第28話 占星術

「さぁて、お次のお次は……澪の刀の入手かな」


俺は右肩上がりのテンションに従って、さっさと次の行動に移すことにした。なんだかんだで自らのステータスに文句を言いつつもそこはゲーマーとしての性、心の奥底ではワックワクのウッキウキになっているのかもしれない。


よく考えたら異性の友達のために奔走するというのは中々に小っ恥ずかしいと思う18歳のオトシゴロな俺はそう思うことにした。


冷静になるとあまりにも自然に主人公ムーブかましそうになっていたが、俺にそんな願望はない。いやだって、澪といない時の戦闘はヒットアンドアウェイのゲリラ戦法だぞ?そんな姑息な主人公いてたまるか。


そしてそんな姑息な脇役は取り敢えずこの家の家主を探すべく、ベッドから降り部屋の扉を開こうとしたところで、スッ……と外開きの扉が静かに開いた。


「うおっ」


ドアノブを掴もうとしていた俺は音もなく起きたその現象に前のめりになり転びそうになってしまったが、寸前で耐えることに成功した。

ただ、勿論のこと勝手にドアが開くなんてこともなく、行き場のなくなって右手を引っ込めるのと同時に上を見上げると、中々に美人なお姉さんがいた。


「えっと……どなた様で?」

「そりゃあこっちのセリフだ。人様のお宅にお世話になっているのに自分から名乗らないのは不誠実じゃないのかね?」

「ま、それもそうか」


そこで言葉を切り、一度前のめりになっている体勢を整えてから自己紹介をする。


「俺も名前は真部 浩哉と言います。今回は死にそうになってるところを助けていただいてありがとうございました」

「いんや、感謝はリトナ……あの娘に言うといい。アンタを見つけてここまで連れてきたのも全部あの娘が選択したことなんだから。因みにアタシの名前は『ヴィオラ=シャルロット』。好きに呼んで構わないよ」


ふむ、好きに呼んで構わないときたか。それじゃあここで一つ、俺の夢を叶えてしまっても良いか?いや流石に初対面の人にこの敬称は……しかも男の俺が……やめとこ。…………いや聞くだけ聞いてみよう。


「ふむ、それじゃあちょっと感謝の印としてこんな呼び方はどうですか?」

「なんだい?聞かせてもらおうじゃないか」


俺のいきなりの畏まった態度に興味が湧いて出てきたのか、ニヤリと笑い案外ノリ良く聞く体勢になってくれた。


フッフッフッ、アニメを見てて密かに憧れてたこの呼び方。現実ではそうそうこの敬称が似合う人がいないので呼ぶのも憚れていたが……食らうがいい!

そうして俺はアニメであれば目がキラッキラに光るほどに目を輝かせながら、尚且つ悪い顔をしてそのセリフを呟くのだった。


「お姉様……どうです?」

「お姉様……ね。フッ、こんなアタシをお姉様と呼ぶか」


果たしてその呼び名がすこぶる気に入ったのか、フッとニヒルな笑みを浮かべてその言葉を口に出して再度言う。

そうして、カッと目を大きく見開いたヴィオラは肩をバシッ!と叩いて豪快に笑った。


「ハッハッハッ!!アンタ気に入ったよ。中々に敬意も持ち合わせていて小粋なジョークも使えるときたもんだ。アタシの好きな部類だ。アンタがここを離れる気がなきゃいつまでもここに泊めてやったのに」

「そりゃ、光栄ですね―――」


と、そこでヴィオラの言葉に妙な違和感が……ってこれ違和感どころじゃねぇぞ!?


