番外編

第3話 ミナトのお節介

番外編です。本編の進展は無いです。

ソウタとカナデの傍で見ていたミナトの解説?感想?…という感じです。

注)ミナトが思いっきり関西弁で語ってますので、読みにくいかもです。

(関西弁好きの人に刺されば…御の字です)




*****




ミナトはモテる。

それは外見が良いからである。

そして妹のカナデもモテる。

いわゆるイケメンと美人の双子である。


ミナトは男だから、強引な押しは躱せるし断れる。

多少乱暴であっても、引きはがして「もう止めてな」と凄めば、大抵は二度目はもう来ない。


けれど妹のカナデは無理だ。だって女だから。

引っ張られて、連れて行かれそうになるし、カナデが「止めて!」と言っても逆効果である。

そんな最低な男ばっかり見て来たから、カナデは男が苦手になった。

だからミナトは女も好きじゃないし、男はもっと好きじゃない。

当たり前だ。自分の家族が傷ついてるんだから。

だから友人もあんまり居なかった。




*****




そんな兄妹でも、いつまでも親の世話になる訳にはいかない。

ある日、少しバイトでもしてはどうか?と親父に言われた。

全くもってその通りだったので、俺は妹のカナデに切り出した。


「じゃ、バイト同じ所にして、同じシフトで組む?」


そん時のカナデのポカンとしながらも、ホッとした表情は忘れない。

そんな顔を見ながら、「俺って、めっちゃ妹思いのええ兄貴やな」ってちょっと自画自賛もした。

だってそんなん言ってくれる友達はおらへんし。


とまぁ、そんなこんなでカナデと話しあってバイト先はファミレスにした。


店長から「女子はフロアじゃないと困るけど」と言われたけど、何とかカナデがバックで働けないかと頼み込んだ。

要望が通ればラッキー程度に思っていたけど、カナデが洗い場に決まったと聞いた時は店長がマジで神様に見えた。


それからカナデは、すっぴんで、少し大きめのシャツに、ダボっとしたパンツでバイトに行くようになった。それに深めにキャップを被って、本人曰く、男っぽく変装しているらしい。

