第9話 イレギュラーは唐突に

目が覚めた俺は、取り敢えずその日は家に帰ってもう一度寝ることにした。

その日は、頭の中が様々な思考で回りまくっていたが、不思議なほどにぐっすりと眠れた。


そして次の日、久々にステータス画面を開いた俺は思わず叫んだ。


「結局レベル上がってねぇのかよ!!」


……と、大音量で叫んでいるが、実はこの原因を俺は知っている。


「《観測者オブザーバー》の取得経験値激減は知っていたけどまさかこんなにも減らされるとは思わないじゃん!んだよ《99.89%》ってぇ!!」


相応の力を持っている職。故にこの観測者という職は一点のメリットを圧倒的に覆してしまうほどの莫大なそれ相応のデメリットも存在している。一応この職も一次職らしいし、いくら転職条件が厳しいと言えど……いやでも……流石に……。


「いやまさかこの『取得経験値の激減』……流石に2.9のパーセントは超えるとは思うじゃん」


正確に言えば、このこの職はこんな簡単なものでもないが……

説明欄にはこう書かれていた。



観測者オブザーバー』 《一次職》

効果:『理解度シンパシーゲージ』の取得


必要スキル:なし

必要ステータス:Lv.1 STR:30、AGI:70、DEX:40


※補足

理解度シンパシーゲージ:相手との戦闘時に取得できる経験値の大半を、代わりに理解度として溜めることができる。100%に達すると、相手の弱点や好み等の情報を半強制的に取得する。100%を達しても戦闘を続けた場合、それは理解度ゲージに過分に蓄積される。150%に達すると、相手の記憶を取得でき、200%に達すると、相手の経験やスキルの模倣が可能となる。模倣されたスキルは、スキルレベルを上げることで、自分のものへと昇華することも可能。昇華する前のスキルは一定時間使用しないと消失する。



……いや大半とは書かれていたけどさぁ。

いやだって溜まった経験値二パーちょいだよ?いくらなんでもさぁ……


「……こんだけウジウジしてても仕方ないか。得られたものが全く無いってわけでもあるまい」


そう言いながらも、口に出してもなかなか気持ちの切り替えができない俺は自分の右手にの親の指につけられた鈍く輝く灰色の指輪を見つめることにする。


「銀……ではないよな。鉄色てついろ?いや、黒鉄色くろがねいろっていうんだっけ」


あれ、鉄色ってこんな色だったっけ……?なんかもっと緑色っぽいやつだった気がする。


「……まぁいいや。ただこれの正体を知る術も今の俺にはないし、恐らくこの世界にも鑑定スキル的なやつも存在しているんだろう。その時に知れたら良い」


櫂からはそういった存在の報告はないが、素の力で物の能力値をみるウィンドウを見れないのなら、きっと別途でできるということ。流石に「使っているうちに勝手に把握してください」ってほど神様も無慈悲な訳がないだろう。

この混沌とした世界になった代わりにステータス画面を人類に授けたのだから、例えこの今の現象が神様にとっての道楽だとしても俺らはその神様に感謝せざるを得ない。そのお陰で今の人類は生きていけているようなものだし。


それに―――


「現代の銃火器があのメタルスライムに効くとは思えんしな」


もし、この世界にいる初心者向けのモンスターがフィクションでよく見るゴブリンだとしたら、その命を断つには火薬と銃弾で十分だろう。

ただ、もしもこの世界をまんまゲームに置き換えるとしたら、レベルの低いモンスターから現れ、主人公の成長に合わせて段々と相手のレベルも上がっていく。……が、勿論この世界はゲームに似ているど言えど、それは決してゲームではない。舞台さえ違っていれば、それは一昔前に有名になったただのデスゲームに過ぎない。

そしてそんな世界は当たり前だが出てくるモンスターのレベルが順々になっているんなんてことはまずありえない。

冒険に出て一瞬で裏ボスと遭遇なんてことが現実ではありえるのだ。

だから俺は早急に格上と戦うと逃げるの選択肢を自由に取れるためのスキルが欲しかった……んだよねぇ。


「はぁ……どうすっかこれ」


一人、途方に暮れる。

勿論その瞳が移しているのはなんとも微妙な99.89%の数字だけ。


「何回か実験したけどスライムの取得経験値が0.02を超えることはまずない。そして仮説としてこれをモンスター全体での最低取得経験値だとするなら、最低でも……最低でも!……6匹倒せばレベルアップ」


最低でも、これ重要よ?

ただここで俺の目の前にゴブリンとかが現れて、そんで倒して、そして見てみた経験値が《99.893%》とかになってたら俺もとうとうブチギレる自信がある。


「そろそろ……潮時かな」


これ以上この場所に時間をかけてはいられない。

前に櫂のところに行こうとしてからゆうに二週間は経とうとしている。

流石にね、って話よ。


「これ以上櫂を待たせるのも悪いしな。それに小数点以下までの必要経験値なんだから向かっているうちに倒す雑魚で多分レベルは上がるだろ」


そうと決まったら―――


「最終準備、するかー」


とうとう俺はこの家を出るのだ。覚悟は結構前に出来ている。



















そして翌日。

その日は朝からよく晴れていて、熱くなりつつある今の季節では、もう長袖では朝でも熱く感じてしまうほどだ。


「持ち物最終確認で、キャンプ道具は……やっぱかさばるから要らんとして……金も……この際もう要らんか?ペットボトルはその辺の川で汲んだ綺麗なやつを二本と携帯食料。あとは……キャンプ道具抜いた分で予備のサバイバルナイフでも入れておくか」


大きめのリュックを前にブツブツと呟きながら何回も確認した中身を最終チェックしていく。

少し時間はかかったが、その中身は水入りペットボトル二本、携帯食料三週間分、サバイバルナイフの予備二本という感じで収まった。


「よしっ!荷物はオールクリア。正真正銘の準備完了。……行くか」


必要最低限の物が入ったサイズが大きめのリュックを、軽い動作で背負う。


浦和までの道のりはマウンテンバイクで行くつもりだ。

今はどうせ電車も止まっているだろうし、こんなご時世でもタクシー走らせる馬鹿野郎勇者も多分いないだろう。

なんだかんだでこの辺りから少し歩いたところに舗装された道もあるからそこからスマホのGPSを利用していければいい。あぁそうだ。スマホも充電できなくなるから持ち運びのバッデリーもいくつか必要か。

そう考えて、俺は自分の部屋からいくつかあるバッデリーを持ってきて、それを全てリュックの中に入れ込む。幸いにも殆ど充電は100%だったし、使いすぎない限りは半年くらいは保つと思う。


「……これでほんとに準備完了だ。……景気づけとして自分のステータス覗いてみるか?」


ほら、物語でもこういった場面は章の終わりとして最後に主人公の能力を差し込んでるじゃん。今回もそんな感じで―――


そう思って、ステータス画面を何も考えずに開く。


 ――――――――――――――――――――

真部まなべ 浩哉ひろや Lv.1《99.89%》


職業 《観測者オブザーバー


HP:45 MP:0

STR:31(+50)

VIT :25(+550)

DEX:49(+50)

AGI :78(+50)

INT :32(+50)


ステータスポイント:100


《スキル》



《称号》

・絶級ダンジョンの完全攻略者

・『鋼鉄の英雄』と絆を結びし者


 ――――――――――――――――――――


「……………………………………は??」


……行くのは、明日にしようかな。





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