第50話 青年よ、理解せよ【前】
まえがき。
お盆特別投稿。この機会に第一章を終わらせちゃおうの巻のはじまりはじまり~。
ちな、四日間です。四日という数字は「お盆 いつ」とggって出た数字です。深い意味は、ありません。
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「
自らのステータスの『職業』の右隣に表記された文字をそのまま声に出して読む。
場面は少し遡り、俺がまだあの王宮の宝物庫(仮)の中にいた時のことであり、且つルナリアからの不意打ちキスをかろうじて片手で防いだその少しあとだ。
「代行者―――なかなかカッコいい名前じゃないの。んで、ルナリアよ。なんか効果とか分かる?」
この職業を生み出したであろうルナリアの方へと向き直り、未だに可愛く頬を膨らませていじけているのも気にする素振りも見せず淡々と尋ねる。
こんな状況じゃなければそんなルナリアを「かわいい」とか素直に言って弄ってただろうがそんなことをしている余裕はその時の浩哉にはなかった。
ルナリアの方もこれ以上今ここでそのことを追求する気はないのか、何事もなかったかのように改めて向き直った。
「んー、実はボクも精霊として誰かと契約したのは初めてだから細かいこととかはよくわからないんだよね」
「えぇ……。そっちから契約をしたんだろ?」
ルナリアの後先考えてない発言に呆れの声を上げる。
「まあまあ、話は最後まで聞くこと。分かった?」
「……あぁ」
「よし。と、言ってもキミも焦っているだろうから手短に、そしてわかりやすく説明するよ。ついてきて」
そう言うと、ルナリアは迷いなしに動き始める。
たどり着いた先は、この宝物庫の壁の一面。
「……ここがどうしたよ」
「その前に、まずキミの理想を聞かせてもらおうか」
「と、言うと」
「この状況に於いて何が最善なのか。誰にもバレずにこの場を離れること?それともそんなことは気にしなくてもいいから速攻キミの目指す場所に行くこと……いったいどうなんだい?」
ニッ、と口端を釣り上げてこちらの様子を興味深そうに伺う。
それに対して顎に手を当て俯くようにして思考した。そして俺は思い浮かんだままにボソリと呟いた。
「理想……理想を掲げるんなら。そりゃあ強欲にいくさ。誰にもバレずにこの場を離れ迷うことなく俺の目的の場所へとたどり着く。なんなら俺が抜け出したことまで悟らせないのが本当の理想だな」
「ふむふむ……なるほどね」
「そして完全に澪……その人の安全を確保する」
「ハハッ、確かにそれは強欲だ」
俺自身、これはただの理想であり不可能なものだと考えていた。
だってそうだろう。こんな理想的な展開が起きるなんて。
この世はフィクションではない。ノンフィクションなのだ。そんな物事が俺にとって上手く運ぶわけが無い。時に俺にとって都合よく。そして時にあの宰相に都合よく運命は巡る。それがこの世界なのだ。
だが、そんな俺の考えをルナリアは否定する。
「だが、それを可能にするのが『魔力』だ」
そう言ってフッと微笑んだあと、ルナリアは俺の背中が壁になるように優しく押して誘導する。
「……これから何をする気だよ」
「まぁまぁ、ボクを信じて」
本当なら、初めて会った誰かの『信じて』の言葉ほど信じられない捻くれた性格の浩哉だがその時ばかりは不思議と心の底からその言葉を信じることができた。
そのことに一瞬何も疑問を持たずにいたが、流石浩哉というべきか、すぐに疑惑の念が心に浮かび上がる。
浮かび上がってはきた……が。
「わかった」
その疑惑を晴らそうとはしなかった。
理由としてはその必要がなかったから、としか言いようがない。なら何故そう考えた?……もう考えるだけ無駄か。
俺のその了承の言葉に、ルナリアは今度は安心したような微笑を浮かべると、ふわっと俺の右肩の辺りに座る。
……なぜだろう。そこはかとなく嫌な予感がするのは。そしてこれまでの経験から考えてそれはきっと気の所為ではないはずだ。
「ちなみに、なぜこれから何をする気なのかを答えない理由は聞いてよろしくて?」
そんな予感から思わず出てしまった声はきっと情けなかったはずだ。
だってそうだろう。
その問いに対しての、ルナリアのその時のそのときの笑顔と言ったら。
―――
「……ッ……は」
考える暇も、驚愕する暇もなく、一秒も満たない先の俺は無情にも空を落ちていた。まるで背中の壁がなかったかのような……いや、こんな表現は少し違う。むしろなかったのは壁ではなく―――
なんて思っているうちに重力に従っていた俺の体は段々と地面へ近づいていき、このままなら普通にトマトがプチッとなってしまうが……そうはならないようだ。
「……なぁ、そろそろ種も仕掛けも教えてくれてもいいんじゃないか?心臓に悪い」
「なーんだ。もっと驚いてくれてもよかったじゃないか」
「いんや、十分ビビってた。というか一連の流れがスムーズ過ぎて驚きを外に出すほどの猶予がなかった」
そもそも俺自身が声出して驚くってタイプでもねぇし。
と、いうよりも。
「…………今の俺、どうなってる?」
落下して落ちて、このままだったら一階の庭を盛大に汚すようなシミになるかと思ったら何も音を出さずに背中から着陸したし。
「しかもなんか……透けてね?」
庭に大の字になっていた俺は太陽の光を遮ろうとし、右手で間に壁を作ろうとするが、どうもうまくいかない。きっとこれは恐らくだが……
「ようやく気がついてくれたね。これは『闇魔法』の一つである《霊体化》というやつさ。魔力によって体を覆いそれを霊子と化してこの次元と隔絶しているんだ。だがまぁ本来は身体に満ちている魔力を霊子にして身体の細胞ごと別次元へと移すんだけどね」