まぁ、そこまでしんくても、隣にオレが付いてるから大丈夫やろ。

何よりカナデが気分良く働けるバイトなら何よりだ。


と思っていたら、敵は内部に居た。

同じ大学生とか、若い社員の奴、年下の高校生までカナデに声をかけているらしい。だから俺は陰ながら蹴散らす事にした。

それでも俺に隠れて、何かとカナデと接触しようとする奴が出て来る。

カナデがあまり言い返せず大人しいので、バレないと思っているらしい。

だから男は嫌やねん。


そんな鬱憤と言うかイライラが募っていたのか、仕事でミスを重ねた。

まぁ、バイトはカナデの為やし、他の男どもが俺のミスを被れば、「ざまぁみろ」って思ってた。ただ店長には悪いなとは思ってたけれど。


そんな時、同じキッチンで働くガタイの良い奴が声をかけて来た。

そういやこいつはカナデに声をかけない奴だったので、ノーマークだったな…なんて思いながら一緒に休憩に入った。

ま、店長も一緒に行けと言ってたしな。


暫くスマホを眺めながら飯を食ってたら、そいつが急に話しかけて来た。


「お前、最近イラついてへん?」

「はぁ?」

「あれやろ、妹にちょっかいかけてる奴のせいやろ?」

「は?」


俺はその言い方になんだか無性に腹が立ってしまった。

またかよって。

たまに居るんだよな。「俺は味方です」って態度で、妹を紹介してもらおうとするやつ。


「お前に関係あらへん」

「お前、まだ反抗期かいな」


吐き捨てるように言ったら、そいつは急に声を出して笑い出した。

ムカついたので、俺はそいつを無視する事にした。


「うちの甥っ子と似てるなぁと思って。そう思ったら思い出して笑ってもうたわ」


そして続いたそいつの言葉で更にムカついた。


「今5歳やねんけど」

「俺5歳ちゃうぞ!」

「あかん、マジで同じや!」


思わず本気でかえしてしまった。

俺が怒っているのに、そいつは気にする風でも無く、また腹を抱えて笑い出した。


「ちっ!」


俺は無視する事にした。


「うわ、ごめんて、謝るわ!」

「…」

「いや、ほんまごめんって」

「…」

「う~ん。だからな、俺も見かけたら注意するから、あんまりイライラしすぎたらアカンでってだけの話やねん」


そいつの声は多分、「ほんまの本心」って感じやったけど、俺は返事もせず黙って聞き流してた。

そしたらそいつが、また喋り出した。


「なんか見てたら、お前しんどそうやなぁって」

「…っ!」

「妹の事は知らんけど、お前の事は知ってるから、ちょっと気になっただけやねん。ごめんな」


そいつはそう言って、また黙って飯を食いだした。

そこから休憩時間の間、そいつは俺に一切話しかける事はなかった。

でも空気感で分かる。

ビビッて引いたんじゃなくて、言いたい事を言えたからそれで良いって感じの、普通の家で家族にするような、あの空気感。


そいつは店長に「ソウタ」と呼ばれていた。

店長に名前で呼ばれる位には、気に入られているらしい。

まぁ、見た目もそのままで真面目そうやしな。

それに他の奴と違って俺に妹の事は聞いてこないし、わざわざ妹のカナデの様子を見に行くような奴でもなかった。

だから前に休憩室での事もあって、俺はソウタの事を少しは気にしていた。


やがてバイトも慣れて来ると、いつの間にか俺がカナデに昼休憩を聞きに行く係になっていた。そして、そのまま一緒にカナデと休憩を取る事が多くなっていた。

偶然とは思えないそれが気になって、俺はソウタに聞いてみた。


「あ~、あのな、妹と休憩が同じになる日が多いねんけど」

「ん?」

「休憩のシフト変わった?」

「あ、変わった?」


そしたら、満足そうな顔でソウタが俺に聞いてきた。

ソウタの意図が分からず戸惑う俺を無視して、ソウタは話を続けた。


「え?どういう…」

「妹と同じになれたん?」


更に質問を重ねられた。

こっちが聞いてるのに、なんで俺が聞かれてるのか。


「良かったな、店長、聞いてくれたんやな」


訳が分からなくなって戸惑ってたら、ソウタは自分の言いたい事だけ言って、直ぐに仕事に戻ってしまった。

キツネにつままれたような気持ちになった俺は、思い切って店長に聞いてみた。

それで分かったけど、どうやら俺の悩みの種をソウタが店長に相談してくれたらしい。


「ソウタ、真面目やん。やから、あの子が言うなら検討してもええかなて」

「そうですか、ありがとうございます」

「ソウタ心配してたから、あんまりイライラしすぎたらアカンで」


俺が店長に礼を告げると、ソウタと全く同じことを言われてしまい、俺は困惑で固まってしまった。


だから夜になって、俺はちょっと考え直した。

一人でもええけど、誰かを頼ってもええのか?…と。

ソウタみたいな奴やったら、もしかしたら大丈夫かもしぃひんって。


それで次のバイトの時に、何となくソウタに言ってみた。

「妹が誰かに声かけられてたら、助けたって」って。ちょっとドキドキとしたけど、ソウタは「ええよ」と直ぐに返事をしてくれた。


だからちょっと安心して油断した。

ソウタが色々聞いてくるままに、俺はカナデの事を話した。

