソウタの声にカナデはコクコクと頷いた。
「…嫌やった?」
今度は首を横に振ったので、顔をソウタの胸に押しつけるような形になってしまった。
「嫌じゃやない?」
「…うん」
カナデの言葉に安堵したソウタは、少し長い彼女の前髪を耳にかけて、こめかみに唇を寄せた。
柔らかな衝撃に少し肩を震わせたカナデ。
「またしたくなったら、しても良い?」
カナデはそのままコクコクと頷く事しか出来なかった。
そしてカナデのもう片方の耳に聞こえるのは、さっきから少しばかり早いソウタの心音がトクトクと刻み続ける命の音だった。
カナデの温かさ抱きしめるソウタ。
ソウタの心音に耳を傾けるカナデ。
そんな静けさに満ちた時間を確かめていると、「ただいま」とソウタの母の声が玄関の方から聞こえてきた。
突然訪れた母の声に驚いた二人は、ビクッと肩を震わせると急に頭が冷えて行った。二人顔を見合わせると、二人きりの甘い時間の余韻に浸る間も無いままに、いたたまれなさに包まれる。
気が付けば、互いにいつもより距離を取ってしまった。
「あ…なんか…あの…ソウタが…」
「…うん…なんか…なぁ…あはは…」
二人で恥ずかしさやら、いたたまれなさの苦笑いを浮かべていると、ガチャッと部屋のドアレバーが賑やかな音を立てて開いた。
「ソウタ兄ぃ~~~~っ!」
そして開いたドアの隙間から、元気な声と共に甥っ子のサトルがソウタの部屋に入って来た。
「ええっ⁉」
「あっ⁉」
突然現れた甥っ子の乱入に、カナデは驚きの声を立てて固まってしまった。
いつも通りの甥っ子の突撃に、ソウタは小さくため息を吐いて、上半身を少しだけ後方に倒し、入り口の方へ顔を向けた。
「あのなぁ…お客さんが来てるから、勝手にあけたらアカンって」
「え、お客さん?」
「おか…おばあちゃん、言うてなかった?」
「っ、言うてた…」
ソウタが注意をすると、サトルは気まずそうに肩を落とした。
それでもサトルが部屋に入って来なかったら、二人はどうなっていたのかと思うと、ソウタはこれで良かったと、ちょっぴり安堵もしたし、サトルに感謝もした。
そんなソウタをよそに、甥っ子のサトルと言えば、お客さんが女性で有る事にようやく気が付いたらしい。
もしかしてソウタの恋人か?
小学生ながらませた考えを持って、厚かましくも部屋の中に入って来た。
そしてカナデを見つけ、その顔をじぃっと見つめると、不意に何かを思い出したようで、驚きから大きな声で叫んだ。
「あ~~~~~っつ!」
サトルの大きな声が合図になったらしい。
「サトル何や~!」
「にいにい、どした~!」
今度は兄のヒロムと弟のマナブが嬉しそうにソウタの部屋に乱入してきた。
そして甥っ子二人に続いて今度はソウタの姉も部屋に乱入して来た。
「あ、あんたらお客さんが来てるから、勝手に入ったらアカン~」
そう言えばそうだった。
ソウタの部屋は玄関のすぐ傍にあり、ドアも近かった。
ごくたまに、甥っ子達は静かに玄関のドアを開けて、突然ソウタの部屋のドアを開けて驚かすという、いたずらをする事があったのだ。
そしてそんないたずらの後に、続けて残りの二人が部屋に入って、ドッキリが成功したかを確かめるのだ。
だから甥っ子三人からすれば、いつもの事だけれど、そんな事を知る由も無いカナデは、ただただ驚くしか出来ない。
そんな風にカナデの事を考えれば、甥っ子のいたずらに巻き込まれ気の毒に思う。
ソウタは驚き固まるカナデに顔を向け、声を掛けた。
「ごめん、驚かして…」
「…あ…うん…」
カナデはあまりにも驚きすぎて、まだ状況を俯瞰出来ないらしい。
そんな状態のカナデに気が付いたソウタの姉は、自分の子供達がやらかした事に気が付いた。
「こ、こら、あはは、ソウタごめん…」
姉は気まずそうに子供たちを引き連れて部屋の外に出ようとした。
すると、サトルが不意に声を上げ、カナデを指さす。
「おか~さん!綺麗なお姉さんここにおった!」
「え?」
「え?」
サトルの指摘に姉と甥っ子のヒロムが同時に、同じ声を出して驚き固まった。
そしてサトルの満面の笑みから指先を辿り、その先にあるカナデに顔を向けた。
「まさか」
「あの人が?」
そんな二人の反応に、今度はソウタとカナデが顔を見合わせた。
一体何を驚いているのか。事情の分からないソウタは、カナデの顔を見て、何か知っているのかを訪ねようとするも、カナデにすれば、ただ困惑の表情を浮かべるしか出来ない。
でも、ここまで驚かれると何かあるのかも…とカナデが考えを巡らせていると、今度はソウタの母が部屋の入り口に真っ当な苦言を呈しながらやって来た。
「あんたら邪魔したらアカンて!」
どうやら母は姉と甥っ子達の回収に来てくれたようだ。
「こっちでおやつでも…」
「おばあちゃん、前に言うてた綺麗なお姉さんが、ソウタ兄ぃの部屋におったわ」
祖母の言葉を遮り、サトルはドヤ顔で祖母に告げる。
「え?」
そんなサトルの指摘に、今度はソウタの母がカナデに視線を向けた。
一気に全員の視線を再び浴びたカナデは、先ほど二人でキスを交わした以上の恥ずかしさに見舞われる。
「ソ、ソウタ~」
カナデは小さな救助の声を出すのが精一杯だった。
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