第17話 川の浪漫

〔前書き〕

ご報告ー。最近近況ノートにキャラ紹介を載せてみたよ。初回は主人公である浩哉を。是非に見てみてくださいねー。


あとついでセルフレイティングというものの『性描写有り』……追加してみたんだよねぇ。こういうの嫌いだよって方は前話で分かったと思うけど自己責任で。

ただ俺はこういうの物凄く好き。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


しばし、俺らの時が止まる。

ただこんな状況でも当たり前にセミは鳴き続けるし、目の前の一糸まとわぬ長耳の美少女が浸かっている川の流れだって止まることはない。天地がひっくり返るか大寒波が来て川の水が全て凍りでもしない限り止まることはありえないだろう。


「き……」

「……ぁ」


その瞬間、俺はあることが脳内に浮かんだ。

大抵、どんな漫画でも決まってこういう場面に遭遇したらこの先は……


「きゃあああああああ!!!!」

「ですよねー」


勿論その少女による声の高い、ソプラノの悲鳴である。

こんなん漫画でしか見たことなかったよ。てかこんな現象主人公補正があって初めて成り立つもんだろうよ。

なんて心の中で悪態をつくが。ただ、その漫画でよく見る場面と現実の世界での違う点として一つ挙げるとするならば、



そんなことすら気にならないほどに判断力を鈍らせる夏の暑さが存在していることである。



「澪、俺はちょっと離れたところで川に飛び込んでくるから目の前のエルフ?っぽい人の対処よろしくー」

「ん」


あくまで己の第一優先は裸の美少女ではなく、その足元にある潤沢な水だ。それを見誤ってはならない。

澪のその一文字を肯定と受け取った俺はさっさとその場を離れようとするが……


「どう……なさいましたか……お嬢、様……」


急展開も良いところに、その悲鳴を聞きつけたであろうもう一人のエルフの人がフラフラの状態で現れたその数秒後、石の敷き詰められた河原にゆっくりと倒れ込んでしまった。


「エスカ?……ちょっとエスカ!?どうしたの!?」


すると今度はその一端を視界に収めたであろう美少女の方のエルフの人が、外目を全く気にせずに声を荒らげて倒れた人へと近寄っていった。


「…………浩哉、あれもしかして……」

「まぁ、もしかしなくとも……だろうなぁ」


鈍った判断能力を持ってしても、唐突に現れたエルフの人が倒れた原因は容易に想像がつく。


「んまぁ、日陰に寝かせて濡らしたタオルを脇とか頭に載せたらすぐに復活すんだろ。あくまでそれは人間に限った話だけど」

「同じでしょ。見目は殆ど同じなんだし」


そう結論づけた澪は、今にも倒れ込みそうなフラフラとした足取り―――先程からずっとこんな様子だが―――で、うんともすんとも言わない倒れエルフに本格的に顔を青くしている美少女エルフの方に近づいていき、


「まーまー、この人は浩哉がなんとかするから」

「えっ!?ちょ、ちょっと……!!」


脇に手を突っ込んで両手で身体を高速したのち、半ば引きずるようにして川に一緒に行き……騒ぎ立てるエルフとは対照的に澪は静かに入水自殺の如く川へと沈んでいくのだった。