双子やから顔が似てるとか、身長は俺より低いとか、バイトに来る時の服装の事とか。

あ、このままカナデのプライベートの事聞かれたらやばいかも…と少し警戒しだした俺に気付いたのか、「洗い場の子やんな」と言ってソウタは質問を切り上げた。


「ま、仕事ん時だけやから、多分、見たら分かるか」


ソウタはまた自分で勝手に納得して、それ以上は何も聞かないまま仕事に戻って行った。


ソウタはカナデに会わしてとか、顔見せてとか全く言わないままだった。

だから妹の事を頼んで大丈夫だったかな?と逆に不安になったけれど、徐々にカナデに声をかける奴が減って行くのが目に見えだした。

どうも俺が言うより、ソウタが言う方が影響力があるっぽい。


だから俺がその現場を見つけても、ソウタに助けに行ってもらうように頼んだ。

2ケ月も経つと、殆どカナデに言い寄る奴が居なくなったのには驚いた。

恐るべしソウタ。お前生活指導の先生かよ。


そんな感じで色々と喋っている内に俺はソウタと仲良くなった。

あんまり大きな声で言いたくは無いけど、多分、親友1号に近いかも。




*****




その日は、たまたま同じ時刻にソウタがバイト上がりになった。


「ソウタも一緒に帰る?」


だから普通に声をかけた。

多分一緒にいたカナデはびっくりしたと思うけれど、ソウタが悪い奴じゃ無い事くらいカナデも分かっていたかと思う。


その日からバイトが上がる時間が同じになった日は、3人で一緒に帰る事になった。

帰り道の途中にあるコンビニへ寄り、そこで雑談するのが当たり前になった。

思えばそうなるまでに時間はかからへんかった。

それにカナデも俺以外の男に慣れた方が良いと思ってたし。まぁリハビリみたいなもんやとも思っていた。


そう言えば初めて3人で帰った時、ソウタはカナデの顔を見て「並ぶと似てへんやん」と言ってきた。

カナデの顔の事を言ったのはそれだけやった。実質言ってない方に近いかもしぃひんな。

だからカナデも多分安心したと思う。そこからカナデの空気がちょっと柔らかくなったし。


ソウタは暫くの間、3人で居たとしても俺にだけ話をする感じやった。

カナデには女の子として扱っていると言うか、少し距離を置いていると言うか。

多分やけど、ソウタが気を使って、あんまりカナデに関わらないようにしてたのだと、今になったら分かる。


そしたらカナデの方がちょっと変わり出した。

なんか俺の真似?みたいな感じで、わざと雑っぽくする言うか、男っぽい感じが強くなったとか?そんな感じ。

もしかしてカナデ、俺たちの輪の中に入りたいのかな?ってカナデが幼稚園の時もそんな感じやったのを思い出した。

カナデお前も5歳児かよ…とソウタに言われた事を思い出して、笑ってしまったのは内緒やな。


それから随分と砕けたような、男3人組みたいな感じの関係になっていった。

ソウタもカナデの事を俺と同じように扱った方が良いのかな?という感じでだいぶフランクになっていったけ。

でも何となく…これ多分双子の勘やけど、カナデはソウタの事が好きになったような気がする。

兄としては複雑やったけど、実はちょっと嬉しかった。

だってカナデにも信用出来る男が出来てんで。しかもそれが俺の親友な訳やし。


そうするうちに、カナデが段々と男化していった。

多分これは好きな子を引く為に乱暴になる例の男のアレや。やっぱりカナデは5歳児やったか…と呆れもした。


だけど、俺はカナデに対するソウタの気持ちは良く分からなかった。

当然やけど、どっかでカナデを女として線引きしてる。

俺が最初にソウタにお願いをしたのが効いて、それがストッパーになって恋にならんかったとしたら、複雑な気持ちやった。

けど、まぁ仕方ない。

カナデがもっと男性に対して変わらなアカンと思ったし、リハビリを兼ねて暫く様子を見る事にした。




*****




そんなある日。珍しくソウタが落ち込んでた。

いつもの様にバイトの帰り道のコンビニの前で聞いてみたら、何でも真ん中の甥っ子に嫌われたとかなんとか。

そう言えば、ソウタは甥っ子の事めっちゃ好きみたいやし、それは凹むな…なんて思ってた。

だからちょっと俺も協力してあげようと思って色々と調べてやった。

そしたら小学生の間で流行ってるアニメと、回転寿司のガチャの景品がコラボするニュースの記事を見つけた。

だからこれを教えてあげる事にした。


「なぁ、ソウタ。これに甥っ子連れてったら?」

「え?あ!ええやん、サトルこう言うの好きそう…」


俺のスマホを取り上げてじぃっと見てるソウタ。多分甥っ子と仲直りの妄想の世界に入ってる。

暫くじぃっと見てたら、「俺めっちゃ嬉しい」ってもう仲直りが出来た勢いで感動し始めた。

そこから、ちょっと挙動不審になって、「ミナト~っ!」と言いながら、こっちに抱き着く勢いで俺ん所に来た。


多分やけど、甥っ子と仲直りの時はこんな感じなんやろう。

そして、たった今、妄想の中で甥っ子と仲直りした勢いのテンションのままやったんやろう。


俺はそんなソウタを受け止めたら良かったかもしぃひんけど、なんせソウタは親友1号。

って事は、俺にはそんな事をしてくる奴が今までおらへんかったやろ?

