第一章第三節

第24話 生きたい青年は理不尽を嘆く

正直節の分け方は適当。

自分、細かくプロット書く質じゃないでござる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



そしてそこからは暫く歩きが続いた。

ただ、エルリアたちが目指している場所は実はあの川の位置からそれほど離れていたわけでもないようで、感覚的に……二キロくらいだろうか。それほど歩いたところで、ふと先導していたエスカは足を止めた。


「ここですね。この穴。この先をくぐると恐らく私たちの世界に繋がります」

「……ん?」


そこにあったのは、洞窟の入り口とも言える穴が小さな崖の一部分に空いていた。

ただ、ここで一つデジャヴュ。

なので一つ記憶を探ってみることに。とは言うけれどこんな洞窟の入り口みたいな穴に既視感を感じるほど見てきてない。

ので少しだけ思い返して見たこところ、そのデジャヴュの原因は結構すぐ見つかった。


「(あぁ……あれだ。あのスライムの穴。いやはや懐かしい)」


ついこの間みたいな感じだが、あの時から普通に数ヶ月は経過しているので「思い出」と呼んでもいいくらいには時間は過ぎている。


なんて感傷的になっていると、思わず置いていかれそうになってしまった。感傷に浸るくらいの時間はくれても良くない?

とは思ったが、あの時はまだ一人だったので今この指にはめられている指輪もあのメタルスライムも俺しか知らないのだから文句の言いようがない。


「変なの。こんなちっぽけな穴が二つの世界を繋いでるなんて」

「ま、まだ違う世界という確証もないから実際そうなのかも分からんけどな」

「浩哉は夢がないね。異世界モノのやつ読まないの?」

「自分が勇者になって旅をするよりも、その仲間になって勇者の旅をともにする魔法使いの妄想ならしたことあるぞ」

「浩哉は魔法使いというよりも戦士。避けタンク」

「ハハッ、違いねぇ」


仮にも現在進行系で世界をまたいでいるというのにも関わらずこの普段と変わらない点については美点にほかならないだろう。というか逆にこの状況で澪が緊張で震えてたら笑える。いや逆にこの状況で仏頂面を貫いてた女の子がいきなりビビり散らかして主人公に引っ付くようになったらヒロインの才能があると言っても良いかもしれないな。


そうしてそこからはエルリアも交えて雑談をすることに。

その間になんだか不意にエルリアの官能小説が頭を過ぎったが、それを容赦なく俺の中の天使がモーニングスターを使って粉砕していった。……なんでモーニングスター?


そんなこんなで移動時間を有意義に潰し、数分後。

ポツン、と今度は今この状況では恐らく真っ当であろう疑問が浮かんできて、それを特に歪曲したりもせずまんまそれをエスカに伝えた。


「エスカ、なんか……これ長くない??これどんだけ続くの?後ろの入ってきた穴から入る光が結構小さくなってきてるんだけど」

「あと少しです」

「……進行方向から光が見えないのにどうして少しと言えるんだよ……」


言っていることと目の前の現象の差異が思わずため息を出させる。

正味、もう殆ど光はない。

話し声だけはこの空間に満ちているものの、逆に言えば人間の五感で感じ取れる情報がそれだけしかないことに、いかにこの空間が暗闇で満ちていることがわかるだろう。


そしてとうとう、背中側にあった一筋の光さえも消えて無くなった。


「(んー。エスカは後少しというもののこの暗闇の中だと暗所恐怖症じゃないけどそこそこ恐怖は感じてくるな。《予測補助》で残りの距離とか予測できないかな?)」


そうして、一応スキルは発動させてみたものの、流石に何も情報を得ることができないこの暗闇の空間では視覚によるサポートが入らないため予測のしようもない。


「(……だったら視覚以外の……それこそ聴覚なら大丈夫なんだから音でも出せば―――)」


と、そこまで考えたところで、ふと不思議に思った。


静かすぎるのだ。


それこそ、


「あー……これもしかしなくとも。……澪、いる?」


返事は……ない。

あっ、これ詰んだわ。





















「……い…………いや待て待て待て!今まで一緒に歩いてたはずだろ!?一体どうしてこんなことになった……っ!」


いきなりのことに思わず思考を放り出そうとしてしまった。流石の俺でもこんなことが起きてしまったら動揺せざるを得ない。

ただ、この魔物蔓延るこの世の中。何が起きようとも不思議ではない。寧ろこんなシチュエーションで何も起きない訳がない。


そう考えると……妥当な展開か?


