第6話 近づきつつある目標に付随する別れ

「う〜ん……どうすっか」


そのまた翌日。

経験値を《97.1%》まで上げた俺はとあることで頭を悩ませていた。


「職業……かぁ。……やっぱ多すぎね?普通十種くらいだろこれ……」


ステータス画面よりも少しだけ上下の幅が大きい選択肢の窓を二本指で二回ほど下にスライドさせてから『職業欄』の一番上まで戻る。


一行目に書かれてあった職業は、『剣士』、『弓使い』、『盗賊』、『槍使い』、『僧侶』、『軽戦士』、『狩人』、『猟師』の八つ。

下にもズラッと名前が書かれており、中には調べないと出てこないようなニッチな職業まで存在している。……なんだよ『ホスト』って。……しかも「異性との好感度の上昇率増加」って地味にスゲェな!


ただ、下に行くに連れて選べる職業にも条件が追加されており、必要なスキルだったり能力値が設けられているものもある。

これなんて凄いぞ、


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


皇帝エンペラー』 《5次職》

効果:自分より総合ステータスの低い生物への強制命令権の所有。


必要スキル:『王の器』

必要ステータス:Lv.150以上 INT:100000以上


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「果たして将来このスキルを取れる人間は現れるのか……」


櫂でさえついこの間レベル10に到達したばかりだというのにレベル150て。

……だが、よくよく考えたらレベル10と言ったほうが正しいのかもしれない。


今日になってこの世界になってからもう既に一週間は経とうとしている。

「まだ」一週間。「もう」ではない。

弱肉強食が極限化したような世の中では、人間同士で、互いに協力しあい、研鑽し、己の実力を高めていく。そんな世界ではレベル10なんてそれこそあっという間だろう。


「ハッ!そんな世の中で毎日頑張ってんのに未だにレベル1の俺は一体なんだって感じだが」


流石にここまで努力が実らないと弱音の一つも出るものである。

だがそんな生活も恐らく今日で終わり、こんなに苦労したのに得たスキルがショボいもんだったらとうとうあのメタルスライムに挑んでやろうか。


「……っと、そんなことは置いといて、今は職業こっち職業こっち


そういう訳で改めて色々と見てはいるが、流石にこんなにも量があると決めるのにも時間がかかる。流石にここにある職業全てが現時点で選択できるわけではないし、それに今の俺はレベル的にも《一次職》しか選べないのだから、実際にはここに書いてある十分の一ほどでしか選択権はないのだ。

それでも、多いには変わりないのだが……。


「しかも一個一個押して概要から一次職かどうかを確認しないといけないから効率悪いのなんのって。……ホントにゲームの最初期みたいな状態だな」


このシステム設計した神様みたいな存在が今の俺の状況を見ているのなら是非にもっと見やすくなるよう検討してもらいたい。


なんてことを心の中で両手を合わせて祈願しながら職業をパパッと見ていると、

一つ、興味深い職を見つけた。

最初はただ単にその名称に興味が引かれただけだったが、概要を覗いてみると思わず、自然と笑いが込み上げてきた。


「………………ハハッ!いやなんだこれ!バグだろバグ。設定ミス。いやだってあまりにも……!」


あまりにも


「STR:30、AGI:70、DEX:40。そして……この『必要ステータスLv.1』。以上とも記載されてないことから。恐らくレベル1でないとこの職業は得られない。つまりということ。ハハッ……!これは天啓か?」


自分で言うのもなんだが、これはつい最近知ったことだが俺のこの初期ステータスは中々に高いほうらしい。それも最高クラスで。

そしてこの目の前のこの職業はその最高クラスのステータスを要求している。


「……ここで選ばなきゃゲーマーじゃないよな?」


そうして俺はその職を再度タップし、『この職業で決定しますか?』の問いとともに現れた『Yes』『No』の選択肢の中、迷うこと無く『Yes』を選択した。



















「いや〜もうそろそろここともお別れか。愛着湧いてきたから別れが悲しいよ」


朽ちた倒木に腰掛け、自分の周りをぐるりと一周する。

特段それといって大きな手は加えていないものの、他の誰もこの場所に来たことがないことから「自分のもの」という考えが脳の奥底で生まれてしまっているよう。


暫くの別れということで、その場所にはいつもよりも長く居座った。もうそろそろ夏も近づきつつあるこの日本、少し動いただけで汗ばむということはないものの、スライムを狩り始めた最初期に比べて随分と汗をかくようになった。


「……さて」


持ってきた水筒の中の水を一口飲んで、ゆっくりと立ち上がる。


「行くか」


狩りの邪魔になるので水筒は一旦倒木の近くに置いておく。この行為もここ最近毎日行っていたことだ。そんな小さなことももうやらなくなると思うと、なんだか感傷的になってくる。

俺という人間、自分でも傷つきやすい心の脆い人間だということは理解している。だからこそ、別れもなければ出会いもないこんな場所に住むことを決めたのだから。

そうして俺は歩く。


歩いて、歩いて、歩き続けて―――



ふと、俺はその途中である違和感を感じた。



……いや、正確に言えば家を出た瞬間からその違和感は抱いていた。それがその穴に近づいていくに連れて段々と大きくなっていく。


「(スライムの数が少ない?……いや違う。少ないんじゃくて……んだ」


今まで弛緩していた己の中の空気が一気に引き締まる。

以前まではその場所に向かうまでもそこそこの数のスライムと遭遇していた。それこそ無視するレベルにまでいたほどだ。


静寂が、余計に緊張を高めていく。


過度な緊張はコンディションに悪影響を与えると言うが、適度な緊張を与えたほうがより良いパフォーマンスを発揮できる。


ふとそんなことが思い浮かんだが、こういった命が直接関係してくる場面では過度なくらいがちょうどいいのでは…………と、そんなことを思っているうちに目的の場所まで辿り着く。


「(……やはりいない)」


心の中で小さくその言葉を呟くが、実際にはその言葉には大きな語弊が存在していた。スライム自体はいたのだ。

ただ俺の探していた目標のスライムは、あの泥のようなスライムだけ。


……目の前のあのメタルスライムは望んでいない。


「(おかしい。普段は一定以上のスライムを倒したら穴から出てくるはずだ。それが今回に限っては最初からいる……。しかもたった一体だけで)」


……さて、どうしようか。





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