ソウタの勢いが急に怖くなって、思わずカナデを身代わりに差し出してもうた。

ほんまに出来心と言うか、咄嗟の判断と言うか…。


でもな、普通は直前で気が付くやろ?止まるやろ?

せやけど、カナデがな…多分ちょっとソウタに飛び込んだと思うねん。

なんか、こう、うまい事、すっぽって収まったというか、ピタリと収まったというか。

だから我に返ったソウタが「ひぃ!」って感じで抱き着いたまま固まった。

で、あん時のあいつらの顔がなっ!あかん、思い出しても面白すぎる。

当然、俺はその場でめっちゃ笑ってもうたわ。


そん時からかな?

ソウタもカナデを完全に俺と同じように扱うようになったのは。

だから、また甥っ子と喧嘩して、仲直り案を出した時のソウタ感動バージョンの時は、カナデを身代わりに出す事にした。

そしたらカナデも嬉しいくせに普通に男みたいに嫌がるから、ソウタもすっかり気を許したみたいで、普通にカナデに抱き着いて「癒される…」とか抜かしとった。

あいつ、見たままのむっつりスケベか、カナデを甥っ子枠に見てるのどっちかやな。

もし後者やとしたら、ソウタの見る目は正しい。だってカナデは5歳児や。


それで、甥っ子の喧嘩とか、嫌われるっていう話が、また微妙な話で。

なんでも「ソウタ兄ぃはもっとカッコいいはずや!」とか言い出して、外見を何とかライダーに出てる何とかってやつみたいに、髪を横する?とか、上着?シャツ?を長いやつが似合うとか、色々言ってくるらしい。

それで外見の事は割と無頓着なソウタと喧嘩になるそうで。


そう言われると、ソウタはあまり俺とは雰囲気が真逆かも。

まぁガタイも良い方やし、髪も割と短めやしな。


ん~?今風?のソウタか…。

って、アカンアカン。

こいつバイト先で見てたら、地味に女子にすげぇモテるねん。多分本気で好かれるタイプや。

店長もそうやけど、ベテランのパートのおばちゃんにも好かれてるし、これ変に彼女作ったら結婚まで行きよるタイプや…。

そう思えば、カナデの為にも「ソウタはこのままがええ!」って全力で押しといた。

まぁ、それで甥っ子のとの喧嘩が増えた訳やけど、それでカナデも美味しい抱き着きタイムがあるから一石二鳥か。

いや、地味にソウタも嬉しそうやから、三鳥か。


そんなこんなで相変わらず、だらだらと進展のない二人に俺はちょいとばかり手を貸してあげる事にした。

ソウタの恋愛ってのをカナデの前で聞き出す事にした。多分女っ気ないから、彼女も好きな女もいないはず。


って思ってたら、「高3ん時から片思いやねん」と爆弾を投下しよった。

これはマズイと思って話をよく聞くと、高3になっていよいよ本格的に部活のキャプテンとして頑張って行こうとしている時に、同じクラスのマネージャーと良い感じになって好きになったとか。

