第19話 目覚めの護衛

遅れあそばせ。

ついでにご報告でのキャラ紹介を近況ノート枠で更新したのでそちらもご確認ください。



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夜は明けて翌朝。俺はこの日、久しぶりにかけがえのない友に向けて尋常じゃないほどの殺意を覚えた。そりゃあもう、この世界がもしも漫画の世界だったら額に十字のマークが刻まれて血管も浮き出ていることだろう。いや、もしかしたら血管くらいはもう浮き出ているのかもしれない。


「どうしたんですか?ヒロヤ。なんだか凄い顔してますけど……」

「大丈夫、浩哉はたまにこうなる」


そんな声が聞こえて、ハッとなった俺はようやくスマホの画面から目を離した。

そしてそのまま澪に問いかける。


「……なぁ、澪」

「ん、なに?」

「お前ソシャゲしたことあるか?」

「結構やってるほうだよ。というか受験勉強してた私にとって数少ないストレス解消方法の一つと言っていい」


そう言って、澪は自分のスマホのとあるアプリを開いて見せてきた。


「おぉ、結構やり込んでるな」


見せてきたそれは、世界でも有名な日本の会社が作ったゲームで、課金要素がありつつも、ストーリー、キャラデザに秀でた、『神ゲー』と分類されるゲームの一つだった。因みに俺もそのゲームはやったことはあるのだが、俺自身ゲームは広く浅くプレイする派なので、それほどやり込んでいるものは殆どない。


「ま、そのゲームを使って一つ例え話をしよう。例えば、まぁそのゲームにも『人権』って呼ばれるキャラがいるだろ?持ってるだけでゲームを有利に進めるキャラ」

「そうだね」

「ただそのゲームでは特にキャラによって性能に大差があるというわけじゃなく、育成次第ではどんなコンテンツもキャラ一体で完封できる。まぁそれがそのゲームの醍醐味と言える要素なんだが」


そこで一度口を閉じてから、スマホを持ち続けたまま太陽を見上げた。

だが、あまりの眩しさにすぐに手でその太陽を覆い隠してしまう。


「例え……そう、これはただの例え。……もし……もしも、だ」


そうして俺は怒りを募らせた原因である写真を澪に見せつけた。


「自分がずっと欲しがっていた人権のキャラが初心者限定の無料十連ガチャで友達が簡単に出してそれを自慢してきたらどうする?」

「…………」


そこに写っていたのは櫂が彼女である奏音の作り出した氷生成系のスキルで作った氷をかき氷にしている写真だった。しかも、『奏音のスキルの最適な利用方法が見つかる』とかなんとかのメッセージ付きで、だ。

そしてそれを目にした澪は、傍から見てもわかりやすいくらいに一瞬で眉間にしわを寄せ、負の感情をありありと表面上に映し出していた。


「私、ここまで見ず知らずの赤の他人に苛立ちを覚えたのは初めてだよ」


まさか櫂も俺一人だけを狙って撃った玉が知りもしない人間に当たるとは思わなんだろう。

さて、俺がここで例え話を通して澪に伝えたかったのは……


「自慢してきたら自慢し返す。これ常識だよなぁ……!ちょいと失礼」

「えっ?」


先程から俺の話を必死に理解しようとしていたエルリアは、唐突にスマホのレンズを向けられてキョトンとした表情をする。

そして、パシャリと軽快な音がスマホから聞こえてきた。

勿論その音はスマホのカメラでエルリアの姿を収めた音で、ただ、明らかに地球育ちでないこのエルフお嬢様であるエルリアからしたら、その謎の音がなった小さな板状のなにかを眺めているだけだった。


……その写真が何に使われるのかも知らずに。





















結局その後、暫く待ってみても既読がつかなかったのでスマホを画面を見るのは止めることにした。こんなご時世だからバッテリーも有限というのが中々に我ら現代人にとっては痛いところ。澪なんか一日に一回はスマホを取り出す度にゲームができないと嘆いている。