「……なぜに俺がすぐにこの場を離れる気があるって分かったんですか?」


思わず、声が凄んでしまう。

ただ特にそれを不快に思った様子はなさそうで、素直にヴィオラはその答えを教えてくれた。


「これはリトナ以外に話したことはなかったんだが……まぁアンタになら教えてやろう。アタシのステータスのスキル欄、見てみな」


そうしてヴィオラは自分の前にステータスのウィンドウを展開させると、器用にもこちらに見えるように回転させる。

内心、「そんなこともできたのか……!」なんて驚きながらも、そのステータスのスキル欄を見ると、一つ、興味深いものが目に止まった。


「『占星術』……?」

「そう。それがアタシの得意分野だ。簡単に言えば星の組み合わせによってそれに関連した運命を見通せるって感じだね」

「でも星の組み合わせって……星見えないじゃないですか」

「そこはほら、このスキルを使うと解決さ」


そう言いながら俺の隣まで移動すると、とあるスキルを指差す。


「……『星詠眼ほしよみのめ?』


なんだか特殊な読み方をするスキルだが、その効果を確認しようとする前に、ヴィオラが口頭で教えてくれた。


「これは占星術スキルのスキルレベルを最大まで上げた時に入手した眼なんだがね。これさえあればいつ何時でも天空の星を見渡せることができるってことだ。ほれ、アタシの目を見てみ。夜空みたいな目をしてるだろ?」


言われるがままにその目を覗いてみると、確かに夜空みたいな色をしていた。

深く、沈むような、という表現がよく似合う色をした目を見ていると、なんだかその奥に何かがあるんじゃないかと思えるようになってくる。そして段々とその目に異様なまでに惹き込まれていき……


―――


「っぶなっ!」

「おや、あと少しだったのに」


すんでのところで一歩下がることで無理矢理その目から視線を外す。

特に何かされているわけでもないが、明らかにこれ以上見つめ続けていたらがこの身に降りかかると予測できた。


「なんか……とんでもない泥沼に足を踏み入れそうになった気がしたんですけど……何したんすか?」


少し警戒するような素振りを見せながらことの真相を問いかける。


「いんや、アタシはアンタのことが気に入ったからね。この目をやろうと思ってやったわけさ。ほれ、鏡見てみな」


そう言ってヴィオラはどこからともなく取り出した手鏡をこちらに向ける。


「なーんか薄っすら青くなってんな」

「最初はまだ相性やらなんやらが関係してるせいで色が薄いけど時間が経つごとに段々と濃くなってくはずだよ。自分のステータスを確認してみな」


そう言われて、俺はしかめっ面になりながらも素直にステータス画面を開く。

すると、確かにスキル欄の一角―――正確に言えば《パッシブスキル》の場所、技能強化スキル・ブーストの下に『星詠眼 Lv.1』の文字が追加されていた。


「……レベルアップ以外でもスキルを追加する方法とかあったんだ」

「ま、《眼》系統のスキルに関しては例外なところがあるからねぇ。大抵は本人の相性ってのが一番に重要になってくるが」

「ってことはこの眼と俺の相性は少なからず良かったと?」

「それが全くもって悪かった」

「……へっ??」


なんか言ってることが違うぞオイ。


「だから本来はこの眼の力にそのまま呑まれて廃人になるはずだったんだよ」


そこまで言ったのち、清々しいくらいに笑った。


―――イヤマテヨ。


「なんで?俺のこと嫌い?」

「そんなことはないさ。むしろ何度も言う通りアンタのことは気に入ってるだからこの眼をあげたんだ。それにアタシのこの占星術で問題がないって結果が出たからここまで遠慮なく、危険性を考慮せずに譲渡したってだけで一片でもその可能性があったらアタシだってそんなヤバいことやらないよ」

「ほんとぉ?」

「ホントホント。それに占星術の信頼度に関してはさっきのアンタのこれからやろうとしてたことを言い当てただけでも信じるに値するんじゃないかね?」

「それを言われたら……まぁ」


信じるしかなくなるな。

まぁ良いもの貰えたと思っとこう。結果的に特に何かしらの実害があったわけじゃねぇんだし。


「それに―――」


ヴィオラは唐突にそこで言葉を切ると、腰の辺りに付いていた味のある巾着袋を俺の前に見せる。


「まだ占星術を疑うと言うなら、ここからアンタの今一番求めてるものを出して見せてもいい」


今一番求めているもの?


「(そう言われて思い浮かぶのは……………………澪の刀?)」


そう言えばアイツは澪の刀は何故かこの家の家主が持っていると言っていた。恐らくあの落下中にカバンと一緒に体から離れたのだろうが……もしかして……。


「いや〜驚いたよ。まさか家の近くにこんなものが落ちてくるとはねぇ」


くつくつと笑いながらヴィオラはその巾着袋に片手を突っ込むと、明らかにサイズ感の合わない長尺の刀がズズズと姿を現した。





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