けれど、それもソウタの怪我が元で暫く部活を離れている間に何となく距離を感じて、そのまま卒業を迎えて、そこから会いもせず、連絡もしてないけど片思い継続中とか。

いや、それは無いわ。ソウタ…お前恋愛になると急にアホやな。

せやけど、その女もアホやな。怪我くらいでソウタの良さは減らんやろうに。

まぁ、そのアホな女のお陰でソウタがフリーってのは感謝やな。


だから、改めてソウタの勘違いを確認する事にした。


「んじゃあ、その子とは別に好きな子はおらへんの?」

「なんで片思い中に二股かけなアカンねん」


その返事に俺は脳内で突っ込みを入れた。やっぱり恋愛になると急にアホになるな、ソウタは。


「まぁ、ええやん。俺、その…サエちゃんっていうねんけど、その子の事、まだ好きやと思うし…別にそれでええやん」


少しむすっとして話を終わらそうとするソウタ。

そっか、まぁ勘違いのままにしとくか…って感じで俺はその話を終わらせた。


その時のカナデは変な顔をしてたから、多分俺と似たような事を考えてたと思う。

だからちょっとニヤって笑ってやった。

アホソウタの勘違いをそのまま継続させて、その間にちゃんと落とすよう頑張って、ゲットするんやで!ってな。


しやのに!や。

あいつらやっぱり全然進展がないねん。

むしろカナデの5歳児が悪化しとる。

何ならソウタに5歳児の反抗期の対処方法でも聞いた方が早いかな?って本気で悩んでしもた。


せやけどなぁ。ソウタの勘違いを自覚させるのも、もろ刃の剣やしなぁ。

一番はカナデがちゃんと女性としてソウタと接して、向き合う方がええねんけど。

多分、両思いは両思いのはずやけど、俺からそれを言ったら変に気を使って、付き合うまでに潰れそうやしなぁ。

俺も3人でずっと居たいってのもあるし、複雑やなって思ってた。


そんな事で悩んでたからか、翌日に熱が出た。

今日はバイトの日やし困ったな。

まぁ、今日はいつもより早めにバイトに入るから、行くのはカナデ一人でも大丈夫か?とも思った。てか俺、多分起きられへん。

だから帰りはソウタにお願いしとこと思って、連絡を入れておく。

取りあえず安心した俺は、「はぁ、兄ぃちゃんはもうダメだ」とカナデに遺言を残しながらそのまま眠ってしまった。


ふと目が覚めると、バイトの終わりの時間はとっくに過ぎてるのにカナデはまだ帰ってなかった。

携帯を開けてソウタのメッセージを読むと、「ちゃんと送る」と有ったので安心はしたけど、ちょっと遅すぎひん?


それで、何となく窓の外を眺めていたら、ソウタとカナデの二人はバカップルよろしくって感じで、並んで帰ってきた。

何でや、カナデの距離感がバグっとる…。

と言うか、俺が寝ている間に何があった妹よ。

お前、動きがめっちゃ女の子になっとるやないか。

5歳児の男の子から、5歳児の女の子になっとった。何、こましゃくれとるねん。


「はぁ、しゃあないなぁ」


俺はため息を吐きながらも、ちょっとだけニヤけながら階段を下りて玄関へ向かった。

それでそのまま玄関扉を開けると、一応は兄なので文句を言ってやろうと思った。


「遅すぎん?ソウタが居るから心配してなかったけど…って何それ?」


「だれがお前のお兄さんじゃい!」的な文句を言ってやろうと身構えていたのに、カナデがソウタの腕を離さないとばかりに掴んでるし、だらしない感じのヘニャっとした顔をしてるし。

いや、カナデのこの顔は気持ち悪りぃな。


だから思わず悪態をついてもうた。


「はぁ…二人になったとたん、いちゃつくって、どこのバカップルやねん」


そしたら、ソウタは「この度は…」と言ってきた。何だそれ。ソウタお前ほんまに恋愛になるとアホやな。


「いや、知ってるし。カナデがお前の事好きなん知ってるし、お前がカナデを好きなんもバレバレやったし」


って呆れながらも言えば、「はぇ?」と二人して変な声を出して驚いてた。


「あ~?いや無自覚やった?でも、抱き着いて『癒さる~』ってめっちゃ幸せそうな顔見てたら誰でもわかるやろ」


って、ソウタに言いながらも、カナデお前もやぞって感じで言えば、おい、その満面の笑みは止めなさい。


「てか、いつになったら付き合うねん!いや、むしろもう付き合っとんか?って心の中で突っ込み入れてたわ」

「あはは、だから今日から、私の方から抱き着いてもええねん」


俺に見せびらかすようにカナデがソウタにぎゅっとしがみつけば、ソウタは「ひぃ」って変な声で怯えてた。あ、これ半分意識が飛んどるな。

恋愛になるとソウタはアホや。いや、むしろバカになるんか?…。


「自覚したとたん、死んどるやんソウタ。クソおもろい」


そう言いながらも、やっぱり俺は嬉しかった。


取りあえずもう尻に敷いてるカナデを見て安心もした。

そうやな、ソウタは多分、賢いタイプの人間じゃないけど、どこに行っても何とでもしてくれそうな人間や。

カナデが結婚するならこういうソウタみたいな人間がええと思う。

カナデを外見だけで選んで無いし、5歳児のカナデでも、こましゃくれたカナデでもソウタはきっと普通に愛してくれるやろうしな。


ってか、思いかえしても、お節介どころか、何もしてへんな。

まぁええか。


いつまでもお前らの味方でおったるわ。

だって俺はお前らのお兄さんになるんやしな。

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