「……アレ、結構水深深いのな。そこそこ背のある澪が肩まで浸かってら」


170後半の俺よりも少し小さいくらいだから170あるかないかの、女性としては結構背の高い方の澪がギリギリ肩まであるってくらいだから……一緒にいたエルフさんは……


「…………流石にそこは考慮してるよな。いや、直近の澪は暑さでやられてるから……どうだ?」


平生の澪では全くもってそんな心配はないが、果たして。

ただ突っ立ってそんな事考えても事は何も進展しないので、取り敢えず石の上でうつ伏せになって倒れたこのエルフその二の介護をすることにした。


まず第一に、こんな石の上にずっといたら可哀想なので、少し離れた木陰の元、草の上にお嬢様抱っこの容量で運んでいく。

そしたら次は背負ってたバッグの中に幾つか入れ込んでいる中くらいのサイズの白のタオルを何枚か取り出し、川に近づいてタオルを浸す―――


「…………」


だが川の前に行くと、暑さで朦朧とした頭に先程澪が入水自殺―――正確には全くもって違う―――していった光景がフラッシュバックした。


「(服は後で乾かせばいいや)」


普段なら躊躇するような決断に、今回に限っては時間は全然かからなかった。


川に靴のまま一歩、また一歩と入り込む。

そして六歩ほど歩いたところで、身体の向きを180度クルッとターンして……お尻、背中、頭の順番で川の浅瀬の場所で冷たい水に身体を浸らせた。


「あ…………あぁぁぁああ。つめてー」


全体的に火照った身体にその冷たさが芯に響く。

その瞬間なんとなく小学校の時の着衣水泳の授業を思い出したが、今思い返してみれば服を着たまま水に浸かる経験はその時しかなかった気がする。一人暮らし時にもこういったことはしてこなかった。


「(服を着たまま川に入るなんて考えつきもしなかった)」


それが今ではこんなことを躊躇なしにするものだから、世界が変わったから俺も変わったのか……それとも―――


「……個人的にはもう一つの方だったら良いが」


その場に本人がいなくとも、口に出すだけで恥ずかしいので言わないが。


ただ、少しばかり恥ずかしいが……これなら言えるな。


「あの時の俺の選択は間違ってなかった」


その言葉をきっかけに、俺は身体を川から出す。

ストレングスの値がレベルアップによって上昇したからか、服に吸収された水の重さが俺の行動を阻害することはなかった。





















その後は、水を含ませひんやりさせたタオルを額、そして両脇に挟み込ませてその隣に腰を下ろし、経過を見る。

ただその途中で、どうしても水が含んだTシャツとズボンが煩わしく感じてきたので、例の服屋からくすねてきたもう一つの服に着替えることにした。


「いやしかし、一度身体を冷やしたとはいえ……日陰にいるとはいえ、それでも暑いなぁ。そりゃこんな状態だったら熱中症にもなるわな」


着替え終わって服を木の枝に引っ掛けた俺は、その人の隣に腰を下ろしながらそんなことを呟く。


現在時刻午後4時くらい。

おやつの時間を容易に越え、もうそろそろ日も傾いてくるかな、みたいな時間になっても暑さが弱まることはなかった。

だがほんのちょっとずつ弱まっているのは事実。


「今日はここで泊まりかな」


川もあるし、水には困らない。

乾いた喉を、これまたどこかでくすねた水筒に入った水で潤しながら今晩のご飯について考えていると、ふと頭上から自分を呼ぶ声が聞こえた。

ちょうど水筒で姿が隠れていたが、声から察するに澪だと分かる。


俺は水筒を少し横にズラして澪の姿を視界に捉えようとしたところで…………


「ぶっ……!!べホッ!!!!」


まさかの澪の姿に思わず飲んでいた水が変なところに入って大きくむせてしまった。

いや、だっておかしいだろう。



「……………………なんで裸なんだよ」



とかすれた声でツッコミつつも、視線は澪の身体に釘付けになっている。

この時点で、目を瞑ってゆっくりとタオルをかけるデリカシーがない自分に嫌になるが、いったい全国の男子高校生でどれだけの人数が真なる紳士でいられるか。

だが、せめてもの足掻きで視線を澪の顔に戻すも、そのふっくらとした胸の柔らかいものも、腰のスラリとしたクビレも見ていたのは相手にはハッキリと認知されていたようで、視線を顔を戻したときにはほんのりと顔を赤くして、


「……えっち」


と言いながら胸と局部辺りを手で隠した。


そのいつもの澪からは感じたことのない新鮮な様子に、とうとう耐えられなくなった俺は顔を手で覆い隠しながら伏せて、何も言わずいバッグから余りのタオルを差し出したのだった。





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