「なんか……聞いてる限りでは何かしらのデメリットがくっついてきそうな魔法だな」
「まぁ初心者がやると一生幽霊から戻って来れずにいつか自我をなくして魔物へと成り下がっちゃうけどね!」
「そんな恐ろしいことをさらっとやらんでくれよ……」
掲げた右手でパッと顔を覆う…………手が透けるから覆えねぇ。
「あれ?元気ないね。いったいどうしたんだい?お姉さんが慰めてあげようか」
「誰のせいだと……ッ!」
「あの空間から騒ぎも起こさずに抜け出せたのは?」
「…………ルナリア様の、おかげです……」
「よろしい。それでは早く行くとしようか」
その言葉にハッとなり、すぐさま体を起こす。
「そうだな。星の位置から察するに、澪は向こう……に」
その時、妙な焦燥感が体中を巡る。その形のない、言葉にできない体中を駆け巡る焦りに耐えかねた俺は迷うことなく《予測補助》を起動させた。
―――今振り返ってもあの時の俺の咄嗟の判断を褒めてやりたいくらいだ。
そしてそれはありがたいことに一瞬で言語に変換されてくれた。
「(なんで……なぜ王宮にいるはずの澪が森の中にいる?)」
《予測補助》を使っていたのも相まって、その言葉だけでも様々な憶測が頭の中を勝手に飛び交ったが、そんな時間すら今は疎ましい。
「……急ぐぞルナリア」
「了解」
その瞬間、俺は駆け出した。
そして結果は知っての通り。澪も助けられて俺は新たなる力も手に入れてバンザイよ。
ただ、どうやら運命というのはノンフィクションにも存在しているらしい。
まったく―――
「うまく行ってほしいものだなッ!!」
そして時は戻り、現在。
俺は例の化け物と交戦していた。
得物は澪から拝借した刀を利用させてもらっている。
だが戦況は芳しくない。
「……ッ!……チッ……!」
おっと、あまりにも自然に舌打ちが漏れてしまった。急いては事をなんとやらだ。もっと心に余裕を持とう。
一度、考えを整理する余裕を確保するために、受けた攻撃を大げさに力を入れて勢いよく弾き返す。俗に言うパリィ。それに合わせてこちらも後退。
これで浩哉と化け物との間に五メートルほどの距離が生まれた。
「まぁ待て。少し落ち着いて話し合おうぜ」
化け物の全体を見据えながら、カチンと軽快な音を鳴らして刀を鞘に納める。
さぁ、現状把握だ。どうせ相手に通じることもないし、聞かれて困ることでもないから言葉に出していこう。
「現状、正直言って俺はお前に対する有効な攻撃手段というものを持ち合わせていない。ルナリアに分析を頼んでいるものの正直言って当てにならん」
「む、失礼だな。事実そうだが本人を前にして言うこともないだろう」
「ハハッ、そりゃそうだ」
そこまで言ったところで、化け物はいつもの如く奇声を上げながらこちらに突っ込む。
「ふむ、やはりそこそこの知能はあるものの、こちらの言語を理解してるわけではなし……か……ッ!」
振り下ろしてきた黒いモヤの一部を居合で弾き返す。
そして一応晒されたであろう無防備な姿。
「フッ!」
そこに俺は斜めに振り上げた刀を強制的に静止させ、力のベクトルを真反対に。
世の佐々木小次郎が使ったと言われている『燕返し』である。
普通なら、華麗に技が決まり決着がつくのだろう。ただここで普通に決着ついたらこんな苦戦してない。
振り下ろした刀は黒いモヤを当たり前のように通り過ぎる。
「チィッ!」
今度は隠す様子もなく、思いっきり舌打ちをかました。
そして今度はこちらが隙を晒す番だが、俺もそんなヘマはしない。
当たった感触を掴めないとわかるやいなや強く地面を前に蹴り出して攻撃と同時にその場から退避を成功させる。
ヒットアンドアウェイ。初見相手への最大の戦術なり。
「はぁ……はぁ。…………ふぅ。流石に疲れてきた。寝不足も祟ったなこれは」
いくら《予測補助》で強制的に脳を稼働させているにしても好調時に比べたらそりゃあ身体の動きも悪くなるというもの。後々エグい影響が来そうで怖いが、今はそんなこと言ってられんわな。
「……さて。さてさてさて、と。こういった攻撃が聞かない、もしくばいくらでも再生するというパターンの敵はどこかに弱点となるものが存在している。……それはこいつも例に漏れずに、なんだよな?ルナリア」
「うん。それはボクが保証する」
「んで、よ。俺はそのコアがある場所を何度か刀で切りつけてるんだが……これに関してはどういう見解をお持ちで」
「何度か見てわかったけど、アイツは攻撃される瞬間にハチャメチャなスピードでコアを移動させてるみたい」
「わお、思ったより単純」
まぁそんなことはとっくに予想はできていたが。
ただ、ルナリアという魔力の専門家がそう断言してくれたおかげで俺の前に確かな正解が浮かび上がった。
「つまり……なんだ、コアが移動するスピード以上のスピードで刀を振れと」
答えも分かった。使用する公式も理解した。
だけどなぁ。
「控えめに言ってクソゲー……いやムリゲーだな」
無理はいかんよ無理は。解けない問題は俺よりも強いやつに任せろよ。なんで俺なんだよ。
……と、いう感じでいつもならそんなクソみたいない運命を恨んでいただろう。
だがしかし、俺のステータス上のコイツはまだ早いと言っている。
ステータスを開き、最早顔なじみとなりつつある職業枠の下に設置されたそいつに目を向けた。
そして呟く。現状を打破する唯一の頼みの綱と言っていい存在を。
「
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