「いやいやいや。そんなことは望んじゃいない。さっさと悩みの原因を澪と一緒に解決してさっさと櫂と合流するつもりだったんだけど……。なんだ?まさか嵌められたとかいうオチじゃないだろうな」


《予測補助》を起動させたままなのであらゆる憶測が脳内を駆け巡る。

しかしこんなことを考えていても何も起きない。当たり前だ。何も行動に移してないんだから。


「……取り敢えず動くか」


奇しくも旅を始めた最初の頃と同じように一人っきりになってしまったが、不思議と寂しさは感じない。それほどまでに以前の一人暮らしが慣れきってしまっていることになんだか虚しさを感じてしまったが、自分でその道を選んだのだから悔いたって仕方がない。


起動させたままの《予測補助》を切り、一度だけステータスのウィンドウを展開させる。


「49……うわぁ勿体な。56減ったってことは56秒も使い続け……あれ?」


ここで更にまた疑問が湧いて出てきた。


「なんで頭痛が起きなかったんだ?」


おいおい、こんな変な状況に陥っている今、また考える必要のあること出さないでくれよ。あー!もういい!あとだあと。取り敢えず光が欲しい。


今はとにかく一つの目標だけを追い続けていたい状態なので、スキル関係についてはスルーすることに。そして今の目標はこの何も見えない気が狂いそうな暗闇空間からの脱出。

そのためには歩くしかない。幸いにも壁はあり、そして一本道なのだから迷う必要も一切ない。

こればかりは幸いとも言えるだろう。


「(ここがもしも一本道じゃなくて迷路的な感じで道が入り組んでたらそれこそどうにもならんかったよ)」


ただそのことを幸運と言うつもりはさらさらない。

だってさっきまでずっと一緒にいたのに謎の力で隔絶されたのだからそれ自体がもう不幸だ。不幸属性はいらんぞ。男の不幸属性は需要はないのだから……。


なんだかんだで心に余裕を持ちつつも、俺は歩き始める。


一歩踏み込み、そして二歩目。


……そう、この二歩目。これから何が起きるか、はたまた何も起きないのか。そんな不安に駆られながらも勇気を出して踏み出した二歩目。


この数秒後、俺はもっと慎重に行動すべきだと後悔した。


「は……?」


足場が、ないのだ。

そして勿論、当たり前だがここは重力が存在する場所であり、足場を失った人間は必然的に、


下へ下へと、落ちていく。


「はぁぁぁぁあああ!?」


喉の奥から湧き出る絶叫。

辺りは暗闇なので、視界の変化というものは一切ない。内蔵が浮き上がるような気分の悪くなる浮遊感だけが、落ちているという事実を脳内に叩き込んでいく。

一度手足をジタバタさせてみるが、どこにも当たる気配すらもない。


さて、ここで問題だ!

人間唐突に突拍子もない出来事に遭遇したらどうなるか!?


「(正解アンサー、思ったよりも冷静になれる。なんだかさっきの絶叫が自分のものじゃないみたいだよ)」


四肢を宙に投げ出しながら仰向けの状態でただひたすらに重力に従って落ちてゆく。


このまま何が起こるのかな。まぁ漫画知識を元に考えたら順当にいけば空へと投げ出されるのだろうか?

なんて想像していると、突然に変化は訪れる。


「んなぁっ!眩しっ!!」


ピカッ!と視界が白く染まった。その突発的な出来事に反射的に俺の左手は両の目を覆い隠す。

ただそれに追いつくように、俺の意識にはさっきまでなかったある二つの感覚が瞬く間に飛び込んだ。

一つは背中を圧迫するような服を靡かせる力に、もう一つが強風が起きる時特有のくぐもった音。


その限られた少ない状況だけで、俺の優秀な脳みそは今俺の身に起きていることの一切を瞬時に理解した。


―――


「ハッ―――」


思わず、と言った様子で、俺は光で痛む目を手のひらで覆ったまま、間欠泉の如く湧き出る気味の悪い笑みを控えることもなく、それよりも解き放つように声高らかに叫び散らす。


「ハッ!ハハッ!はっっはあっはははははっっははっははっはっ!!!!これが笑わずにいられるかよ!!いくら予想してたからって、馬鹿げてるなぁ!!」


だがここで勘違いしないでほしいのは俺がこの馬鹿げた状況に思わず笑っているのではなく、この


何度でも言おう。

俺は生きたいんだ。


そんな俺にこんな仕打ちをするとはこれ如何に。一体前世でどんな悪行を重ねたら世界が俺を殺しにかかってくるのだろうか。だが世界に怒りを抱いたってしようがないのは確か。かといって自分に原因があるわけではないのは当たり前。


この行き場のない怒りは一体どうしたら良いのだろうか?


「(あーあんなこと考えるんじゃなかった。というか今思い返したらあのピンク色の汚らわしい思考が全部悪いんじゃないかと思えてきた。まぁそんなわけないんだけど)」


こんな状況でも俺は至って冷静である。だが勿論それは俺が生きることを諦めたからではない。逆にこの絶対絶命の状況から生き残るためにどうしたら良いのか。正しくそれを導き出すための冷静だ。


「……そろそろ目も回復してきたな。さてさて、そろそろこの世界の全貌でも拝んでやろうじゃないの」


目が潰されてからここまでに経過した時間は十秒前後。

まだ余裕はあるはずだ。流石に十秒で地面に落ちる程度の微妙な高さから落とされたら世界を恨むぞ俺は。


そうして、とうとう俺はその世界を視界に収める。

果たしてその目に映ったものは……。





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