ただ、俺がスマホから目を離したのにはもう一つの原因があった。


「うぅ……んん?」


昨日から熱中症で寝たきりだったもう一人のエルフが目を覚ましたのだ。


「エスカ?」

「お、嬢様……」


朧気な瞳がまず最初に捉えたのはやはりエルリアで、やはりそこは優秀な護衛だからか、それとも一番に聞こえた声に従っただけだからなのか。結構近くにいる怪しい人物にはまだ意識がいっていない様子。


「大丈夫、少し横になっててくださいね。今からお水を持ってきますから」

「い、いえ……。いつまでもお嬢様にお世話になってるわけには、いきませんから」


ただ、それでも手を煩わせまいとする気概は見て取れる。

……護衛が熱中症でやられるのもどうかとは思うけど。


水を川まで取りに行ったエルリアの代わりに、仕方無しに俺は目の前のエルフをなだめることにした。


「いやいや、休んどけって。熱中症で一日中目が覚めなかったんだから結構重症だったんだぞ」

「そう、私たちも結構心配した」

「一日中……そんなにですか」


そうして、何か考え込むようにして黙り込んでしまった。

目線は、こちらには向いていない。

そのことに、疑問を感じた俺はすぐさまそれを解消すべくエスカとエルリアが言っていたエルフに一つ問いかける。


「なぁ、一つ聞いていいか?」

「……?なんでしょう。お嬢様のスリーサイズとステータス以外だったらなんでも答えますよ」

「……その理屈で言ったらお前のスリーサイズはオッケーなのかよ」

「知りたいですか?」

「いいや、遠慮しとく」


中々ユーモアに富んだ人物のようで。

ただこんなことを話していたらいつまで経っても本題に入れないので、話を戻すために一度、わざとらしく咳払いをする。


「んで、聞きたいことなんだけど……ぶっちゃけ俺ら結構怪しくない?」

「まぁ……私からみたらそうですね。記憶が途切れる直前にほんの少し視界に入った程度ですし」

「じゃあどしてそんな怪しいやつを見て何も動じないのさ。それが俺は不思議で仕方がないんだけど」


そりゃあ個人差はあると思うのだが、どうしても護衛などという大仰な存在を認識する手段が我々には漫画やアニメ等の非日常を描いたようなものしかないために、俺の中の『護衛』というイメージは、お嬢様を守るためなら己の命捨ててまでも!という感じだったのだが……。


ただ、エスカは俺のそんな心まで読み取ったのかは分からないが、クスリと小さく笑ってこちらの疑問に答えた。


「確かに、そうですね。こんな朦朧とした状態では近くにお嬢様がいなかったらまず最初に見たあなたたちに危害を加えていたでしょう」

「と、いうと?」

「私はお嬢様を信じています」


ハッキリと、一切の淀みのない言葉を言い放つ。


「お嬢様に危険がない。寧ろ今の環境で安心している。それだけでも私があなたたちを信じるための十分な材料になります」

「あ、だからまず最初にエルリアのこと見てたんだ」


澪もそのことに注目していたようで、同時に俺もエスカの言葉に深く納得をした。


「なるほどね。確かにこりゃあ護衛だわ。朦朧としてるくせにそこだけは決して怠らないんだから。ただ逆にあの場に丁度エルリアがいなかったらと思うとまぁ恐ろしいな」

「だね」


果たして、俺には目の前の護衛の名を貰っているエスカがどれほどの力を持っているのか、そんなのわかりようがないが、それでも自信を持って「危害を加えていたでしょう」なんて言うものだから、それが例え虚勢だとしても、それ込みでこの護衛のエルフはとんでもない強さを持っていることを実感させられる。


「……危害を加えていた……、じゃあないんだよな」

「えぇ、、です。こうじゃないと種族の姫の護衛は務まりませんよ」

「さすが」


その物言いに俺は感嘆の声を漏らす。

俺もいつかそんなことを言えるようになりたいもんだ。

少なくとも、生きたがりの俺にはそんな自信はない。ただ……もしもあの時の俺にそれほどの自信があったら今も櫂と一緒にレベリングとかしていただろうな。





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