第52話 小暮澪の独白

私は昔からあまり自己表現をするような性格ではなかった。

その最たる理由を一つ挙げるとするなら、己のこの容姿によるものが大きいだろう。

家族曰く、男女問わず惹きつける顔らしい。自分で鏡を見ても整っている方だとは思うが、そこまで言うほどかと小さい時は思っていた。


ただ、ある事件を堺に私はその認識を改めさせられることになった。


それは私が小学二年生の時。学校からのいつも通りの通学路で帰宅中、拉致されかけたことがある。その時はに優しいおじさんがいたから未遂で終わっていたが、そのおじさんがいなかったらどうなっていたことか。

そして後で聞いた、私が拉致にあった理由というのがその容姿にあった。どうやら私は海外に売られそうになっていたらしい。今の現代の日本でそんな話があるのかと。ただ当時の私は幼かったがために、「自分が攫われたのはこの見た目のせい」という認識が強く残った。


そこからだ。私が自分の類稀なる容姿を意識するようになったのは。

そこからだ。私が他人を信じられなくなったのは。


学校の友達はいなくなり、次第にいないものとして扱われるようになっていった。どうやら小学校というのは些細な摩擦が起きるだけでそういったことが簡単に起きてしまうのだから、幼児の未熟さというのは恐ろしい。

ただそれで構わなかった。もし自分の近くに誰かがいるときに拉致なんて起きたら、私は一生後悔することだろう。


だからと言って自分のこの容姿が嫌いだとは私は思わない。

なぜならこの容姿は母の遺伝によるものだと思っているから。自分の容姿を嫌いになるということは母のことを嫌いになるのと同義だ。そうなることは、決してない。


私は家族が何よりも大切。

家族がいたからこそ、あの小学校の空気にも幼いながらの心でも耐えられたと言っても過言ではない。



ただ今は……全員、死んでしまった。何者かの手によって殺されてしまった。しかも人ではない何かによって。



当時はすごく絶望したよ。

周りの生き物全てが敵に見えたときもあった。殺したくてたまらなくて、家にあった刀で見えるもの全てを切っていた時期もあった。


でもね、人間ってあまり誰かを憎むことに向いていないんだよ。そもそも私はこれまで誰かを恨んできたことなんてなかった。だからね、疲れてたんだよ、あの時の私は。でも自分の力だけでは止まれなかった。というかこのまま本当に止まってよかったのかって気持ちのほうが強かったかな。止まるということは相手を許すってことになる。……そんなのできない。


―――って前までの私は考えてた。


そうやって悩んでいる時、彼を知った。彼と出会ってから劇的に……とまでは言わないけど確実に私は変わっていった。いやそうじゃない。昔の私に戻ってったって方が……家族の温かさを知っている私に。今思えば最初無理に突き放そうとして険悪な態度をとってたのが恥ずかしく思ってくるけど、それでも彼は私についてきた。


そこから彼と旅をしていくうちに自分でも知らないうちに段々と魅かれていった。

彼の強さ。彼の心。……彼の過去に。


しばらく旅をしていると、不意に彼が自分の過去について話し始めた。


…………簡単にまとめると―――






「―――っておい!俺の二十年に渡る人生を簡単にまとめんな!」

「…………簡単にまとめると、私とだいたい同じ環境だったということ」

「いやだから!ってかお前そんな雑な性格だったの!?」

「こんなかんじ」


そうして彼女は真顔のまま両手にピースで、いかにもそういう性格ですよということをアピールしている。


「はぁ……。しばらく動けなくて暇だから澪の心をほぐすために過去とか聞いてみたが……もうこれ意味ねぇな。ただ過去語らせてるだけだ。話してる途中も全く表情変わんないし、もはや物語の朗読と同じだよ」

「いや、意味ないことはないよ。浩哉にも私をもっと知ってほしい。せっかく恋人になったんだから」

「…………ん?」


いやそうだっけ?……え、そうだっけ?直接告った記憶はないが……まぁ恋人ってことになってるならそのままでええか!


「……大概俺も雑な性格だな」

「似た者同士だね」

「ほんとそうだなぁ」


あまりに澪が無表情にそんなセリフを吐くものだからものだから思わず苦笑いをしてしまう。


結局あの後、俺は起きた分を取り返すように惰眠を貪り丸二日は寝ていたらしい。寝て起きたら服装も変わっていたが、それ以上に戦慄したのはノーパンだったことだね。その件については恐ろしくて何も聞いていない。

ただ起きて目が覚めたあとの澪の第一声が「思ったより大きいんだね」だったのは、あの時ばかりは自分が鈍感だったら良かったのにと思った。

一体俺が寝ている間に何が行われていたのだろうか。リトナに聞いてみたが、リトナは何も知らないらしい。

ヴィオラに聞いてみたら「占星術ってのはやろうと思えば過去の出来事さえ視ることができるのさ」とかなんとか言っていた。

占星術、極めよう。


「……そういえば」


暇つぶしがてらだらだらと雑談していると、何かを思い出すような声を上げる。


「浩哉って今回魔物倒したよね。結構強かったしレベルも大きく上がってるんじゃないの?」


浩哉のレベルって低いし、と後ろに余計なことを付け加えてそんなことを言った。

確かになるほどとは思う。結構強かったし、それに『未知との遭遇』という経験が多くつめる状況にあったのも事実だ。

だがねぇ。


「……いや、そうだな。とりあえず見てみるか」


そうしてポンとステータスを出した。


 ―――――――――――――――

真部まなべ 浩哉ひろや Lv.6《21.1%》


職業 《紫苑の代行者ルナリア


HP:59/59 MP:764/764

STR:157(+50)

VIT :109(+550)

DEX:248(+50)

AGI :727(+50)

INT :68(+50)


ステータスポイント:6


《パッシブスキル》

技能強化スキル・ブースト Lv.3

星詠眼ほしよみのめ Lv.8

神霊眼アストラルゲイズ Lv.3

・占星術 Lv.1

・魔操技能 Lv.1

・無限魔力


《アクティブスキル》

・予測補助 Lv.11+3

眩耀ルーミア Lv.1+3

黒煙アラン Lv.1+3


《称号》

・絶級ダンジョンの完全攻略者

・『鋼鉄の英雄』と絆を結びし者

世界の君臨者ワールズ・キングの討伐者


 ―――――――――――――――


「なんか……はっ?」


お…………おうおうおう、ちょっと待てや。


「……?どうしたの?」

「いや、いやそうだな。澪もこれ見てみろよ」


ベッドで寝ていた俺の横に来るように手招きをして、澪にも俺のステータスが見えるようにする。すると澪も近づいてきて……ってやっぱ近くないですかねぇ。もう肩と肩が触れるくらいの距離がもしかしたら俺らのデフォなのか。


「うんうん。ってレベル一つしか上がってないの?」

「違う違う。見てほしいところはそこじゃねぇ」

「職業?確かに聞いたことないけど……」

「違う。もっと下」

「下って言うともうスキルしかな……んん!?」


流石の澪も、大きく目を見開いて驚きをあらわにする。


「《無限魔力》……って魔力って魔法を使う時の源の、だよね?」

「ま、そういう認識で間違いないだろうが……。あ、そうだルナリアに……っていないんか。今はどっかで遊んでるっつってたっけ」


少し前、俺が目を覚ましたときにルナリアが言ったことなのだが―――


『久しぶりに目も覚めたし旧友の精霊に会いに行ってくるよ。このタイミングを逃したら会いに行く機会もないだろうしね』


とのことらしい。

特に行く場所は言っていないが、泥のように寝て冴えた思考と《予測補助》を利用して加速された計算速度を利用すれば手元の情報だけでも不確定だがなんとなく行き先は予測できる。いざとなれば、だが。


「ま、特に急を要することでもねぇし、今はゆっくりしてますかね」

「そうしたほうがいいよ。私も、浩哉にお願いしたいことがあったし」

「……と、いうと」

「私に魔力操作を教えてほしいの」


力の宿ったその瞳を据え、その心意気を聞いた俺は心の中でルナリアがいつも言うように「ふむ」と呟く。


「別に教えてもいいが、特に俺自身誰かに教えられるほど極めてないぞ」

「それでもいい。でも……少しでも強くなりたいの」


聞けば、澪のレベルはもうこの辺りの魔物では上がらないらしく、もっと別のアプローチ方法を考えてみたところ、この魔力操作に至ったそうだ。

どうしてまたそんな強さを求めて?今のままでも十分強いだろ。そう尋ねてみたが、


「私も守られるだけじゃなくて、今度こそは大切な……大好きな人を守りたいの」


少し顔を赤らめながら、まるで今が人生で一番に幸せなのではないのかと思えるくらいの控えめな笑顔とともに放たれたそんなセリフに、


「お、おぅ」


そんな言葉しか返せないのだった。





















感情として、自分の『好き』を認識できたのは浩哉と別れてからだった。

居なくなって初めてその存在の大切さに気がつく、とはよく言ったもので、その時ほどその言葉が身にしみたことはなかった。


恐らく、私はもう既に―――彼に依存してしまっているのだろう。


今過去を振り返ってみればあのエルフの差別的な対応がのだと思っている。あの環境が、浩哉のことを考えさせないでくれた。考える暇を与えないでくれた。忙しく、面倒な日々だったけど、その点ばかりはあの村にも感謝をしようかな。


私は浩哉が好き。どうしようもなく好きだ。

もし彼が傷つくようなことがあれば、その時は―――






「(物騒なこと考えてるなぁ)」


長い付き合い―――数ヶ月くらい―――も相まって、澪の目を見ればなんとなくどんなことを考えているのかすらも分かってくるようになってきた今日このごろ。流石に初対面ではどんな性格か……とか、どんなことが好きそうか……くらいしか読み取れない。だが、いつかは今の澪のように考えていることさえも読めるような、そんな気がしてならない。


「(……そういえば)」


そんなことを思っていると……ふと、懐かしいことを思い出した。


「(父さんも、似たようなこと言ってたっけか)」






―――――――――――――――――――――――――

あとがき。


これにてとりあえず一章は完了かな。とりあえず適当なボスも倒したし澪も救えた。なんかイイカンジに着地できたし時間もイイカンジに進められたし。

……ここだけのハナシ、ステータス発生時でも主人公のスペック馬鹿に設定しちゃったから俺TUEEEで無双になるのは確実で、でも趣味じゃないから周りのレベルを上げるために一年時間を進めたのは内緒だよ(ボソッ

あの摩訶不思議現象の説明もまた追々。なんか設定ミスってね?ってとこもちゃんと整合性取らせるからダイジョーブ。ミスは認める。


とにかく、個人の予定で投稿頻度(食事中以外の)ハシビロコウだったけどなんとか年内には終わってよかったよかった。……ん?終わってるよね?少なくともこのあとがき書いているときは熱帯夜。一応予定ではお盆に一気にドンッ!ってするつもりだけど。なんなかったら何かしらの不都合か、それとも俺の脳みそから誰かしらの陰謀論によって完全に忘却されてるかのどちらかしかないな。


お次の二章はとうとう櫂との邂逅を書こうと思うよ。そもそもなんで一章こんな面倒なことになってしまったのかについては流れとしかいいよがない。

ただその前に一章のSS(ショートストーリー)を挟もうと思ったから。理由は俺が書きたくなったから。以上。


とにかく、ここまで根気よく読んでくださった方々、未熟な私めのこんな作品をどっから知ったのかは分かりませんが、ここまで読んでくださりありがとうございます。

俺が死ぬか、浩哉が寿命で死ぬかしない限りこの物語は終わらないので、地道に細々と不定期投稿していきますので、これからもお付き合いよろしくお願いします。





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